第26話 怪獣全員集合
ここはエルフの国、神聖エヴァリス王国のゴーレム秘密工場。
北の荒野の奥深くにあり、山岳部の岩壁を巧みに利用し、さらに周囲の景色に同化させる幻影魔法によって、厳重に隠されている巨大な施設だ。
内部は魔導炉が放つ淡い光に照らされ、無機質な空間が広がっている。
冷たい岩壁沿いには、ところどころで警告灯が点滅し、施設全体に低く重い「ゴウン、ゴウン」という機械音が途切れなく響いていた。
また、ここには多くの人間が収容され、過酷な条件下での労働に従事している。
そんな秘密工場の一角にある制御室へ、一体の先行量産型魔導ゴーレムが沈黙したという報告が届いた。
報告を受けた技術士官は、表情を曇らせながら、部下へと確認をとる。
「耐久テスト終盤で出力が落ちていたとはいえ、たかが一体の怪獣に破壊されたというのは本当か?」
「はい。夜間の完全自動モードだったため確認に手間取りましたが、破損したゴーレムから回収した魔導データを分析した結果──約十分間ほどの格闘の末、魔導エネルギーが枯渇し、最後は一方的な殴打によって破壊されたと推測されます」
「なるほど、で、その怪獣はどうした?」
「周辺の痕跡から判断すると、南へ向かったようです」
そのとき、制御室に重々しく扉が開く音が響いた。
現れたのは、異常事態を聞きつけたゼラルド師団長直属のバルミア魔導大佐と、その副官だ。
重要施設であるゴーレム秘密工場には、精鋭エルフ魔導兵が駐在している。
バルミア魔導大佐の登場により、制御室内に緊張感が漂う。
「なに? たった一体の怪獣に魔導ゴーレムが倒されただと?」
状況を把握したバルミア魔導大佐は吐き捨てるように言い、続けて副官へ指示を出した。
「これを見過ごすことはできん、南へ向かった怪獣を補足する。すぐに偵察部隊を向かわせろ。ゼラルド師団長へは、私が直接報告する」
こうして、荒野北部のゴーレム秘密工場から、精鋭エルフ魔導兵による偵察部隊が出撃することとなった。
◇◇◇
多くの怪獣が潜む広大な森。
その森を抜けた荒野の一角に、ポツンと目立つ大きな岩がある。
大岩の周辺は岩石と土砂ばかりのため、見通しがよく、遠くまで見晴らすことができる。
今の僕は、その大きな岩の上に獣人形態で腰を下ろし、遠くを眺めている。
隣には、エレナとリアナも一緒だ。
「怪獣たち、そろそろ来るかな。忘れてないかなぁ?」
「レオン様、大丈夫ですよ。怪獣たちはしっかり覚えてますよ」
「まったくレオっちは、心配性だなー」
僕がここに来た理由は、この目立つ大きな岩を怪獣たちとの集合場所にしたからだ。
太陽が真上に来るころ、ここに集合するよう怪獣たちに伝えてある。
ピグモー、モフモフ、ホロウホー、そしてモグログ。
怪獣の国として、初となる全怪獣の集合だ。
果たして、きちんと揃うだろうか。
一応、国家を名乗ることにしたので、集合するくらいの約束は守って欲しいと思う。
最初から約束を破る気のある怪獣はいないと思うが、うっかりさんはいても不思議ではない。
そもそもモグログは、地中にいることが多いので、太陽の高さが分かるのか心配だ。
しばらくの間、エレナとリアナと雑談をしながら待っていると、荒野の向こうに、ぴょこぴょこと揺れる複数の白い毛玉が現れた。
森を抜け、荒野をのそのそと進んでくるのはモフモフたちだ。
約束通り、この大岩を目指して真っすぐに歩いてきている。
えらいぞ、モフモフたち。
こちらへ近づいてくるモフモフたちだが、十三体すべて揃っているように見える。
ただ、相変わらず固まっていると、数えるのに一苦労だ。
「レオっちも数えてみた? モフモフたち、ちゃんと十三体いるね。全員だね」
「そうだね。良かった、良かった。一番乗りはモフモフかぁ」
モフモフたちは仲良く、全員そろって集まってきた。
そして、モフモフたちが揃っているということは、ホロウホーも近くにいるはずだ。
なにしろモフモフのストーカーだし、このあたりの上空を舞っているに違いない。
そう思って周囲を注意深く見渡していると、バサッ、バサッと砂が二か所で舞い上がった。
おそらく、二体のホロウホーが着地したのだろう。
「ねぇ、リアナ。たぶんホロウホー来たよね。透明化の解除を頼んでみて」
「了解、レオっち」
リアナに頼んで透明化を解除してもらうと、二体のホロウホーがトリコロールカラーの派手な姿を現した。
けれど、またすぐに透明に戻ってしまう。
それからしばらくの間、モフモフを眺めながら待っていると、ドシン、ドシンという地響きがリズミカルに聞こえてきた。
森の方から砂煙を巻き上げて走ってくるのは、ピグモーたちだ。
ピグモーたちは一列になり、ピグ太を先頭に爆音を響かせながら迫ってくる。
そのうちピグモーたちもこちらを発見したらしく、「ブモモッ!」と一斉に鳴き始めた。
「レオン様、村を解放したときのように、ピグ太は張り切ってますね」
「そうだね。ピグ太もそうだけど、ピグモーたちはいつも元気いっぱいだね」
そんなピグモーたちの足音と鳴き声に混ざって、ゴゴゴゴゴ……と別の音が地中から響いてきた。
それと同時に大地が揺れ、地面がグググッと盛り上がってくる。
「ヌゴォォォ……」
盛り上がった地面を割って、唸り声を発しながらモグログがのっそりと姿を現した。時間通りだ。
「モグログはよく時間ピッタリに来られたね。リアナ、ちょっと聞いてみて」
「はーい、聞いてみるねー」
リアナがモグログに念話で確認する。
モグログの話によると、昨日からここの地下に潜り、足音などの騒音を合図に出てくるつもりだったということだ。
昨日から長時間じっと待っているとは、相変わらず律儀で真面目な怪獣だ。
こうして、この場所に勢ぞろいしたのは、ピグモー四体、モフモフ十三体、ホロウホー二体、モグログ一体――合計二十体の怪獣たち。
それにエレナとリアナ、僕の三人を加えて、総勢二十三名。
これが怪獣の国、創設時である、現在の全メンバーだ。
全員集合したところで、建国の挨拶をしてみようと思う。




