五章 十五話 心中
卓上ボーリングが完成した翌日
昨日の雨は上がったものの、
ため池に水が溜まっていて作業が出来ない状態だった。
その為、今日はため池作りを休み、
昨日、完成したばかりの卓上ボーリングで遊ぶことになった。
昨日は完成後十分に遊ぶ前に日が暮れてしまい、
満足に遊べなかった子供たち。
今日のため池作りが出来ないことで休みになって、
今日は一杯遊べると興奮していた。
ため池から戻る途中の子供たち。
満面の笑顔で、大人の前を、
元気に歩いているルカとソエル。
でもココちゃん一人だけ、
少し寂しそうな雰囲気を感じた。
帰宅途中、私はサウロさんとマローネさんに
「トトさんを呼んでも良いですか?」と尋ねた。
ココちゃんが寂しそうな顔を浮かべているのは、
トトさんと一緒に行動できないからじゃないかと思ったからだ。
すれ違いが解けたばかりなのに、
また何日も父親に会えないのは寂しいと思った。
私の提案を聞いた二人は、
「もちろん、いいぞ。」
「もちろん、いいわよ。」
と快諾してくれた。
「ミノリさん、気を使ってくれてありがとう。」
私たちの会話を聞いていたカカさんも、賛成の様子だった。
家に着くと私は用事があるからと言うと、
ルカは少し寂しそうにしていたけど、
私が「すぐに戻るよ。」と声をかけると笑顔で「うん。」と
返してくれた。
皆が家へと入った後、私は石工場の方へと足を向けた。
石工場では石を削っている職人さんがいて、
ロクさんとトトさんは家の中で休んでいると教えてくれた。
石工場の横にある家の扉をノックすると、
ロクさんが出てきた。
「ミノリじゃないか。石を受け取りにでも来たか?」
「おはようございます、ロクさん。
いえ、ため池は水が溜まってまして、
今日は作業できそうにないので、
石は後日改めてお願いに伺います。
今日はトトさんを家へお呼びしようかと思って伺いました。
ちょっと見てほしいものもありまして。」
「そりゃ助かる。ぜひ連れて行ってくれ。」
安心したような顔をするロクさん。
「…何か、ありましたか?」
私は疑問を持ち聞いてみた。
「ココに会えんと愚痴ってるんだよ。」
そういって苦笑いを浮かべるロクさんは、
口では言っていても、声は何か嬉しそうにも聞こえる。
その言葉を聞いて安心した。
「それはちょうど良かったです。
ではお連れしても?」
「おおよ、呼んでくるわ。準備もあるだろうから、
少し待っててくれ。」
そう言って家の中へ戻っていった。
数分でトトさんは出てきた。
今日は作業着ではない。
作業着とは違う、整った服を着ていた。
「待たせたかの?
それでワシに見てほしいものとはなんじゃ?」
ココちゃんに会えるという嬉しさとは別に、
私が見てほしいというものが気になっている様子だった。
「新しいおもちゃです。」
名前はまだ決めていないので、
玩具と表現した。
「玩具?ワシに玩具を見せてどうするんじゃ。
お前の家には子が三人もおる。
わざわざワシに見せんでも問題なかろうに。」
腕を組み首を傾げたトトさん。
「表向きはそうなんですけど……」
少し歯切れの悪い言い方になってしまった。
「表向きじゃと?」
さらに怪訝そうな表情になる。
「ため池に水が溜まっていてため池の作業が出来なくて、
今日は新しい玩具で遊ぼうとなったんです。」
「そうじゃのう。
ワシも水路を見に行ったが今日は作業が出来んと思うた。
ため池も同様じゃ。」
私の言葉に理解を示してくれた。
私は話しを続ける。
「ため池から戻る途中、
ココちゃんが少し寂しそうに見えまして……
それでトトさんと会えないのが寂しいのではないか?と……」
私の言葉を聞き苦笑いを浮かべ、
「ココがワシに会えんと寂しがるわけがなかろうに。」
自分でそう答え、寂しそうな表情を浮かべるトトさん。
「私の人の表情から何かを読み取る力は結構凄いんですよ?
そういう環境のもと育ったので。」
私は笑顔で自信をもってそう伝える。
「それは何となく理解はしとるが…」
何か歯切れが悪い…
私はこのままでは話が進まないと思い、
先に進めることにした。
「私の読みが当たってても当たってなくても、
お呼びすることは変わりませんから。
サウロさん達も、喜んで了承していましたから。
さあ、行きましょう。」
そう言ってトトさんの返事を待たずに先に進む。
後についてこないトトさんに振り返って声をかける。
「さあ、時間の無駄です。早くいきますよ。」
ここでこうしていても意味がない。
私は強めに誘う様にそう声をかけると、
私の後に続いて歩き出した。
広場の前を通るとき、商店が視線に入った。
そういえば、アニスさんに新しい玩具の報告もしないといけないな。
今まで作ったものは結局後々の報告だったし、
いつも助けてくれているアニスさんとセリアさんには、
私たち家族で作ったものは、先に言うことを心掛けないと……
商店を横目に家への道を進んだ。
家の前に到着すると、トトさんがなにやらもじもじしている。
「良い大人がもじもじしていても可愛くないですよ?」
そう冗談を言ってみる。
「うるさい。」
一言だけ返ってきた。
「もうわだかまりははれて仲は戻ったでしょう?
何でそうそわそわするんですか。」
「……頭ではわかっとる。じゃがなあ……」
そういうトトさんはまだ思う所があるんだろう。
不安そうな顔をしている。
「私が見ても、貴方たちはもう大丈夫だと思うんですけどね。
それにトトさんがそういう感じだと、
ココちゃんの方が辛いと思いますよ。
ココちゃんはもう溝が埋まって、
好きな事も出来ると、トトさんの話しもしっかりと聞いたんです。
その後になっても、トトさんが気にした様子では、
逆にココちゃんもまた気にしてしまいますよ?」
私の言葉を聞いて、しばらく悩んだ後、
「そうじゃのう……
すまんな。
ワシがこれでは頑張ったココに、顔向けできん。」
そう言ったトトさんの目が力強いものになった。
「もう大丈夫じゃ…案内を頼む。」
そうはっきりと言ってくれた。
「ええ。では中へどうぞ。」
そう言って扉を開けて中へと案内する。
寒空の中、温かい温度が外へと流れ出てくる。
その温かさは、サウロ家の温かさそのものが、
冷え込んだトトさんの心を温めているような、
そんな優しい温かみを感じた……




