第25話 地底怪獣モグログ登場
「ヌゴォォォォォ……」
地中から這い出た怪獣は、ゆっくりと長い腕を動かして、身体についた土をざらりと払う。
そして、巨体を揺らしながら、こちらをじっと見た。
なんとなく不機嫌そうな表情と唸り声に警戒して、僕は身構える。
この初めて見る怪獣は、いったい何なのだろうか。
そのとき、リアナから念話が届いた。
『レオっち、その怪獣はね、【モグログ】だよ』
『モグログ!?』
『そう、地中に穴を作って住んでるんだよー。こんなところにいたんだね』
だだっ広い誰もいない荒野の真ん中だと思っていたので、まさか地中に怪獣が住んでいるとは思わなかった。
『レオン様、モグログは静寂を好みます。なので、特訓の音がうるさかったのかもしれません』
静寂を好む怪獣か、なるほど。
確かに、巨大な怪獣形態でドスン、ドスンとやっていれば、騒がしいのは間違いない。
朝から断続的に騒音が響いてきて、いよいよ我慢の限界と言ったところだろうか。
僕は申し訳ない気持ちになりモグログを見ると、ジト目で睨んでいるようにも思える。
『ねぇ、リアナ。悪気はなかったって伝えて。ごめんねって』
『了解だよー』
リアナがモグログに念話を始め、しばらくしてからエレナも念話に加わったようだ。
揉めているのか、それとも話し合いをしているのか、僕はその様子をただ見守っていた。
ほどなくして念話が終わり、リアナが結果を教えてくれる。
『モグログはね、これからうるさくしないなら、別にいいよって。他の場所でもうるさかったから、気が立っていたみたいだよー』
『……そっか、それは悪かったね。ひとまずは許してくれてよかったよ』
僕はモグログと喧嘩にならなくて、一安心する――が、そこで話しは終わらなかった。
エレナが険しい表情で切り出す。
『レオン様。他の場所での騒音というのが、どうやら魔導ゴーレムが関係しているようなんです』
『えっ、魔導ゴーレム!?』
魔導ゴーレムといえば、エルフの新兵器。
まさかこんなところで、その名前が出てくるとは思わなかった。
『はい。荒野の北部でうるさかったから地上に出てみたところ、グレーの岩みたいな人型の何かがいたそうです。怪獣でも魔族でもなかったようなので、たぶん魔導ゴーレムのことだと思います』
『そうなんだ。それで、その魔導ゴーレムはどうなったの?』
『どうやら一体だけだったようで、モグログがなんとか倒したそうです。そのあと、ここまで避難してきたそうなんですが、また凄くうるさかった、と』
モグログにそんな経緯があったのか。
せっかく避難してきた先でもうるさければ、不機嫌になるのも無理はない。
それにしても、モグログが魔導ゴーレムと戦っていたとは驚きだ。
辛くもモグログの勝利ということだが、実際の魔導ゴーレムの強さとは、どれほどのものだったのか。
僕でも魔導ゴーレムに勝てるのか、とても気になる。
そこで、リアナに尋ねてもらう。
『ねぇ、リアナ。魔導ゴーレムがどのぐらい強かったか、聞いてみて』
『了解、レオっち』
少し間を置いて、リアナから返事がきた。
『レオっち、モグログを殴ってみて』
『え、殴る? なんで?』
僕は思わず聞き返した。
初対面の怪獣を殴るとは、どうしてそんな話になったのだろうか。
『モグログがね、魔導ゴーレムとのパンチ力を比べて、どっちが強いか判定してくれるって』
『えっ、強さ判定のために、殴っていいの?』
僕としてはありがたいが、それで良いのだろうか。
モグログの思考は、よくわからない。
『うん。いいみたいよ』
『そう、そう言ってくれるなら……』
その間もモグログは僕を見つめていた。
よく見ると、クリクリとした、わりと可愛らしい瞳をしている。
僕は戸惑いながらも言われるままに、モグログに向かって二本の尻尾を振る。
怪獣形態だとパンチは不得意なので、ここは尻尾にさせてもらう。
バシン。
それなりに音はしたけど、たいした衝撃ではなかったかもしれない。
すぐにリアナから念話で返答が届く。
『かなり弱かったけど、手加減してないかって』
『いや、なんか、つい……』
なんの恨みもなく、無防備の相手に全力は出しにくかった。
『レオっち、モグログは、本気でいいって言ってるよ』
『……わかった。じゃあ、本気でいくよ』
モグログは、きっと自分の耐久力に自信があるのだろう。
どうなるかはわからないが、思い切ってやってみることにした。
僕は一度脱力し、大きく身体をひねり、モグログめがけて二本の尻尾をぶん回す。
加速した尻尾の先端にあるコブがモグログに直撃した。
ズバアァァンッ!! ――自分でも驚くほどの一撃だった。
ここまで本気を出したのは、怪獣になってから初めてかもしれない。
正直、スカッとした。
ただ、その衝撃は大きかったようで、モグログは吹き飛び、地面を何度も転がっていった。
大丈夫だろうか。
さすがにやりすぎたかと心配になったが、しばらくしてモグログはゆっくりと起き上がり、身体の土をざらりと払いながら、リアナを通じて返事をくれた。
『レオっちは、ゴーレムの五倍くらい強いって』
起き上がったモグログは、落ち着いた様子で答えてくれた。
ただ、落ち着いた様子ではあるのだが、脇腹のあたりを押さえて痛そうにしている。
不機嫌そうに現れたにもかかわらず、ダメージを受けてまで比較してくれるとは、モグログは意外に律儀でいいやつだ。
これはモグログにも怪獣の国に加わってもらい、エルフを迎え撃つ戦力になってほしい。
僕はそう考えて、モグログに協力を頼んだ。
話を聞いたモグログは、脇腹を抑えたまま、ゆっくりと身体をしゃがませる。
そして、なにを思っているのかはわからないが、爪の先でゴリゴリと地面を掘りはじめた。
これまでの怪獣たちは即答だったけれど、モグログは違うようだ。
突然、怪獣の国などと言われても、信用できないのだろうか。
怪獣たちと長く一緒にいると忘れてしまうが、それが普通といえば、そうかもしれない。
そんなことを思いながら、そわそわと待っていると、エレナから念話が届いた。
『レオン様、モグログが静かな土地を要求しています。約束しても良いですか?』
『静かな場所か。もちろん良いよ』
モグログにとって一番大事なのは、静かな空間なのだろう。
であればモグログの住処として、森のどこかに立ち入り禁止区域を作ることにしよう。
『それからエルフとの戦いにも協力してくれるそうです。モグログはうるさいエルフたちに、怒っているみたいですよ』
『そうなんだ、頼もしい仲間になってくれそうだね』
モグログと利害も一致するなら、ちょうど良かった。
最後にリアナから謎の一言が追加される。
『あとね、レオっちの一撃、ちょっとクセになりそうだって言ってるよ』
『えっ、クセに?』
モグログは何を言っているんだ?
『うん。たぶんレオっちを気に入ったってことだと思うよー』
『ふーん、そうなんだ。わかりにくいけど』
ともあれ、こうして新たに頼れる仲間、モグログが怪獣の国に加わってくれた。
牛豚怪獣ピグモー、
穀物怪獣モフモフ、
透明怪獣ホロウホー、
地底怪獣モグログ、
たくさんの怪獣が賛同してくれたことだし、そろそろ一度、怪獣の国の仲間たちを集めてみようと思う。
◇◇◇
⭐︎怪獣豆知識コーナー⭐︎
【地底怪獣モグログ】
体長はおよそ四十メートル。ナマケモノのように長い腕と、ライオンを思わせる立髪を持ち、体表はフランスパンのようにゴツゴツと硬質で、非常に頑丈。
この怪獣の最大の特徴は、地底で暮らすこと。地底では一か所に留まっていることが多いが、必要に応じて、数キロにも及ぶトンネルを掘ることもある。
地上でも問題なく活動できるが、その動きは遅い。
性格は律儀で真面目で、引きこもり気味。ただし静寂を好むため、それを乱す存在に対しては、怒りの感情をいだく場合もある。




