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対話術(+++)を持って生まれた俺が不殺のS級冒険者になるまで  作者: 絹田屋


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第二十五話 持って帰ったもの

 水源を発つ前に、半魚人と人魚の長老格が俺のところに来た。


 半魚人は群れの中で一番大きい個体。体に苔が生えている。年寄りだ。人魚は銀鱗に白い筋が混じっている。こちらも年長者だろう。


 二匹が、泉の底から何かを持ってきた。


 宝玉の破片だ。真っ二つに割れた結晶。拳半分ほどの大きさで、まだ淡い光を放っている。もう地脈を吸い上げる力はない。割れたことでエネルギーは解放された。残っているのは殻だけだ。


『……にんげん。これ、もっていけ。』


 半魚人の長老が、破片を岸に押し上げた。


『もう、いらない。これ、あったから、けんか、した。もう、けんか、しない。だから、いらない。にんげん、が、もっていけ。』


 人魚の長老が続けた。


『……同意する。この結晶は我らの間に諍いを生んだ。今後、二度と同じことが起きぬよう、人の手に渡した方がよい。——汝への礼でもある。あの二匹の声を見つけてくれた礼だ』

「……もらっていいんですか」

『いらない! もっていけ! はやく!』


 半魚人が泡を吹き上げた。本気でいらないらしい。


 破片を拾い上げた。冷たい。水を含んだ石のような手触り。でも軽い。石より軽い。そして、手のひらの中で微かに脈打っている。地脈の残響だろうか。


 丁寧に布に包んで、エルツの背に載せた。今のところ、一番の安全地帯だと思う。


---


 前哨基地に戻った。ヘルダに報告した。


「水源の結晶を割りました。地脈のエネルギーが解放されて、水量は回復し始めています。……これが破片です」


 ヘルダが破片を見た。水晶板をかざした。板が激しく明滅した。簡易鑑定の限界を超えている。


「……これは私の手には余る。下の街のギルドに持っていけ。正式な鑑定が必要だ」

「下の街って、あのパスハイムですか」

「そうだ。あそこのギルドにはちゃんとした鑑定士がいる。——お前さん、あの街で揉め事を起こしたと聞いたが」

「起こしたというか、起こされたんですけど」

「今度は大丈夫だろう。これを持っていけば、誰もお前さんに手は出さん」


---


 エルツに乗って山を下りた。パスハイムが見えてきた。


 前回来たときは、門番に止められた。冒険者に殴られたし、そのせいでエルツが雷を落とすことになった。

 今回は——門番が俺たちを見て、背筋を伸ばした。


「……Cランクの冒険者。エーデルホルンの同行者。前回の——」

「はい。地脈調査の帰りです。ギルドに報告があります」


 門番が道を空けた。たぶん、前回とは違う。


 街に入った。エルツの横を歩く人間がいた。前回は遠巻きに値踏みしていた。今回は——避けている。目が違う。値踏みの目ではない。警戒の目だ。「あの冒険者に手を出した三人がギルドに処分された」という噂が回っているのかもしれない。


---


 ギルドに入った。受付にCランクの証を出した。


「地脈調査の報告です。北部水源の結晶を除去しました。地脈のエネルギーは解放済み。水量は回復に向かっています。——これが結晶の破片です」


 布を開いた。淡く光る破片がカウンターの上に置かれた。


 受付の男性の顔が変わった。


「……待っていろ。ギルドマスターを呼ぶ」


 奥に走っていった。


 しばらくして、ギルドマスターが出てきた。前回、場を収めてくれた大柄な中年の男性。俺を見て、エルツを窓越しに見て、カウンターの破片を見た。


「……これは」

「地脈の結晶の破片です。水源で地脈のエネルギーを吸い上げていたものを、エルツが割りました。水棲の魔物たちから、持って行ってくれと言われました」


 ギルドマスターが破片を手に取った。光に透かして見た。


「正式な鑑定をさせてくれ。うちの鑑定士が見る」


---


 鑑定室に通された。ここのギルドにはちゃんとした鑑定設備がある。エルストのグスタフの装備より大きい。


 鑑定士は細身の女性だった。眼鏡をかけている。破片を台の上に置いて、鑑定具をかざした。

 沈黙が長かった。


「……地脈結晶。純度は最上級。エネルギーは放出済みだが、結晶構造自体が残っている。素材としての価値は——少なく見積もっても銀貨五十枚以上。軽金貨に届く可能性もある」


 銀貨五十枚。レオンが切り詰めて四年働く分。拳くらいの大きさの石が。


「しかし素材価値より重要なのは、学術的な意味だ。地脈結晶の実物サンプルは、ギルドの記録上、過去に三例しかない。四例目だ」


 ギルドマスターが俺を見た。


「……お前、これをどうやって手に入れた」

「水源の底に沈んでいました。半魚人と人魚が奪い合っていて、それが地脈を——」

「いや、まて、今は経緯はいい。お前がこれを持ってきたという事実が重要だ。——鑑定士。ついでにこの冒険者の正式な鑑定もしてくれ」

「え?」

「Cランクの身分証だけでは情報が足りない。お前の周りでは前例のないことが多すぎる。ちゃんと記録を取っておきたい」


 鑑定具がCランクのカードにかざされた。簡易鑑定より精度が高い。表面に浮かぶ文字が、前より細かい。


 名前:フリッツ・アルトハウス

 ランク:C

 スキル:対話術(+++)

 祝福:無毒化/回復力強化/防御力強化/魔力操縦


 鑑定士の眉が上がった。


「祝福が四つ。……十三歳で四つ。これは——」

「あ、まだあります。この子もお願いできますか」


 ダンダンを肩から降ろして、鑑定台の横に置いた。ダンダンが鑑定具を見て耳をぴんと立てた。


『きらきら! なに? なに?』

「じっとして」

『じっと!』


 怪訝な表情をされたけれど、鑑定具がダンダンにかざされた。


 種族:モスリン

 ランク:F

 状態:祝福あり(魔力親和)


「……モスリンに祝福………………こんなもの、前例がない」


 ギルドマスターが腕を組んだ。


「鑑定結果を記録に残す。この冒険者——フリッツと、同行のエーデルホルン、そして祝福つきのモスリン。正式な記録としてギルド本部に送る」

「記録って、公開されるんですか」

「Cランク以上の鑑定記録は、他のギルド支部でも閲覧可能だ。お前の情報が、この領地のどのギルドでも見られるようになる」


 つまり——この領地の冒険者全員が、俺のステータスを知ることになる。

 対話術(+++)。祝福四つ。S級相当のエーデルホルンの同行者。地脈結晶を持ってきた実績。


 ギルドマスターが俺を見た。前回とは違う目だった。


「前に言ったな。『テイムしていない方が悪い』と。それがこの領地の常識だと」

「……はい」

「常識は変わらん。だが、お前に手を出すやつは——もういないだろうな」


 力で黙らせたのではない。実績で黙らせたな。

 ギルドマスターの力強い笑顔に、なんだか泣きそうになった。


---


 ギルドを出た。


 エルツが門の外で待っていた。ダンダンが肩に戻った。


『どうだった』

「鑑定記録が公開されることになった。この領地のギルド全部で見られる」

『ほう。汝の情報が広まるのか』

「うん。……お前の情報も。S級相当のエーデルホルンが同行してるって」

『それで良い。我を値踏みする者が減るなら、それに越したことはない』


 街を出て、山道を歩いた。前哨基地に向かう。まだ地脈の調査は終わっていない。水源の結晶は一つの原因だったが、地脈の乱れはまだ残っている。エルツの接続も完全ではない。


 でも、一つ片付いた。


 帳面を出した。

 地脈結晶の破片をギルドに提出。

 素材価値:銀貨五十枚以上。学術価値:歴史上四例目らしい。

 正式鑑定を受けた。ステータスが公開される。

 ——前回殴られた街で、今回は誰にも殴られなかった。進歩だと思う。


 ダンダンが帳面を覗き込んだ。


『フリッツ、なに、かいた? ダンダン、の、ことも、かいた?』

「書いたよ。祝福つきのモスリン、前例なし、って」

『すごい! ダンダン、すごい! ぜんれい、ない!』


 エルツが鼻から息を吐いた。


『前例がないのは汝だけではない。この一行は全員が前例なしだ』


 ——確かに。

 対話術(+++)の人間、S級相当の神の眷属、祝福つきのモスリン。。


 まあ、前例がなくても、やることは変わらない。座って、聞いて、話して、帳面に書く。

 次の水脈を探しに行こう。

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