第93話 発覚
第3章 渦巻く陰謀、邪悪の残滓。
第2幕 久別重逢
第93話 発覚
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これを記念して、官界の更新では2話連続投稿となっております!第93話に引き続き、第94話もお楽しみください!
教会で目を覚ました後の始めの3日間。私は自分に回復魔法をかけてから味のしないスープをこまめに少量ずつ飲み、それ以外の時間は眠るよう注力した。
体感してようやくわかったことなのだが、この適宜回復魔法をかけ続ける治療法が想定以上に効果的だった。かけた直後はだるさがなくなり、落ちていた食欲も戻るのだ。
どうやらノエルの治療の際の、食前の回復魔法は正解だったらしい。
その後の一週間もあまり変わり映えはしなかった。
スープは牛乳がベースになり、数種類のペースト状にすり潰された何かを加えて煮た後、最後にきなことすりゴマを大量にまぶす。それを食べる直前に混ぜてドロドロになったこれこそが、聖神教会流の病人食らしい。
これを前世の料理に例えるのは難しく、お世辞にもおいしいとは言えなかった。
しかし、歴史ある聖神教会の秘伝のレシピというだけのことはあるらしく、体調はみるみる回復していき、数日で浮き出た骨やこけた頬に肉が付くようになってきた。
そうして10日も経つと食欲が戻り、パン、肉と野菜の入ったスープ、果物なんかが出されるようになった。
この頃にはベッドから出ることもできるくらいには体力が戻っていて、暑さがマシな朝方に敷地内の花壇を回るようになっていた。
そして16日目の今日、神官からの許可を得て無事退院となったのだ。
保護された時に着ていた巫女服もどきは完全にダメになってしまったが、今はこのデザインもお気に入りだ。戦闘で破損することも考慮して、いくつかの予備も作ってある。
冒険者というのは、事前の用意が良くなければ生き残れない職業なのだ。
「さて、いつもの宿は取ったし、ギルドに顔を出しますかね。」
入院中は、魔力腺や魔力操作の確認とか、あといろんな人が面会に来てくれていたので退屈はしなかった。
お見舞いの回数がダントツで多いのはやっぱりミラ師匠で、ほとんど毎日来ては何気ない会話をしていた。
その姿は2年前と変わらず明朗快活だったけれど、同時にどこか思い詰めているようにも見えたのが心配だ。
キリベルカさんやルートは2回ほど来てくれて、その度に花や差し入れを持って来てくれていた。
お見舞いに来た面々の中でも特に驚いたのは、ギネートさんや『燃え盛る刃』の面々まで来てくれたことだった。
思ったよりも私の身を案じてくれる人が多くてびっくりしたけれど、この世界でもちゃんと縁を結べているという事実を感じて、うれしくもあった。
さて、退院と言ってもまだ筋力は戻り切っておらず本調子ではないが、やらねばならないことはある。
お見舞いに来てくれたギネートさん曰く、対蒼龍戦やその直前にあった異変などに関する聴取のため、退院したら出来るだけ早くギルドに顔を出してほしいとのことだった。
「何か、あんまり久しぶりって気がしないな……」
実際には前回から3週間弱経っているのだが、アムヌー出立の前日までは毎日来ていたからか、いつも通り感が拭えない。
両開きのドアを開き、我が身に突き刺さる視線を感じながら一番左の窓口に顔を出した。
「こんにちは、エマさん。ギネートさんから聴取があると聞いて来ました。」
「はい。確認いたしますので、少々お待ちください。」
***
「こちらで副支部長がお待ちです。」
「ありがとうございます。」
コンコンコンコン
エマさんの案内で、応接室の扉にノックをする。まさか3度目があるとは思いもしなかったが、おかげで呼び出しにも慣れたものだ。
「どうぞ。」
「失礼します。えっ―――」
戸を開いた先で待っていたのは、ノックに応えたギネートさんだけではなかった。
キリベルカさんとミラ師匠のまでいたのだ。
キリベルカさんなら支部長ということで納得できるのだが、公的な聴取にミラ師匠まで同席というは予想外だった。
しかもその顔は険しく、いつもの朗らかな雰囲気は無い。
「お待ちしておりました。どうぞ、そちらへ。」
混乱する私をよそに、ギネートさんは着席を促す。
私は思い出したように動き出して、佇まいを正して席に座った。
しかし、落ち着かない。
三人とも物々しい雰囲気を醸し出していて、それはもはや威圧感とさえ呼べるものだった。しかも、ミラ師匠がこんなに深刻そうな表情をしているのは、今まで見たことが無かった。
「今回の聴取は私、グィネート・スレンシムが聴取を行います。支部長とリュドミラさんは同席者であり、聴取の最中での発言は基本的に認められていません。」
私を見ながら言うギネートさんであったが、その様子はどこか左右の二人に釘を刺しているようにも見えた。
「それでは最初の質問ですが、―――」
注意事項の読み上げが終わり、本題の聴取が始まる。
聞かれたのは事前の告知通り、私と蒼龍の戦闘の様子とその前に起きた異変についてだった。
空の赤化と、それに影響された蒼龍の様子。戦闘で使った魔法やそれが及ぼす影響への認識など、聴取の内容は事細かに渡り、私としては刑事さんの取り調べを受けているような、そんな心境であった。
けれども、それは私の最大の不安要因ではない。
私の心を圧迫する最大の理由、それはキリベルカさんとミラ師匠が本当に一言も発していないこと。
普段の二人であれば、ギネートさんの言葉を遮っていてもおかしくないはずなのだ。
にもかかわらず深刻そうに俯いたまま、彼の言いつけ通りに黙っているというのが、むしろ怖かった。
「ふむ……こんなところですか。ミオさんは異変を起こした直接の原因ではなく、空の赤化が蒼龍に何らかの影響を及ぼした。結果、戦闘になったためやむなく大規模な魔法を行使したと。」
「はい。」
「では、こちらにサインと血判をお願いします。内容をお確かめください。」
「分かりました。」
クリップボードに挟まれた書類に目を通すと、それは聴取の内容が簡単にまとめられたものだった。
「……あの、一応お聞きしたいのですが、これは何のための物なのでしょう?正直ここまで格式ばったことになるとは思っていなくて、不安なのですが……」
「これはウォートナック子爵と冒険者ギルドの本部へ報告するための一次資料です。……あぁ、もしかして今回の一件で罪に問われることを気にしていらっしゃるのでしょうか?」
図星を突かれ、体が強張る。
「ご心配には及びません。冒険者ギルドと、その支部を設置すること容認した国との間では協約が結ばれます。そして、その文中には『冒険者が戦闘の二次被害によって周辺環境へ影響を与えた場合、その責を問わない。』という条項もありまして、これは国が認めた正当な権利となるわけです。ですから、今回のケースにおいてミオさんの潔白は確かなものとなっております。」
「そうですか……」
ギネートさんの言葉を聞いて、正直かなりほっとした。戦っている最中は街道への被害とか考えている余裕は無かったし、もしこれで懲役判決とかって話になったらヴァルやノエルと会えなくなってしまう。
「仮に責任が生じるとしたならば、この場にリュドミラさんはいらっしゃらなかったでしょう。最上位層の冒険者にとって、こういったことは日常茶飯事ですから。」
「茶化すな、ギネート。」
彼は小さく笑ったが、その声にかぶせるようにして、重いく威圧的なミラ師匠の声が発せられた。
少しだけ緩んだかに思えた応接室の空気は再び締め上げられ、私の背に緊張が走る。
「……失礼。ミオさん、サインと血判を。」
「あっ、は、はい。」
はっとした私はクリップボードに署名し、親指の腹を手渡されたナイフで切って血判を押す。
「ありがとうございます。聴取は以上になります。……では、私はこれで。」
受け取ったギネートさんは立ち上がり、足早に去っていった。
そうして応接室に残された私に、険しい顔をした二人による無言の圧がのしかかる。
「……それじゃあ、あたしの番だ。」
聞いたことが無いくらい低く、冷めたミラ師匠の声。
(確実に怒ってる……!でも一体何に?私が責められるようなことは……たぶん、無いと思うんだけど……。もしかして街道を塞いだことに対して?でもそれはギネートさんのお墨付きで許されているはずだし……。手間をかけさせたから?でもミラ師匠はそんなことで怒るような人でもないし……心配かけたぐらいしか、ホントに心当たりがないんだけど……!?)
緊張から、私の思考がぐるぐると加速し始める。冷汗が頬を伝った。
「……姉様は、どうした?」
「…………ぁ……。」
「家があった場所に残されていた爆発痕は何だ?」
(そういう、ことか……)
その言葉を聞いた瞬間、全てに合点がいった。
ミラ師匠の焦燥ともいえる苛立ち。威圧的な雰囲気は、そこからくるものだったのだ。
「回答次第では私が相応の対応を取ることを肝に銘じておけ。もう一度聞く。姉様は、今どこにいる?」
「…………どうか、落ち着いて聞いてください。」
「何?」
「お母さんは、4カ月前に亡くなりました。」
「「ッ!!?」」
空気が震えるような威圧感から一転、応接室に静かなどよめきが走る。
私は隠すつもりは無かった。むしろミラ師匠やアルにはすぐにでも伝えるべきだと思っていた。
だが、お母さんがあの時言ったのだ。
『私が死んだことは、出来るだけ秘密にしてくれ。私は、良い意味でも、悪い意味でも、影響力が強すぎる。間違いなく、世間に大きな混乱が起きる。だから、秘密に……。たとえミラや、アルや、フレッドが相手でも、ギリギリまで隠しておいてくれ。』
言われてみれば当然のことだ。
1000年以上に渡って英雄を代表していた人物の死が、何の波紋も起こさずに淡々と受け入れられるなんて、そんなはずはない。
お母さんの言う通り、世間に与える衝撃は最大級のものになるだろう。
しかしバレてしまった。こうなってはもう、時間の問題だ。
ならばここで、あの時何があったのか、何がお母さんを殺したのか、はっきりさせておくべきだと思う。
「……人魔大戦の終結以来、お母さんは魔神の呪いに体を蝕まれ続けていました。そして、その呪いに体を乗っ取られないため、お母さん自身の判断でクロックの自爆を受けて、この世を去りました。家とその周辺が吹き飛んでいたのは、その爆発のせいです。」
「姉様、が……」
「氷星が……死んだ?」
あとがき
リュドミラとキリベルカを襲う衝撃の事実。史上最も有名な偉人の死没が、世俗に知られた瞬間でした。
キリベルカ的には、自分を含む大勢の冒険者の憧れの的であり、現在の平和の立役者の死を意味します。しかしリュドミラにからすれば、実の姉のように慕っていた女性がいつの間にか死んでいたことを知らされることになりますから、ショックも人一倍になります。
この知らせが世界にどんな影響を与えるのか……それについては、次回以降をお楽しみに!




