五章 十四話 雨の日の一時 後編
私とココちゃんはサウロさんから薪を受け取り、
[クリエイト]を使ってピンを作ることにした。
スキルを発動する。
丸太の表面が超高速で削られて、
サラサラと木屑になって木箱へ落ちていく。
あっという間に、滑らかで綺麗な
「小さなミニチュアのピン」の形が削り出される。
そのままだとただの木製のピン。
そこにさらに「圧縮」のスキルを重ねがけする。
ピンが一回りキュッと引き締まり、
木の繊維が極限まで密に詰まる。
見た目は小さくて軽いのに、表面は石並みに硬く、
何度玉をぶつけても傷つきにくい丈夫そうなピンになっていた。
さっきは試しで作ってみたけど、
いざ真剣に作ろうとすると、こうも違いが出るんだ……
さっき適当に作ったピンと今作ったピンで、
見た目はさほど変わらないけど、
後に作ったほうが明らかに丈夫そうに思える。
スキルは意思によって大分差が出る…
こうして見比べるとよくわかる。
また一つ勉強になった。
スキルを使って出た削れた木の粉を手のひらに乗せて、
[クリエイト]を使って野球のボールサイズの球を作った。
何度か木くずを足しながら圧縮を続けて重さと強度を上げる。
そして試しに作ったピンと作ったばかりのピンを使い、
試してみようと思った。
「ルカ、ソエル、ココちゃん。
一回試してみようか。」
そう言って二本のピンを横に並べて、
球をルカに渡した。
「じゃあその球を指ではじいてピンを狙ってみて。」
「うん!」
元気な声を上げ球を受け取ったルカは、
ピンを狙う様に頭を地面すれすれまで下げ、
目を細めて指に力を入れていた。
そして指をはじくとピンからそれて奥まで進んでしまった。
「あー外れたー。」
外れてしまって残念そうに声を上げたけど、
ルカの顔は笑顔だった。
「次私、私!」
「ソエル、がんばってね。」と言って、球をソエルに手渡した。
「よーし。おねえちゃんの腕を見せてあげる。
ルカ!よく見ておくのよ。」
そう言ってルカに声をかけながら、
ルカと同じように顔を地面に近づけて、
ピンを狙う。
ソエルが力いっぱいはじいた球は、
右側のピンに当たったけど、
揺れるだけで倒れることは無かった。
「あー!当たったのにー!」
当たったけど倒れなかったことで、
残念そうにするソエル。
ルカも当たったのになーと残念そうにしている。
「私に任せて…」
静かにそう言ったココちゃんは、
ルカとソエルの結果を見て闘志を燃やしている様子だった。
指をはじくようなしぐさを何度かしながら、
もう片方の手で球を受け取った。
そして、ルカ、ソエル、と同様に視線を地面に近づけて、
ピンを真剣な目で見つめていた。
そして思いっきり指をはじく。
その直後メリイ以外の全員が息をのんだ。
ものすごい勢いでピンをかすめ、
壁に「カン!」と玉が当たって地面に転がった。
かすっただけのピンは倒れるまではいかなかったけど、
揺れていた……
(これ…私が全力ではじいてもあんな勢いにならないぞきっと…)
心の中で恐怖が生まれ、
ココちゃんは怒らせないようにしようと心に決めた。
「おしかったな、ココちゃん。
でも良い腕だ。」
と真剣な顔をしてココちゃんをほめているメリイさんに、
普段会話をしない相手の誉め言葉に気を良くしたのか、
沈んだ顔を、ぱあっと笑顔に変えて、
「次は外さない。」「ああ、次は行けるだろう。」
人間離れをした二人が、何か共通点を見出したのか、
手を合わせて笑顔になっていた。
「でも…私がやると危ないかも。
人のいない時に遊ぶ。」
笑顔だったココちゃんは少し寂しそうにつぶやいた。
人を傷つけるものを嫌がったココちゃんだ。
そのことは少し気になった様子だった。
「しかしミノリ。これは流石に私は遊べないぞ?
ある程度鍛えていたら、下手をするとけが人が出る。」
メリイのその言葉にハッとした。
確かにそうだ。
この世界は魔力があり、身体力の成長の仕方も、
前世の世界の比じゃない、私自身が経験したことだ。
その言葉を聞き、少し考えた。
ピンの頭、人形、ブランコ、水場、竹とんぼ、絵文字板。
これから作るものや作ったものを考えていると、
とある名案が浮かんだ。
ルカとソエルに作ってもらうものはピンの頭ではなく、
球を転がす部分を、人形で作れば…
人形を使ってテーブル上のプレイヤーにして、
ブランコの要領で球を振り子のように転がすようにすれば、
ソエルが気にしていた個性をだしつつ、
誰でも平等な状態で遊べるんじゃないか?
そう考えた。
振り子で玉を転がすなら、
振り子部分を人形にした方が個性が出るし、
みんながプレイヤーになれるから楽しいと思う。
私はその意見を皆に話すと、ルカとソエルが食いついた。
ココちゃんも自分のはじいた球の勢いを見て、
危ないと察したんだろう。
でも私の提案を聞き、
それなら「危なくない?」とメリイに聞いていた。
「大丈夫だと思う。
それなら私も一緒に遊べそうだ。」
メリイがそう言うと、当初は一人で遊ぶと寂しそうなココちゃんが、
ぱあっと笑顔になり、
「それが良い。ミノリ、そうするべき。」
と顔を近づけて、力強い声を上げた。
「そうだね。みんなで遊ぶなら、振り子で転がすほうが良いね。
マローネさん。話が変わってしまいましたが、
球を転がすための台でも人形でも構いませんので、
子供たちと一緒に作って頂けますか?
振り子の人形か、台を作るならココちゃんも一緒が良いでしょう。
スキルの練習はまた今度にして、
ココちゃんもルカとソエルと一緒に、
球を転がす振り子台、プレイヤーを作るで良いかな?」
「スキルは一人でも使って成長できる。
ルカとソエルと一緒にプレイヤー?を作る方が良い。」
とココちゃんも納得してくれた。
「私はもちろんいいわよ。
ココちゃんとの作業も初めてで、楽しそう。
ルカとソエルとココちゃんとで一緒に作りましょうか。」
「「うん」」「はい。」
子供たち三人の元気な声が重なった。
こうして、私がピンを作り、
子供たちはマローネさんと一緒にプレイヤーを作ることで決まった。
私の方はピンを作り、
ソエルの球が当たっても倒れなかったことで、
重すぎるんじゃないかと思い、
軽くしようと、中身をくりぬいてスキルを使った。
そして中が空洞になったピンに試しに球を当てると、
「コン…カタン」とピンが倒れた。
その音を聞き、中をもっと空洞にすれば当たった時と、
倒れたときに音が良くなりそうだと気が付き、
さらに中をくりぬいて、空洞を大きくした。
ピンの底は穴が開いたままにして、
ピンを圧縮でさらに硬く丈夫にした。
そして試しに倒してみる。
「コーン」と気持ちの良い音がした。
その音を聞いた隣でマローネさんと一緒に人形を作っていた子供たちが、
私の方を見て笑顔になっていた。
「良い音だったね。」
「うん綺麗な音だった。」
「うん、綺麗な音。
底に穴が開いていたから、音が響いている。」
と三人は嬉しそうに相談していた。
「良い音していたわね。
これは私たちも負けていられないわよ?
プレイヤーをしっかりと作って、
このおもちゃを完成させるわよ?」
マローネさんが子供たちにそう話した。
子供たちも嬉しそうに「「うん」」「わかった」と
笑顔を振りまいていた。
ルカは私を見て、ボクも頑張ると目で言っているのが、
すごくかわいかった。
(これは良いな。
悩んで当初の予定から変更することになったけど、
結果的に良い方向に転がってくれた。)
私は安堵して子供たちの様子を眺めていた。
子供たちが一生懸命プレイヤーを作っている時に、
私はサウロさんが持ってきてくれた紐と革を見ていた。
細い繊維を編んで作られた紐を見て、
これなら問題なさそうだと判断した。
そして革を小さく切り、その革を[クリエイト]を使って、
小さく形を整え保持具部分を作った。
両方に穴をあけ紐を通し、先を結んで珠を作り固定する。
紐の長さは二十センチ位の長さにして、
保持具の付いた部分を八本作った。
そしてその紐を持って、マローネさんに話しかける。
「マローネさん。
この紐で吊り下げる感じになるので、
形は好きにしても良いんですけど、
紐が垂れ下がる感じになるようにしてほしいです。
紐で吊り下げる形ならどんな形でも良いです。
ただ卓上で遊ぶものになるので大きすぎても駄目だと思います。
たれ下げる長さは都度調整が必要でしょうけど…」
「わかったわ。
それじゃあピンと同じくらいだと少し小さいかしらね。」
そう言って削っていた薪を見て、呟いた。
「じゃあ人形の高さは低く、小さくしすぎないように、
型取りしたほうが良さそうね。
小さすぎると削るのは難しいでしょうし。」
そういって子供たちを見た。
「私は練習になるし、小さくても良いよ?」
とソエルが言ったけど、それをマローネさんが諭すように話す。
「ソエルちゃん。
誰でも私やソエルちゃんの様に作れるわけじゃないの。
だからみんなが出来るだけ加工しやすいように、
考えるのも大事なのよ?」
「そっか。そうだね。
皆が作りやすい方がいいよね。」
笑顔でうなずいていた。
ソエルも聞き訳が良い子で可愛いな。
私はその会話を笑顔で聞いていた。
子供たちがそれぞれ削っていき。
ある程度の形が出来上がってきた。
それを見ていた私は一つ借りて、紐をつけて試そうと思った。
「すみません、マローネさん。
作成の途中で申し訳ないんですけど、
紐の長さも確認したいので、
一度お借りしても良いですか?」
私がそう言うと、ルカが「はい」と
作りかけの物を手渡してくれた。
ルカの形は凹の様な形をしていた。
「横の方がおとうさんとおかあさんで、
真ん中がボクだよ。
ボクがお父さんとおかあさんに手で持ち上げて貰っているんだ。
ボクの足の部分に紐を付ければ大丈夫?」
ルカは振り子をしっかり理解しているようで、
私の説明が伝わっていることに安心した。
「良いね。凄く個性的で素敵な考えだと思う。
それじゃあ、ちょっと借りるね。」
そういってルカの削ったプレイヤーを受け取り、
紐をルカの足の予定の部分にあてがってみた。
そして紐の長さが五センチほど余るのを確認した。
「これならちょうどいいかも。」
そして紐の長さを調整した保持具で球を挟み、
ピンに向かって指を離す。
転がった球はピンに当たって「コン」と良い音が鳴った。
そしてうまい具合に倒れてくれた。
「コーン」と玉が当たった時よりいい音が鳴り、
地面を転がった。
「たおれた!ルカ、たおれたよ?」
ソエルが大はしゃぎ。
「やったあ!おにいちゃん。成功?」
ルカもソエルと一緒に大喜びだ。
「音…やっぱり良い。」
ココちゃんは音が気に入った様子だった。
「大成功だね。」
私は借りていたルカのプレイヤーを返した。
当たる前の転がる速度も丁度良さそうで、
紐の長さは十五センチほどに設定することにした。
球も丁度良さそうな重さになっていたようで安心した。
「マローネさん。
プレイヤーから垂らす紐の長さは、この位になります。
この長さが人形に付けられるようにしてほしいです。」
そう言って保持具の付いた紐を渡す。
「ええ、わかったわ。
ルカ、ソエル、ココちゃんも良く見てね。
この紐がちゃんと垂れ下がる高さで作るのよ?」
ピンが倒れたのを見てはしゃいでいた子供たちは、
マローネさんの言葉を聞いて、
真剣な顔に変わった。
「「はーい」」「うん」
子供達も紐の長さを削りかけの薪を合わせて、
調整を始めた。
ソエルとココちゃんは長さを測り、
しっかりと紐の長さに合わせた跡を薪につけて削っていた。
それを見たルカも、ソエルに聞きながら、
紐の長さに合わせて薪に跡を付けて、
一生懸命削っている。
子供たちのワイワイとした楽しそうな会話を聞き、
サウロさんとカカさんもそれぞれ話をしていた。
「ココが鍛冶を始めて暫くは楽しそうでした。
でもそれが数年もたつと、だんだん大人びたというか、
静かな性格になっていって、
いつからか子供の無邪気な笑顔を見せなくなりました。
まじめに鍛冶に打ち込み、私はそれがやる気だと勘違いをして…
今のココは昔の元気でかわいらしいココに戻った気がします。
あんな無邪気な笑顔を見せるようになって……」
少し目を潤ませるカカさん。
「これからは幾らでも見れるはずだ。」
カカさんのつぶやきに答えるサウロさんは、
励ますようにそう声をかけていた……
「そうですね……今度は間違えません。
あの子は私たちの宝なんですから。」
そう話すカカさんの目には強い意思を宿していた。
日が傾き始めるころ、
子供たちがそれぞれ歓声を上げた。
「できたー!」
最後に作り終えたルカは最後の紐をつなげて、
嬉しそうな声をあげた。
「やったね、ルカ!
すごく良く出来てるよ。」
一番最初に作り終えたソエルは、
ココちゃんとルカにアドバイスをしながら、
マローネさんと一緒に二人の手伝いをしていた。
二番目に作ったココちゃんも同様。
ルカにアドバイスや「こうした方がいいんじゃない?」
と、子供同士で意見を言いながら一生懸命に作っていた。
ルカにアドバイスを言いながら、
自分のプレイヤーに手を加えながら、
三人ともすごく楽しそうに、
そして作り終えた今は満足したような顔をして、
喜んでいた。
最初に出来たソエルは、二本の柱に、
木と背の高さの違う三人を掘り、
もう一方には木と五人の人が彫られた物を作った。
木と一緒にいる三人はサウロさんとマローネさんとルカかな。
そしてもう一本の柱の五人は、
私、ソエル、ココちゃん、カカさん、トトさんだろうか…
その二本の柱に棒をつなげてそこに紐が取り付けられた。
ココちゃんのプレイヤーは
背の低い人形が、
片手にハンマーと、片手にトングの様な物を持って、
その先に紐をつなげた形になっていた。
一番時間のかかっていたルカのプレイヤーは
サウロさんであろう大きな人と、
少し背の低い細い人。
そしてその二人の間に手をつなぎ、
宙に浮いている子供の人形が出来上がった。
足の部分に紐をつなげて、紐が少し長く余ってしまったため、
サウロさんとマローネさんの人形の下に台を作り底上げをして、
紐が下に付かないように工夫がされていた。
サウロさんとマローネさんの手をつなぎ、
宙に浮かぶルカの人形を見たサウロさんは、
嬉しそうにしながらルカを抱き上げ、
マローネさんはソエルを抱き上げ、
カカさんがココちゃんを抱き上げた。
二つの家族がそれぞれの子供の頑張りをほめて、
そして嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
こうしてできた三人のプレイヤーを前に、
抱き上げられながら、満足そうに、
お互いの顔を見合わせて笑顔を見せる子供たちは、
私が見た笑顔の中でも
世界一尊いと感じる瞬間を作り上げていた。




