第35話 エルフ軍の切り札
ゼラルドの相手はエリシアさんに任せた。
僕への追撃はない。
僕は大岩を目指しつつ、周囲の戦況を確認する。
まずは、僕が今いる場所の上空。
そこではホロウホーが旋回し、魔導矢を浴びながらも抵抗勢力を援護している。
羽根の一部が焦げて白煙が尾を引いているが、その力強い羽ばたきは健在だ。
そして、僕の前方では、モグログがもの凄い数のエルフ魔導兵から集中攻撃を浴びている。
モグログは、魔導ゴーレムを倒した怪獣ということで集中的に狙われて、自然と盾役になっている。
しかし、モグログの耐久力は桁違いなので、きっと大丈夫だと思う。
というより、僕にはモグログがリズムに乗って楽しんでいるようにも見える。
やはりMっ気があるに違いない。
さらにその奥、大岩の東側ではモフ菜(大)が短い足で飛び跳ねていた。
六体合体した巨体が飛び跳ねる衝撃により、地面を大きく揺らし、エルフ魔導兵を弾き飛ばしている。
かなりの威力なのだが、見た目はぴょこぴょこしていて、とても可愛い。
ところどころ体毛が焦げてはいるが、まだまだ大丈夫そうだ。
僕は走りながら周囲を見つつ、エルフ魔導兵を蹴散らしながら、あと少しで大岩に到着するところまで戻ってきた。
いくら動きがギクシャクしていても、一般のエルフ魔導兵程度が相手ならば、余裕で対応ができる。
むしろ徐々に体力が回復しているほどだ。
そのとき、僕の近くで突風が起きた。
これは遊撃を任せているホロウホーの羽ばたきに違いない。
ホロウホーは戦場を縦横無尽に飛び回り、エルフ魔導兵を吹き飛ばしては撹乱している。
おかげで大岩の周辺は守られていた。
僕は余裕を持って大岩の上に登り、エレナとリアナに合流した。
「ただいま」
「お帰りなさい、レオン様」
エレナは最初と変わらず落ち着いている。
それだけで僕はちょっと安心した。
「ねぇ、エレナ。魔導ゴーレムはどうなった?」
「はい、ピグモーが頑張って、二体を倒してくれました。残り六体です」
視線を向けると、少し離れたところでピグモーたちが、魔導ゴーレムを相手に奮闘していた。
ピグモーたちは複数体の魔導ゴーレムにより突進を止められ、殴られたりもしている。
「ブモモモオゥゥ!」
最初の勢いは落ちてしまったが、それでも倒れる気配はなさそうだ。
数での不利はありながらも互角以上に戦い、持久戦の様相になっている。
ただ、これまで出現した魔導ゴーレムの数は、いまだに八体のみのようだ。
偵察では十六体もいたのに、まだ半数しか姿を見せていない。
「……エリシアさんの話だと、エルフは最初から全軍は出してこないって予想だったよね?」
「はい。なので、レオン様には敵の全容が見えてから、怪獣形態になって欲しいと言ってましたね」
僕が怪獣形態でいられる時間は短いので、敵軍の全容を把握してから、最後に変身する予定となっている。
「うーん、この状況はやっぱりエリシアさんの予想通りということかな?」
「そうですね。私もエリシアさんの予想が当たっていると思います」
ここまで全体の戦況は、良くも悪くも想定内だ。
ただし、奇襲による首刈り戦術は失敗、さらに敵軍の全容が見えないままのため、徐々に追い込まれているのかもしれない。
あと、さっきから気になっているのだが、僕が戻ってきたのに、ここまでリアナの反応が全くない。
前のめりにしゃがみ込み、いつになく真剣な眼差しで、色々な場所にいる怪獣たちを見たままだ。
僕がチラッとリアナの方を見て不思議そうに首をかしげると、エレナが教えてくれた。
「リアナは怪獣たちの様子を気にかけて、ずっと応援しています」
なるほど、そういうことか。
さすがは怪獣たちと仲良しのリアナだ。
ここまで怪獣たちが頑張ってくれているのは、リアナのおかげでもあるのだろう。
「私が戦況を見ていますので、レオン様はモフ美に包まって休んでください」
「うん、そうだね、そうするよ。変化があったらすぐに教えてね」
「はい、レオン様」
僕はモフ美(特大)に飛び乗り、最後の決戦に備えて、少しでも体力を回復することにした。
怪獣たちは奮闘してくれている。
エリシアさんの方は、順調だろうか。
◇◇◇
エリシアとゼラルドが対峙する。
周囲で激しい戦闘が続く中、二人の間には緊張感が張り詰めていた。
ゼラルドが口を開く。
「怪獣の王とやらは引いたか、ヤツは後ほど倒すとして――次の相手は貴様か?」
「そうだが、不服か?」
エリシアは一歩も引かずにゼラルドを睨む。
「ふむ、その紅い髪、見覚えのある顔だ。貴様は以前、私が見逃した人間の小娘だな?」
「……だとして、なんだ? お前にとっては、その辺に転がる石ころだろう。そんなものをよく覚えているな?」
エリシアは強がって言う。
「まあそうだが、エルフの記憶力はいいのでな。石ころとて覚えておる」
「ふん、その石ころに傷をつけられた気分はどうだ?」
ゼラルドの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
「ふうむ、そうだな。取るに足らない小娘だと思っていたが、よく成長したと褒めてやろうか。貴様の名は?」
「……エリシアだ」
煽ったつもりが冷静に褒められ、エリシアは戸惑いながらも答える。
「エリシアか、これだけの仲間を率いて私の前に立つ貴様を、王国の脅威とみなす。今度は見逃したりせんぞ」
「そうか、それは光栄だ」
二人の視線がぶつかり、剣を構える。
わずかな間をおき、エリシアが仕掛けた。
「翔空斬! 空破連撃!」
エリシアの空中からの鋭い連撃に、ゼラルドはどっしりと構えて応戦する。
エリシアは風をまとい身体を加速し、鋭い斬撃を浴びせる。
それに対してゼラルドの大剣は、一撃ごとに大地を裂くほどの重さがあった。
両者それぞれ性質の違う剣が交錯し、大きな金属音が響き渡った。
強化魔法で力を増しているエリシア。
魔力も体力も消耗しているゼラルド。
二人の力は拮抗し、互角の攻防が続いた。
そして、二人の攻防が続く周囲では、精鋭エルフ魔導兵を相手に、抵抗勢力がホロウホーの援護を受けながら踏ん張っている。
だが、両軍ともに疲労度が増していき、いつ均衡が崩れて決着がついてもおかしくない状況だ。
互角の激戦が続くなか、エリシアがわずかに息を乱して、ゼラルドから距離を取る。
ゼラルドはその隙を見逃さず、魔法によって空中に浮き、戦場をぐるりと見渡した。
そして、一人のエルフ魔導兵に目配せをし、指示を出した。
「ふむ、両軍とも限界が近いようだな。ここが勝負どころだ。後方に温存していた神聖魔導部隊を出せ!」
「はい、ゼラルド師団長! ただちに神聖魔導部隊に号令をかけます!」
戦場を俯瞰し、過去の膨大な経験から勝負の際を見定めたゼラルド。
そのゼラルドから指示を受けたエルフ魔導兵は、神聖魔導部隊の元へと高速で移動する。
それを見届けたゼラルドは大地へすっと降り立ち、エリシアへ告げる。
「貴様らとの戦いはなかなか面白かったが、ここまでだ。ここからは王国軍の威信をかけ、勝利させてもらう」
ほどなくして、上空に青白い光を放つ巨大な魔法陣が展開された。
幾何学模様がいくつも重なったその美しい輝きは、空を覆う天蓋のようであり、次第に戦場の喧騒すらも呑み込んでいった。




