第15話 観光都市潜入作戦(エヴァリス・クロニクル)
村のリーダー役は、エレナとリアナの方へゆっくりと視線を向け、静かに問いかけた。
「エレナさん、リアナさん。お二人の力で、怪獣へ頼むことはできないかね?」
男の切羽詰まった様子から重苦しい雰囲気を感じていたが、リアナはいつも通りだった。
「いいんじゃないかなー。レオっちはどう思う?」
「えっ、ぼ、僕に聞く? ど、どうかなー? いいような気はするけど?」
この場では怪獣の立場で答えられないから、話を振らないで欲しいところだ。
あとでリアナに言っておこう。
動揺する僕を見て、冷静なエレナが話をまとめる。
「はい。私とリアナで怪獣にコンタクトを取るよう努めますので、少しお時間をください」
その後、エレナとリアナが男の依頼を正式に引き受けた。
さっそく僕、それにエレナとリアナの三人で助けを求める男の村へ向かう。
今回は、風邪気味のピグ太には、休んでもらうことにした。
僕は一体のみで、頭のおかしい怪獣として頑張り、外にでてきたエルフを撃破する。
そんな僕の動きに呼応して、村の内部では予定通り村人たちが決起し、エルフを追い払うことに成功した。
新たに解放した村は、僕の住む村からほど近く、辺境の地ではあるが、かなり大きく立派な村だった。
この村でも、子どもたちは魔素樹の実を採集し、大人たちは銀や魔石の採掘、畑や果樹園の管理をさせられていたようだ。
辺境の地とはいえ、人間が反乱を起こし、村からの収益がなくなることを神聖エヴァリス王国が見逃すだろうか。
そろそろ、なんらかの動きがあるかもしれない。
ますます心配になってきた。
◇◇◇
二つ目の村を解放した数日後。
今、僕はリアナと一緒に、神聖エヴァリス王国に向かっている。
目的地は大河を渡った先、王国内で王都に次ぐ規模を誇る観光都市ルミナントだ。
観光都市ルミナントに向かう理由は、神聖エヴァリス王国の動向をスパイするためだ。
どうしてこんなことになったのか……。
その経緯は、僕とエレナ、リアナの三人で交わした一昨日の会話にある。
「さすがにそろそろエルフも黙ってないよね? エレナはどう思う?」
「そうですね。大きな村でしたので、エルフが動いても不思議ではないですね」
「だよね。相手の動きがわかれば良いんだけどね」
「では、スパイ活動はどうでしょうか」
「あ、それはいいかもね」
僕はさすがエレナだと思い、同意したのだが。
「ではレオン様、いってらっしゃいませ」
スパイ活動をするのは僕だった。
「えっ、僕が行くの!? 誰かに頼むのではなく?」
「はい、レオン様が適任です。レオン様なら不死身みたいなものですし、大丈夫ですよ」
「えっ、で、でも。すぐにバレるんじゃないかな?」
「私がエルフ風のバッチリメイクをしますから。最悪バレたとしても、獣人形態か怪獣形態になれば大丈夫ですよ」
「ま、まあ、確かに?」
確かに死ぬことはないかもしれないけれど、心配だ。
「レオっち、心配なら、わたしも一緒に行ってあげるよー」
「えっ、リアナも来てくれるの?」
「うん、わたしがお姉ちゃんで、レオっちが弟という設定で行こうよ。きっとその方がバレないよ」
「そ、そうかな? リアナがお姉ちゃん!?」
リアナはなぜか嬉しそうだ。
「そうだよ、楽しそうだね」
「そ、そうなのかな……。楽しいのかな?」
そのあと、人間形態の僕とリアナはエレナに特殊メイクを施されて、完璧なエルフに変装。
そして今、田舎から大都会を観光に来たエルフ姉弟という設定で、神聖エヴァリス王国の観光都市ルミナントに向かっているというわけだ。
僕らはエレナのエルフ風バッチリメイクにより、特に疑われることもなく渡し船に乗って大河を渡り、その後はのんびりと馬車に乗り、正面から堂々と観光都市ルミナントに乗り込んだ。
道中、特に困難はなかった。
こうして何の問題もなくエルフの都市に侵入して、僕は気がついた。
怪獣がエルフに変装してスパイ活動をするとは誰も想像しないだろうから、心配する必要などなかった、と。
「レオっち、見て見てー、あの水晶の塔、すごーい」
「リアナ、はしゃぎすぎ」
「もー、リアナじゃなくて、お姉ちゃんと呼びなさい!」
リアナは、お姉ちゃんエルフの観光客になりきっている。
最初から今に至るまで、特に緊張感もなく楽しんでいるリアナが正解だった。
僕ももっと楽しんでいこうかな。
それにしても、大きな城門を抜けて周囲を見渡すと、確かにリアナがはしゃぎたくなるのも良くわかる。
ルミナントは、僕の想像を遥かに超えた大都市だった。
中央には巨大な水晶の尖塔が空を突き刺すようにそびえ立ち、白い大理石の建物群が陽光を浴びて、まばゆく輝いている。
市場では、エルフたちが鮮やかな絹の布や銀の装飾品を手に取り笑い合い、大通りには、僕らの他にも多くの観光客らしきエルフが行き交っている。
露店からは果物の甘い香りが漂い、磨かれた石畳が街を明るく照らし、華やかな喧騒に満ちていた。
寂れた奴隷の村とは大違いだ。
僕らは森で採取してきた最高級品質の魔素樹の実を市場で売り、まずは活動資金を増やしておく。
観光客として侵入しているだけなので、どれだけ情報を得られるかはわからないが、何か少しでも状況を掴みたい。
僕とリアナは、キョロキョロしながら市場を歩く。
楽し気な街の様子に、いつに間にか僕も浮かれた観光客のようになっていた。
「お姉ちゃん、このホットドッグ、美味しいよ」
「レオっち、喉渇いてない? あのジュースも美味しそうだよ」
「いいね。お姉ちゃん、ジュース飲みたい」
などと、仲の良いエルフ姉弟の観光客を完璧に装い、本来の目的を忘れそうになりつつも、なにか良い情報はないかと周囲を見渡す。
すると、美味しそうな食品やキラキラとした装飾品を売っている露店の中に、ポツンと巻き物を売っている店を発見した。
「レオっち、あの巻き物って、もしかして新聞かな?」
「ホントだ。お姉ちゃん、あの新聞、読みたい!」
僕らは、巻き物型の新聞を買ってみた。
そして、中央広場のベンチに腰掛け、果物ジュースを飲みながら、おもむろに新聞を読み始める。
「なになに……エヴァリス・クロニクルか」
新聞の名前は、エヴァリス・クロニクル。
しばらく読み進めると、重要な情報を発見した。
『クロヴァス荒野に巨大な怪獣が出現、王国軍が鎮圧を検討中――
我が国の西部辺境クロヴァス荒野にて、怪獣の群れが暴動を起こしている。先日より、複数の大型怪獣が集落や農地を荒らし、収益の減少が懸念されている。王国軍は、怪獣の異常な行動ついて調査を開始した。
王国軍第一師団は、鎮圧部隊の派遣を計画しているが、その時期は未定。現在、精鋭魔導師団が準備を進め、「我々の誇る魔法と叡智で、王国の平和を守る。怪獣など敵ではない」と師団長ゼラルドは力強く語った。対怪獣兵器、魔導ゴーレムが初めて作戦に投入される可能性もある。
現在のところ、辺境の事態は国民生活に影響はなく、観光都市ルミナントの市場や中央広場では、変わらぬ活気が続いている。引き続き、王国軍の勝利と栄光を祈り、神聖なる光の加護が我々にあり続けることを願う』




