第30話 エルフ進軍の報
情報交換を終え、エリシアさんは抵抗勢力の拠点へ帰っていった。
僕は決戦まで時間が迫っていると実感したため、さっそく特訓を再開することにした。
今日の特訓からは、パートナーができる。
地底怪獣モグログだ。
先日、モグログの好意により全力の一撃を尻尾で叩き込んだとき、新たな能力のヒントを得た気がした。
あのときの手ごたえを、自分のものにしたい。
それを伝えたところ、モグログは快く協力してくれることになった。
魔素樹が茂る静かな森のとある一角。
現在、そこを立ち入り禁止地区とし、モグログの棲家としている。
リアナに声をかけられたモグログが、その棲家から少し離れた場所で待っているはずなので、エレナと一緒にそこへ向かう。
「それにしてもモグログはいい奴だね。僕の特訓に付き合ってくれるなんて」
「はい、私もそう思います。モグログは頑丈な怪獣ですけど、レグオン様の力を受け止めるのは、大変なことだと思います」
そう、モグログが僕の力を受け止める――。
今日からの特訓で、僕はモグログを全力でぶっ飛ばす。
先日、放った全力の一撃。
そこで感じたスカッとした手応え。
僕はその延長線上に、怪獣王の力を引き出すことができると感じている。
目的の場所へ到着すると、リアナとモグログが待っていた。
ダメージの回復役をお願いしているモフ美(特大)とモフ菜(大)も一緒だ。
さっそく怪獣形態へ変身し、特訓を開始する。
今、僕の目の前にはモグログがいる。
「じゃあ全力でいくよ」
「ヌゴォォ……」
リアナの念話を通じ、モグログが気合いを込める。
そして、僕も気合いを入れる。
僕は社畜や奴隷だった頃の癖で、つい自分を抑えてしまうが、そうではなく全ての力を解放する。
今もモグログから、クリクリとした可愛い瞳で見つめられているが、怪獣王として細かいことは気にしない。
この辺がきっと大事。
僕は呼吸を整え、持てる力を全開にする。
ズバアァァンッ!!
二本の尻尾のよる一撃で、モグログは大地を揺らして倒れ込む。
派手に倒れ込んだモグログだが、特に表情も変えずにのっそりと起き上がり、「なかなか良かった」などと、リアナを通じてコメントを返してくれる。
そのたびに僕はモグログの身体が心配になりつつ、それでも休憩を挟みながら特訓を続けた。
すると僕の心配をよそに、むしろモグログの防御力が上がってきた。
そこで、モグログの許可を得て、尻尾による一撃ではなく、力いっぱい火球をぶつけさせてもらうことにした。
どうなるかは想像できるが、気にしない。
ボッゴオォォッ!
僕の放った火球がモグログへ命中する。
僕はとてもスカっとしたが、モグログは当然のように黒焦げになってしまった。
想像通り、いや、想像以上だ。
「ヌゴォォォ……」
黒焦げでよろめく姿を見て、これはさすがに怪獣王だとしても気にした方がよく、怪獣虐待ではないだろうかとも思ったが、モグログは黒焦げにも関わらず、ドンと来いと言ってくれた。
僕はありがたいと思いながらも、モグログからMっ気を感じた。
「モグログには感謝しかないね」
「そだね、レオっち」
そんな感じで、モグログとモフモフに協力してもらい、スカッとする感覚が身体に馴染むよう連日特訓を続けた。
その甲斐もあって、新たな能力が発現し、少しずつ効果もアップしてきた。
僕は成長を感じて、もっと頑張りたい気持ちにもなったが、ヘロヘロのときに神聖エヴァリス王国に攻め込まれては困る。
そのためコーチ役のエレナと相談しながら、休憩はきちんと取る。
そして、長めの休憩を取るときは、荒野へ移動してピグモーたちの稽古を眺めるのが、最近の習慣だ。
僕の眼前――広々とした荒野では、ピグ太が稽古の中心となり、四体のピグモーが元気よくぶつかり合っている。
「ブモモ!」「ブモゥッ!」「ブモモモオゥゥッ!」
丸太のような巨体同士が土煙を上げながらドスンとぶつかり合い、迫力満点なのだが、どことなく可愛らさもあって癒される。
そうして、エレナとリアナと一緒に一息ついていた、そんなときだった――。
村の方で赤い煙玉が上がるのが見えた。
あれはエリシアさんが緊急の案件があって村へ来た合図だ。
ピグモーたちには稽古を中断して、休憩がてら待機してもらい、僕らは急いで村へと戻る。
村に着くと、険しい表情のエリシアさんが走り寄ってきて、緊迫した声で言った。
「北部に派遣した偵察隊から魔導ゴーレムを確認したと、急報がありました!」
ついに来た。
エリシアさんからの緊急案件なので、ここに向かってくるまでに覚悟はしてきたが、いよいよ神聖エヴァリスが動き出したようだ。
「……そうか、ついに現れたか」
「はい。偵察隊によると、二つの出入口から八体ずつ、計十六体の魔導ゴーレムが出撃するところを確認したそうです。一部の隊員が魔導ゴーレムを追跡しようと試みましたが、エルフ魔導兵に発見されてしまい、追跡を諦め、なんとか逃げ延びてきました」
「そうか、偵察隊に感謝だな。――魔導ゴーレムは十六体か、噂よりも多いな」
もっとも僕が聞いた噂というのは、たまたま博物館にいたうんちくを早口で語るエルフ青年なので、信憑性は元から少ないわけだけれど。
僕は王様っぽく余裕を見せるように振る舞ったが、とても緊張してきた。
そこへ今度は、神聖エヴァリス王国の様子を上空から監視していたホロウホーが、バサッ! バサッ! と大きな羽音を立てて帰ってきた。
すぐにリアナに念話してもらい話を聞くと、大河の向こうに布陣していた精鋭エルフ魔導師団が進軍を開始したということだ。
そのうえホロウホーは、偵察のために近づいた際、魔法による攻撃を受けたという。
透明であるにもかかわらず見つかってしまったということは、透明でも感知できる手段を持っているということか。
僕と一緒に報告を聞いていたエリシアさんの表情が険しくなる。
「エルフは二方面から動いてきましたね。こちらに分散するほどの戦力はありません。予定通り迎え撃つ方が良いでしょうね」
「……うむ、そうだな」
基本的に戦い慣れているであろうエリシアさんたちに、細かな戦術は任せる。
僕ら怪獣は、大岩の前に布陣し、神聖エヴァリス王国軍を迎え撃つことに決めた。
さっそく怪獣たちへ声をかけ、配置についてもらう。
大岩の上には僕、それにエレナとリアナが立つ。
全部隊の先駆けとして、ピグ太が率いるピグモー隊。
その後ろに、モフ美(特大)とモフ菜(大)が控え、空には二体のホロウホー、地底にはモグログが潜むという布陣だ。
だだっ広い荒野に立つ巨大なピグモーとモフモフは、いやでも目立つ。
この場所に集まっている以上、魔導ゴーレム部隊も精鋭エルフ魔導師団も、すぐに僕らを発見して、攻撃目標とするだろう。
そう予測して、僕ら怪獣から少し離れた場所に、モグログがいくつかの深い穴を掘ってある。
そして、その中にエリシアさんを中心とした抵抗勢力の仲間たちが身を潜めている。深い穴であれば、エルフの探知魔法を避けることができるからだ。
迎え撃つ準備は整った。
皆が緊張する中、再びホロウホーから報告が届く。
魔導ゴーレムの先陣が、すぐ目前まで迫っているという。
僕が目を凝らすと――見えた。
魔導ゴーレムだ。




