第34話 首刈り戦術、その結果
「ふむ、仕方がない。あまり使いたくはなかったが、私の全力を見せるとしよう。――魔力超増加魔法、――魔脈浸透魔法」
その言葉に呼応するように、ゼラルドの瞳が紅く輝く。
同時に、ゼラルドの構える大剣が紫色に発光し、周囲の空気が歪んで見えた。
戦闘の素人である僕ですら、圧倒的なプレッシャーを感じる。
エリシアさんの言う通り、ただ事ではないことがよくわかる。
本来なら対応する必要があるのだろうが、僕にできることは限られている。
剣先に集中するしかない。
僕がそう思うと同時、すぐにゼラルドが動いた。
紫色の光を纏った大剣が、視界を覆うように迫ってくる。
ゼラルドの雰囲気からどれほどの攻撃がくるのかと思ったが、ぎりぎりで見切れる速度だ。
僕はなんとか剣先をかわす。
僕がかわした紫色の光を纏った大剣での攻撃。
その剣圧は凄まじく、僕の背後の地面を大きくえぐった。
そこからゼラルドが間髪入れずに放ってきたのは、電雷魔法。
広範囲に激しい電撃が走る。
さらに大剣の纏う紫色の光が増したかと思うと、その大剣が唸りをあげて振り下ろされた。
ものすごい圧力の連続攻撃だが、ここまでは予想どおりだ。
電雷魔法のあと、本命の一撃が来ると思っていた。
僕は電撃の痺れに耐え、激しい紫色の光を放つ大剣をはたいて、反撃に移ろうとする。
しかし、僕の繰り出した掌底は、大剣をぬるりとすり抜けた。
「――!?」
僕が驚くと、ゼラルドが満足気な表情で呟く。
「その剣筋は幻影魔法だ。やはり身体能力は高くとも、所詮は怪獣だな」
なんということだ。
ゼラルド渾身の一撃なのかと思ったら、フェイクだった。
どうやら僕はあっさりと罠に引っかかってしまったようだ。
ここまで圧倒的なパワーを見せた上に、フェイクまで入れてくるとは、全く油断のない男だ。
「これで終わりだ」
ゼラルドはそう言うと、無防備になった僕の首筋へ向かい、大剣を振り抜いた。
かわす余地はなかった。
紫色に艶めく鋭い刃が僕の首を一瞬で切り裂いた。
まさに一刀両断。
その瞬間、エリシアさんの絶叫が耳に届く。
「レ、レグオン殿ーーーーー!!!」
ゼラルドによる会心の一撃に、周囲のエルフ魔導兵は、歓喜の声をあげた。
「さすがゼラルド師団長だ!」
「厄介な怪獣を倒したぞ!」
周囲の反応が大きい。
まあ僕の頭がゴロンと落ちたのを見たのだから、それはそう。
しかし、僕はその反応を冷静に見つつ、足元に転げ落ちた自分の頭部を拾って、慌てずに首の上に戻してくっつける。
初めての出来事なので、かなりドキドキしたが、特に違和感もなく、くっついた。
以前、エレナが言っていた通り、僕は首を切られても死なないようだ。
全く危ないところだった。
怪獣で本当に良かった。
そんな僕の姿を見て、さすがのゼラルドも驚きを隠せないようだ。
表情を曇らせて、僕に言う。
「なんだ、貴様は。今の一太刀は、Sランク魔族を消滅させたことがあるのだぞ?」
そんなことを言われても知らないし、だいたい僕は魔族ではなく怪獣だ。
「ん? 魔族がどうした? 我は怪獣の王レグオンである」
怪獣の王として強がっておいた。
もっとも強がって言ってみたものの、首刈り戦術を仕掛けたつもりなのに、こちらが文字どおり首を狩られるとは、思ってもいなかったけれど。
そして、僕を見るエリシアさんの表情は複雑だった。
驚きと安堵が入り混じったような何とも言えない顔をしている。
周囲のエルフ魔導兵は、ドン引きしている。
僕もモブ期間が長かっただけに、気持ちはわかる。
僕はあらためて正面にゼラルドを見据える。
そこで気がついたのだが、ゼラルドの瞳の紅い輝きと、大剣を包んでいた紫色の光が消えている。
さらに全身をうっすらと覆っていた白い光も見えなくなった。
この一連の攻防で、強化魔法の効果が切れたのだろう。
首を刈られたのも無駄ではなかった。
これはチャンスだと思い、攻めに出ようと足を踏み出す。
……が、なんだかぎこちがない。
これは首をくっつけた影響だろうか。
身体を動かそうとすると、どうにもギクシャクしてしまう。
僕は動揺しつつもゼラルドから目を逸らさずに、慌てて念話でエレナに確認する。
『ねぇ、エレナ。聞こえる?』
『……レオン様、どうされました?』
遠いためか、少し聞き取りづらいが、ぎりぎり会話はできそうだ。
『今ね、ゼラルドに首を斬られたから、くっつけ直したんだけど、どうも体がギクシャクするんだよね。これ、大丈夫?』
『それは大変でしたね。でも心配はいりません。しばらくすれば馴染みますよ。ただ、今のレオン様はまだ怪獣王の力を出し切れていませんので、何度も斬られるのは危険です』
『そっか、何度もだとダメか』
なるほど、ひとまずは大丈夫そうだが、さすがにこれ以上、斬られるのは不味いようだ。
僕は気を引き締め直し、「ふぅ」と息を整えた。
そのとき、エリシアさんが僕とゼラルドの間に割って入った。
そして、エリシアさんがゼラルドから視線を外さず、僕に言う。
「レグオン殿、ここからは私が引き受けます!」
エリシアさんは僕の様子を見て、察してくれたのだろう。
なにしろ頭が落ちたあとだしね。
確かに速攻が決まらなかった場合、僕はいったん下がって力を溜めることになっている。
だが、あのゼラルド相手に大丈夫だろうか。
僕が少し躊躇すると。
「身体限界突破、風陣の加護展開──」
エリシアさんが呟いた。
これはエリシアさんが使う強化魔法だ。
そのエリシアさんの言葉に反応して、周囲に風がざわめき、衣服がはためく。
続けて。
「翔風の加護展開──」
上昇気流が巻き起こり、エリシアさんの紅い髪がふわりと美しく持ち上がる。
そのまま巻き起こった風に乗るようにして、髪を靡かせながら軽やかに宙を舞う。
「翔空斬!」
空中からの鋭い斬撃、それはゼラルドの頬に小さな傷を切り刻んだ。
僅かとはいえ、切り傷をつけられたゼラルドは眉間に皺を寄せて、その傷口をさすりながら呟く。
「なんだと? 人間の小娘が……」
ゼラルドの反応にエリシアさんは胸を張り、意気揚々と僕に告げる。
「私はここまで魔法を温存していました。レグオン殿は力を溜めて、最後の勝負に出てください!」
おお、やるな、エリシアさん。
因縁のゼラルドを前にして気負い過ぎなのかと思っていたけれど、冷静さを失ってはいなかった。
僕はそこで一つ確認をする。
「エリシア殿、我との約束を覚えているか?」
「はい、もちろんです!」
エリシアさんは短く答えて、ニコリと微笑む。
以前、交わした約束──「命を大事にするように」という言葉を覚えてくれている。
きっと命を投げ捨てるようなことはしないだろう。
それならば、この場はエリシアさんに任せたい。
「では、エリシア殿、ここは任せたぞ」
「了解です。レグオン殿!」
エリシアさんの力強い返事。
僕は安心してこの場を離れ、エレナやリアナ、ピグモーたちのところへ戻ることにした。
魔導ゴーレムはどうなっただろうか。




