第94話 リメンバー
第3章 渦巻く陰謀、邪悪の残滓。
第2幕 久別重逢
第94話 リメンバー
本日2話目です!
結局のところお母さんの死は、私、ミラ師匠、キリベルカさんの3者間。それからお母さんの戦友であり『三傑』の一角でもあるアルフレッドさん。あとは、組織の長として情報統制を行わなくてはならないキリベルカさんとアルフレッドさんの最側近に限り共有することとし、それ以外には完全に秘匿されることとなった。
懸念されたのは、やはり世間一般に対する衝撃の大きさ。
現状最も名高い英雄のうち片翼が折れたとなれば、それは大国の政治すらをも容易に動かすだろう。
お母さんは元々人里離れた秘境に住んでいたため、直ちに訃報が知れ渡ることが無かったことを生かすべきだといういう判断だった。
一通り話が済み、沈黙の帳がおりる応接室の中。最初に再び口を開いたのは、ミラ師匠だった。
「あたしはイルムに戻って、父上にこのことを伝えるつもり。ギルドの遠話水晶を使えるような内容でもないし……それで、ミオは?これからどうする?」
「私は……まずはヴァルとの再会を目指します。それから、『蒼穹』の方々に預けたノエルも探さないと……」
先を思うと少し頭が重い。
今の私は、魔法に関してこそ同様―――いや、むしろ強力になっているとも言えるのだが、剣に関してはダメだ。筋力がすっかり落ちていてまともに戦える気がしない。
この先しばらくは、以前のような剣士系魔法使いではなく、典型的なフィジカル弱者系魔法使いとして活動することになる。それも途中からは傷ついたヴァルも連れて。
「……しゃーない。じゃああたしはミオに着いて行くかな。」
「え?いいんですか?」
「だって、そうでもしないとあんたまで死にそうなんだもん。それにどうせイルムには行く予定なんでしょ?」
「え、ええ、まぁ、元々アルに会いに行くためにアムヌーを出ましたし……最終的には。」
「ならいいよ。確かに早い方がいい知らせではあるけど、別に報告したからって何が変わるってわけでもないしさ。急いだところで父上がしょんぼりするのが早まるだけだよ。」
「ありがとう、ございます……」
その提案は、私に取ってまさに棚から牡丹餅と言える。
彼女の食欲を思えば食料に関して若干の不安はあるが、基本的に自給自足してもらえるのなら問題ない。仮に、復活した私の虚界門からそれを賄うことになったとしても、絶対的な安心という恩恵に比べれば……非常に不安ではあるが、きっと安いと思えるだろう。
「そうゆうことで、二人とも今日はお疲れ様。ミオちゃんは話してくれてありがとうね。ミラみたいに旅にはついて行けないけど、アムヌーで何か困ったことがあったら私にも相談してよ?お姉さん頑張っちゃうんだから!」
「キリベルカさんも、ありがとうございます。」
お見舞いの件で再認識したばかりだが、私もこの世界の一員として認識されていることに感動のようなものを覚える。
思えば前世は、皆に心配をかけまいと頑張って―――
(……あれ?)
「今日のところはここまでにするか。それじゃあまた。」
「うん。じゃあねぇ~」
「……あれ、ミオ?」
(みんなって、誰だ?いや待て……それは、家族だ。家族に心配をかけないため。そうだ……その、はずだ。)
突如、混乱が私を襲う。
前世。転生してから、あの頃の日常的な記憶はあまり思い出してこなかった。
例えば、家族。父が居て、母が居て。自分が居て。
(―――何だこの、違和感……まだ誰か、居たような気が……ペットか?それとも兄妹か?)
まさか忘れているのだろうか?血を分けた兄妹の事を?
「―――い、ミ―――!」
そんなバカなことがあり得るわけがない。
兄妹だ。幼い頃から常に生活を共にしていたはずだ。そんな存在を忘れるなんてことがあるはずがない。
しかし、そもそも私はこんなにも前世の事を忘れていただろうか?いや、否だ。
確かに、記憶の欠け方がおかしかった覚えはある。だがこんな、自分が住んでいた家の場所や、家族の顔や、果ては家族の存在自体が思い出せなくなるような状態ではなかったはずだ。
(何が起きてる?何が―――)
「ミオッ!!」
「ぁ―――」
「おい、大丈夫か?」
意識が現実に戻った時、私はミラ師匠に両肩を強く掴まれて顔を覗きこまれていた。
「急に上の空になって……やっぱりまだ体調が悪いんだろ、早く宿に戻って休みな。」
「ぁ、は、はい。」
どうやらいつの間にか思考の坩堝にはまっていたらしく、心配そうにこちらを見つめる二人の姿があった。
無意識的に答えたは良い物の、結局私の関心がそこから離れることは無く、ミラ師匠に連れられ宿に戻る間の記憶は途切れ途切れの状態だった。
(何だ、これ……)
ベッドに腰かけ、自分の掌を見つめる。3週間弱ぶりのこの部屋でも、心が落ち着くことは無い。
何故忘れたのか、何を忘れたのか。いくら記憶を掘り返しても思い出せることが無いことに寒気を覚える。
このままでは堂々巡りで埒が明かない。
とりあえず、本来忘れるはずがないこと、それでいて思い出せないことを列挙していくことにした。
家族構成、自宅の場所、自分と家族の生年月日、家族との思い出その他諸々……
そうしてたくさんの忘れたことを挙げていって、ようやく気付いた。
(思い出だけ消えてるのか……?)
そう、思い出。特に家族や友人との比較的新しい記憶が大量に消えているのだ。
例えば、私が住んでいたのは何県だったのかを思い出すことはできない。しかし、北から順番に47都道府県全てを暗唱するのであれば、何の問題もなくできる。
他にも、ある有名なゲームがあって、それにまつわるネットミームの存在も覚えている。にもかかわらず、それがどんなゲームであったのか、どんな経緯で出来上がったミームであったのかは思い出すことができない。
そんな具合なのだ。
(なんで……?)
心当たりはない。……しかし、目を覚ましてから一つだけ不可解なことがあった。
それは、『魔力腺の超回復』だ。
私の魔力腺は、蒼龍との一戦で使い物にならなくなっていたはず。それが教会で目を覚ました時には元通りになり、しかも、後になって魔力出力の上限が蒼龍戦の時よりも多くなっていることも分かった。
本来、傷ついた魔力腺は容易には回復しない。ましてはあの引き裂かれようでは、そのまま一生使用不能になっていてもおかしくないものだ。
仮に治療するならば、清純な魔力に満ちた場所で精霊の助けを借りて一か八かと言ったところ。気絶してから目を覚ますまでの高々数日の間に、このように劇的に直るようなものでは、決してない。
そしてその結果から浮かび上がる名前は、私が知る限り一つだけ。
「まさか、ヴェリシオン?あなたが……?」
もし彼が起きたのなら、魔力腺に限らず、全ての謎が解けるのかもしれない。
あとがき
……何です?これ。
こんな話、私のプロットにないんですが……?
とまぁ、またもや天から話が降って来ましたので、この先については私でも保証できなくなって参りました。
というか、ヴェリシオン周りこれが起きる確率高くありませんか?彼、呪われてるんですかね?
……まぁ、まぁ。いいでしょう。
ともかく、記憶が消えているとかいう新たな謎に振り回される主人公の明日は、次回以降の更新にて確かめていただければと思います。
それではまた、次回でお会いしましょう。




