第28話 迫る進撃
神聖エヴァリス王国の北部地域――
重要施設であるゴーレム秘密工場から、エルフ魔導兵により編成された偵察部隊が出動した。
複数の部隊が各方面へと展開する中、一つの小隊がクロヴァス荒野を南南西へと進む。
吹きすさぶ乾いた風が、エルフ魔導兵たちの上着の裾をはためかせる。
「ここで一度、周辺の探信を行う」
隊長の指示に、隊員たちは即座に行動へ移る。
隊員の一人が呟く。
「魔力探知魔法、広域展開――。続いて、熱探知魔法、広域展開――」
術者の足元に複雑な魔法陣が広がり、ステルス性の高い上級魔法が静かに発動された。
周囲の空気がわずかに震え、魔導探信波が地平の向こうまで走っていく。
やがて、観測状況を読み取っている隊員が報告する。
「この周辺に魔力反応はありません。ですが、大型の熱源を感知。ゆっくりと移動しています」
その報告に隊長が反応する。
「ふむ、魔力反応がなく、熱反応のみ……、ならば怪獣だろうな」
「はい、おそらくは――」
そこで隊員は眉をひそめ、観測に集中する。
「……待ってください。反応が一つではありません。これは――、一つ、二つ、三つ……。こ、この数は……、た、隊長、大型の熱反応なのですが、全部で十三もあります!」
「は? じゅ、十三だと!? 単独行動が基本の怪獣が、か。そんな事例は聞いたことがないぞ」
ベテランの隊長も、異常な数に動揺を隠せない。
しかし、呼吸を整えて冷静に指示を出す。
「周囲に抵抗勢力の人間がいる形跡はない。各員、現時刻をもって魔導制限を解除――身体強化魔法を発動。光学視認魔法で視認可能な距離まで高速移動するぞ!」
「了解です、隊長!」
命令と同時に小隊は動き出した。
砂塵を巻き上げ、荒野を切り裂くように進む。
しばらくののち、視認ポイントに到着。
視認ポイントと言っても、怪獣からは認識のできない超長距離だ。
二名が周囲を警戒し、隊長と隊員の一人が、視認能力を超強化する光学視認魔法を発動させる。
二人の瞳には緑色の淡い光が宿り、遠くの景色が鮮明に浮かび上がった。
「……先ほどの十三の大型熱源は、毛玉怪獣だったようですね。今は巨岩の地点で停止していますが……ん? 岩の上に人影?」
「……うむ、確かに見えるな。三人……人間か?」
「魔力は感じませんが、形状は人間ですね。まさか怪獣と関係が?」
「断定はできんが、そう考える方が自然だろう」
隊員が再び視線を走らせると、別方向から動いてくる巨大な影を発見した。
「森から新たな怪獣が出現――牛豚怪獣です!」
「またしても複数体か……。この状況、種族の異なる怪獣同士で争うというのか?」
しかし、怪獣たちは争うこともなく、巨岩の前で動きを止め、大人しくしている。
「いや……争わないのか……」
二人はその状況に困惑する。
さらに、地面が不自然に盛り上がったと思うと、そこから一体の怪獣が出現した。
「地中から、また別の怪獣が……!? 硬そうな体表、しなやかな長い腕、あれはゴーレムを破壊した怪獣では――?」
「ヤツか、確かに特徴が一致する。地中に潜伏する可能性は推測されていたが、やはりか。発見が困難なわけだ」
偵察の主目的であった、魔導ゴーレムを破壊したと推察する怪獣を視認。
しかもそこには、複数種の怪獣が同時に集結するという異常な光景があった。
「……恐ろしい眺めだな。奴らにいったい何の目的がある?」
「揃って唸り声を上げているようにも見えます。なんなのでしょうか、不気味な光景です」
しばらくして、怪獣たちはバラバラと森へ帰っていく。
「観測した情報は全て記録しました。これからどうしましょうか、隊長」
「重大案件だ。直ちにバルミア魔導大佐へ報告するぞ」
エルフ魔導兵による偵察小隊は、目標の怪獣を捕捉、さらに不気味な怪獣の集結を目撃したという情報を得て、バルミア魔導大佐のもとへ帰還する。
そのバルミア魔導大佐は、技術士官とともに魔導ゴーレムが破壊された報告のため、師団長ゼラルドのもとにいた。
◇◇◇
観光都市ルミナント近郊に設営された精鋭エルフ魔導師団駐屯地。
偵察部隊からの急報が、滞在中のバルミア魔導大佐に届く。
師団長執務室――バルミア魔導大佐をはじめ、上級士官が集結する。
壁一面に広域地図の貼られた執務室で、バルミアから報告書を受け取った師団長ゼラルドは、粛々と目を通す。
「……計十八体の怪獣、それに三つの人影を視認、さらに熱源のみが二体だと」
ゼラルドの低く抑えた声が部屋に響き、空気が張り詰める。
「はい。種族の異なる怪獣が集結、激しく唸り声をあげるような仕草をしたものの、特に争うことはなく、そのまま散開した模様です。人影も姿を消しました」
バルミアは姿勢を正したまま、淡々と報告する。
「なるほど、それはまさに異常事態だな。でだ、集結した怪獣の中に、ゴーレムを倒した奴はいたが、二つの村を襲った例のデカい奴はいなかったのだな?」
「はい、その通りです。例の村を襲った怪獣はいませんでした。信頼できる部隊からの報告です、間違いありません」
「ふん、どこに行ったのやら……怪獣どもの動きはわからんが、いずれにせよ対処せねばならん。魔導ゴーレムの開発状況はどうなっている?」
列席していた技術士官が、立ち上がり返答する。
「はい、すでに報告した通り、先行量産型が一体破壊されました。ですが、開発状況に問題はなく、スケジュール通りに完了しております。最終調整後、当初予定した十体に加え、試作型を三体、さらに奴隷を酷使して三体、――計十六体の魔導ゴーレムが、出撃可能です」
「よし、ご苦労。確実に出撃できるよう準備しておけ。続いて、王国内の状況、抵抗勢力の人間に動きはあるか?」
これには、辺境に住む村人の反乱などとの関連を調査していた、情報参謀が回答する。
「はい、最近になり動きが活発化しております。どうやら多くの戦力をクロヴァス荒野のどこかに移動させている模様です。現在、師団長のご命令通り、奴らの行動は見逃しておりますが、よろしいのですね?」
「ああ、それで良い。国内に散らばった勢力をクロヴァス荒野に集結させたのち、壊滅させる。国王陛下は、それをお望みだ。共存主義が勢力を増している現状に、国王陛下は焦っている、それ故の命令だ」
ゼラルドは複雑な表情を浮かべながら、そう答える。
その後、幹部たちの報告を受け、作戦参謀がクロヴァス荒野での戦術概要を整理していく。
抵抗勢力と怪獣の集結という異常事態に対抗するため、投入する戦力は当初の計画を大きく上回る規模となった。
ひと通りの確認を終えると、その場を統べるように、ゼラルドが重々しく告げた。
「我々が守るものは神聖エヴァリス王国であり、その臣民である。脅威となるものが現れたのであれば、それを排除することこそ、我々の使命である。魔導ゴーレム部隊は、後方支援部隊とともに、バルミア魔導大佐へ一任する。怪獣どもを叩き潰せ!」
「お任せください、ゼラルド師団長!」
ゼラルドの言葉に、バルミアが力強く答えを返した。
そして、最後にゼラルドの号令が響き、会議は締めくくられる。
「魔導師団は私が率いる。今作戦で、怪獣の群れもろとも反乱分子を一掃する。各員、一週間後のクロヴァス荒野への進撃まで、準備を怠るな!」
こうして、秘密工場では魔導ゴーレムの最終調整が進み、兵舎には緊張した空気が広がっていく。
神聖エヴァリス王国の精鋭たちは、迫る進撃に備え、着実に準備を整え始めた。




