第24話 不機嫌な来訪者
七体合体のモフ美(特大)と、六体合体のモフ菜(大)が誕生した──その時だった。
僕らから少し離れた場所で、巨大な赤い炎が燃え上がった。
ボワワワワッ!
僕は突然の出来事に動揺する。
まさか、もうエルフが攻めてきたのか──そう思い焦ったが、よく見ると炎の形状は鳥型。
正確には、フクロウ型だった。
「ん? フクロウ型? あの形状はまさか?」
「うん、そだね。レオっちの想像通りだよ」
フクロウ型ということは、アレしかない。
「なるほど。ということは、あの炎はホロウホーかな?」
「レオっち、正解。あれはホロウホーのテンションが上がった時にだけ発現する、ファイヤーホロウホーだよ」
「ファイヤーホロウホー!?」
ホロウホーにそんな形態があるとは、驚きだ。
いつもは透明な羽根が、赤く燃え上がっている。
僕は燃えてしまって大丈夫なのかと不安になり、さらによく観察したところ、実際に燃焼しているわけではなく、高温を発しながら赤く輝いているだけのようだった。
「ファイヤーになったのは、合体したモフ美とモフ菜を見たからだよね?」
「うん、きっとそう。ホロウホーもモフモフの合体を見たのは、たぶん初めてだと思うし」
なるほど、リアナでも知らなかったモフモフの合体。
ストーキングが日課のホロウホーでも見たことはなく、もの凄くテンションが上がってしまったということか。
これは燃えているというより、萌えているという感じだろうか。
いつもはシャイで透明なのに、興奮のあまり真っ赤になるとはお茶目なやつだ。
しばらく様子を見ていたが、ホロウホーはファイヤー形態のまま。
このままいつまでも待ってはいられない。
「興奮してるところ悪いけど、エルフを迎え撃つ件と、怪獣の国のことを聞いてみて」
「そだね、そろそろ聞いてみるよ」
リアナが燃えているホロウホーに念話で確認する。
「即答でOKだったよ。モフモフのためにもエルフと戦いたいし、モフモフと同じ国で嬉しいって。断る理由はまったくない、だって」
「あ、やっぱり。そんな気がしてたよ」
モフモフたちが怪獣の国に参加した時点で、ホロウホーはOKすると思っていた。
「あとね、モフモフが合体するきっかけを作ったレグオン様に感謝して、一生ついていきますって言ってるよ」
「そんなことまで……」
ホロウホーの気持ちは嬉しいが、理由がモフモフの合体を見ただけなので、どこまで本気の忠誠なのか少し不安だ。
ともあれ、ホロウホーも怪獣の国へ参加してくれた。
そして、ホロウホーはファイヤー形態のまま「友達を誘ってくる」と言って飛び立った。
ほどなく戻ってきて、誘われた仲間もモフモフの合体を見て怪獣の国に参加した。
並び立つ二体のホロウホー。
その姿と能力を見て、僕はステルス戦闘機っぽい活躍を期待し、ホロウホー一番機、ホロウホー二番機と名付けた。
その後、モフモフたちは分裂して元の十三体に戻り、それぞれ好き勝手に行動しはじめた。
それを見て、ホロウホーたちも満足げにどこかへ飛んでいった。
みんな自由気ままだ。
「ねぇ、リアナ。ホロウホーたち、本当に大丈夫かな? 冷静になって、やっぱりやめたいとか思ったりしないかな?」
「そだね、大丈夫だと思うけど、今度もう一度聞いてみよっか」
ということで、後日、ホロウホーが透明なときに、もう一度話を聞いてみた。
二体のホロウホー、どちらもあのときは興奮しすぎていたと少し照れていたが、それでもエルフを迎え撃つ件も怪獣の国への参加も、断る理由はまったくないと、ファイヤー形態のときと同じ返答だった。
透明になるだけではなく、燃える怪獣ホロウホーには、モフモフのついでで構わないので、怪獣の国を空から守る存在になって欲しい。
◇◇◇
ピグモー四体、モフモフ十三体、ホロウホー二体。
それに僕、エレナ、リアナ。
総勢二十二名。
これが現時点での【怪獣の国】の国民だ。
頭数こそ少ないが、なかなかのメンバーではないだろうか。
エルフの精鋭魔導師団は、僕とピグ太の二体の怪獣を相手にするだけだと思っているはずなので、現時点のメンバーでも勝てるかもしれない。
ただ、魔導ゴーレムの強さは測りかねるし、あの強いエリシアさんを物ともしない師団長ゼラルド、それに率いられる精鋭エルフ魔道師団が相手だ。
油断はできない。
フィオナ殿下やエリシアさんも抵抗勢力としての戦力を集めていて、頼りにはしているけれど、やはり僕が持つ怪獣王の力、これがジョーカー的な戦力になるだろう。
そう思って、毎日のように何もない荒野で特訓に励む。
「ねぇ、エレナ。今のどう?」
「全くダメですね。もう一回!」
なかなかに手厳しい。
しかし、僕が少し疲れた様子を見せると。
「でも、レオン様。前より怪獣形態での動きもよくなりましたし、成長してますよ。まだまだこれから、大丈夫です。もう一息、頑張りましょう!」
すかさずエレナは、僕を褒めつつ励ましてくる。
時に厳しく、時に優しい名コーチだ。
「レオっち、頑張れー!」
今日から怪獣の国に新たに誘う相手もいなくなり、リアナが応援してくれている。
そして、午前の特訓が終わって三人で昼食を取り、午後の特訓を開始した――その時だった。
ゴゴゴ……ッ、ゴゴゴゴゴッ……!
大地の底から、鈍く重たい音が響いてきた。
その轟音とともに地面が揺れ、足元がわずかに浮き上がる。
さらに次の瞬間、土が大きく盛り上がり、なにかが地中から這い出てきた。
姿を現したのは、見たことのない怪獣だ。
その怪獣は、ナマケモノのように長い腕を持ち、ライオンのたてがみのような毛並みが印象的だ。
全身は香ばしく焼けたフランスパンのような硬い質感で、それがまるで鎧のようにも見える。
「ヌゴォォォォォ……」
怪獣は低く唸り声を上げた。
その表情と声色には、どこか不機嫌さがにじんでいる。
地中から這い出た怪獣は、長い腕をゆっくりと動かし、身体についた土をざらりと払い落とす。
そして、巨体をぐらりと揺らしながら、こちらを向いた。




