第29話 決戦へ向けて
小さな実家の薄い布団で目覚める、人間形態の僕レオン。
怪獣キングダムの建国を宣言した怪獣王レグオンとの落差は大きいが、どちらも僕だ。
「レオン、今日も出かけるのが早いね。無理してないかい?」
「母さん、ありがとう。大丈夫だよ」
母さんの作ってくれた朝食を食べて、すぐに出かける。
今日は朝から、情報交換のためエリシアさんと会う予定だ。
最近では、すでに村の皆にもバレているのでないかと思わないでもないが、こっそり隠れてから獣人形態へと変身する。
例によって、村の外れにあるエレナとリアナが所有する一軒家に行くと、そこにはすでにエリシアさんが来ており、僕を待っていた。
「レグオン殿、おはようございます」
「うむ、おはよう。待たせたようだな、エリシア殿」
僕らは、先日の会談のあとから少し親しくなっていた。
気のせいか、エリシアさんの表情が最初より柔らかくなったようにも思う。
ただ、そのうちゼラルド率いる精鋭エルフ魔導師団が侵攻してくるわけなので、緊張感は変わらない。
軽く挨拶を交わして、さっそく情報交換を始める。
まずは同席しているエレナが切りだす。
「荒野の北部地域で、モグログという怪獣が魔導ゴーレムと遭遇しました。モグログは魔導ゴーレムを辛くも退けましたが、これは重大な事件かと」
それを聞き、エリシアさんは驚く。
「北部地域に魔導ゴーレムですか! 魔導ゴーレムの実物と遭遇したという話は初めて聞きます!」
僕が続いて質問をする。
「魔導ゴーレムが一体どこから現れたのかと思い、我はホロウホーに命じ、上空から周辺を調査させたが、手がかりはなかった。エリシア殿、何か情報はあるか?」
「いえ、私たちも以前から噂のある魔導ゴーレムを開発している工場を探していますが、その所在地は突き止めておりません」
「そうか、きっと厳重に隠されているのであろう」
「はい、そう思います。ただ今回、北部地域でゴーレムと接触したというのであれば、あらためて近辺に調査隊を出したいと思います。危険は伴いますが……」
なにか少しでも発見があることを期待し、無理はしない範囲で、抵抗勢力から偵察部隊を出してもらうことにした。
次にエリシアさんが神聖エヴァリス王国内の状況について、教えてくれる。
「今、精鋭エルフ魔導師団が観光都市ルミナント近郊に集結しています。王都から派遣された本隊を中心に、全容は不明ながら、数千規模の大軍勢になると思われます」
えっ、数千!? と僕は動揺するが、平静を装っておく。
そもそも数十規模の魔導大隊しか戦ったことがないので、想像がつかない。
「数千とは随分と多いな」
「はい、もともと神聖エヴァリス王国は二つの村を取り返すことを目的としているはずですが、とても数体の怪獣のみを想定している規模とは思えません。私たちの行動が読まれているのか、他の意図があるのか……」
僕も狙われているのは、僕とピグ太、モグログだけだと思っていた。
しかし、どうやらそれでは済まないようだ。
エリシアさんは、続けて抵抗勢力の現状を報告してくれた。
「私たちは今、神聖エヴァリス王国内の各地に散っていた勢力に呼びかけ、クロヴァス荒野にて少しずつ合流をしています。まとまった部隊として行動できる段階になりつつありますが、それでも精鋭エルフ魔導師団との戦力差は歴然です……」
エリシアさんの言葉に力がない。
魔導ゴーレムが出撃してくることがほぼ確実で、さらに数千規模の精鋭エルフ魔導師団が相手となるなら、当然だ。
僕も頑張って王様っぽく振るまっていなければ、目に見えてしょんぼりしてしまうことだろう。
先行きは暗いが、とりあえず僕もこちらの現状を伝えることにする。
「我は先日、複数種の怪獣たちと話をつけ、怪獣王国という怪獣の国を創設したのだが――」
それを聞いたエリシアさんが、ガタンと椅子から立ち上がり、目を見開く。
「――!? は、はい? か、怪獣の……、国!? レグオン殿は、いったい何を言っているのですか!?」
僕の言葉を最後まで聞かないほど、エリシアさんが驚いている。
あまりの驚きっぷりに、僕の方が動揺する。
「う、うむ、怪獣たちの国を創ったのだが、それほど驚くことか……?」
「当たり前です、驚きますよ。単独種ですら滅多に群れることのない怪獣が、国ですよ?」
僕はエレナやリアナを通じて、怪獣と念話で話しているので、そこまで違和感はなかったが、言われてみると大変なことなのかもしれない。
今さらではあるが。
もっとも実際の怪獣たちは、快く即答でOKだったので、大変なことは何一つなかったけれども。
僕は集まった怪獣たちのことなど、さらに詳しく怪獣王国のことを伝えた。
それを聞いて、エリシアさんの目が輝いてきた。
僕の想像以上に、怪獣王国へ希望を見出したようだ。
「…… 怪獣王国の存在は、私たち抵抗勢力にとっては大きな支えとなります。強大な神聖エヴァリス王国とて無視はできず、きっと何らかの変化が起こるはずです」
実際の戦力的には、今も厳しい状況ではないかと思う。
それでもエリシアさんにとっては、これまでの圧倒的な絶望に比べれば、今はまだ希望を持てる局面なのかもしれない。
エリシアさんには、僕の怪獣形態には時間制限があることを伝えてあったが、今は新たな能力を得るべく特訓をしていることも話しておいた。
そして、その特訓の様子を見てもらい、それを踏まえて大まかな作戦を立てることにした。
呑気な怪獣たちと過ごしているとつい忘れそうになるが、エリシアさんとの情報交換を経て、あらためて実感が湧いてきた。
いよいよ決戦の日が近づいてきたようだ。




