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獣剣の魔女  作者: Dy02-SK
第3章 渦巻く陰謀、邪悪の残滓。
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第89.5話 サイドストーリー

第3章 渦巻く陰謀、邪悪の残滓。

第1幕 狂瀾怒濤

第89.5話 サイドストーリー


またまた遅くなりました……

いえね、今回はちゃんと理由があるんですよ。

あとがきの方にその理由となったとんでもない情報量の資料があるので、一目見ていただけないでしょうか。

……あぁ、ほんと……もう二度とこの手の資料書かなくてもいいかな……?

Side 蒼穹


「……」

「大丈夫だよノエルちゃん!きっとミオも無事だし、迎えに来てくれるって!」

「……」

「アティもそんなに暗い顔しないでよ!ノエルちゃんが怖がっちゃうでしょ?」

「……エヴァル、ちょっと。」

「え?」


 ミオがおとりを買って出たことで、まさに命からがら生き延びた商隊とその護衛。彼らは事前の日程通り宿場町で一泊したのち、目的地であるハトロン=クセンツェイ公国の要塞都市『エルォモストサック』を目指していた。

 今は日も沈んだため、街道横にある木が除かれただけの停車地で野営の用意を終えたところだった。


 アクティウラはふさぎ込んだ様子のノエルを励ますエヴァルを呼び出し、小声で話し出した。


「戦いが終わる直前、一際大きな光が西の空を覆ったことは覚えているかしら?」

「あー、あの太陽みたいに明るかったやつ?覚えてるよ。あれミオの魔法だったんでしょ?すっごいよね。」

「えぇ。その可能性が高いわ。でも、驚かないで聞いて欲しいのだけどもしかしたら……ミオさんはもう、亡くなっていらっしゃるかもしれないわ。」

「え、えぇ?ミオが?何で?あのすっごい魔法で勝ったんじゃないの?」


 混乱するエヴァルに、アクティウラは思いつめたような顔で俯いた。


「わたくしも学院生の時に聞いただけなのだけれど、あれはもしかしたら、禁忌とされた魔法かもしれなくて……途轍もない威力と引き換えに、使用者ごと全てを消し去るような、そんな魔法かも、しれないの。」

「そんなっ……!?それじゃあ、ミオはもう―――」


「なーに辛気臭い面してんだよ、お前ら。」


 遮るように現れたのは、リーダーのレァクーラだった。


「だって、ミオが……」

「冒険者なんだ。こうなることはミオは覚悟してただろうし、俺たちだってしてるはずだろ。」

「あなたの言うことは、確かに正しいわ。でもそれは、あまりに薄情過ぎるんじゃないかしら。」


 アクティウラはふつりと沸いた怒りを抑え、レァクーラを睨むようにして言った。だが彼は予想していたかのように即座に否定する。


「違う。俺が言いたいのは、そもそも死んだっていう確証も無いんだからそんな重苦しい顔してないで、あいつが追いつくのを大人しく待つしかないってことだ。実際道中の冒険者ギルドには、ミオが来たら俺たちの動向を伝えて、逆にミオの訃報は俺たちに届けてもらえるよう伝えるって話し合ったじゃねぇか。」

「っ……わたくしは―――」

「さっきはああ言ったが、死んでる可能性よりも、生きてる可能性を考えろ。悼むより祈れって言うだろ?……ミオを信じようぜ。」


 それは、冒険者の理念のようなものだった。


 死が身近に存在する冒険者にとって仲間が安否不明になることは、決して珍しいことではない。

 時にはぐれて、時に置き去りにして、時に足止めを任せて。そうして行方も生死もわからなくなった仲間に対し生き残った者が死を見積もって悼むのは、むしろ死を誘う縁起の悪い事だとされている。

 冒険者たちはそうした状況に立たされた時、仲間の無事を祈るのだ。信ずる神。気まぐれな精霊。そして、無情なこの世界に……


「……えぇ……そうね。」

「うん……」


 二人の顔は晴れなかったが、レァクーラに諭され意識の方向は見定めた。不安の闇に溺れるのではなく、消えかけた灯火だけをみつめる覚悟を決めたのだ。


 この依頼を終えてエルォモストサックに着いた後、どれだけそこに留まらなければならないかは分からない。もしかしたら何年も経った後に訃報が届くかもしれないし、何の続報もなく延々とその街に縛られ続けるかもしれない。

 だがたとえそうだとしても、受けた恩を返すため、彼らはミオの無事を信じて待ち続けるのだろう。



Side END



***



Side ネラート


「アムヌー北東部に異変?」

「はい。アムヌー支部からの定期連絡にてそのように。こちらが件の資料になります。」

「ふむ……」


 部下が差し出した紙束をめくれば、事件の現地調査の資料が事細かにまとめられていた。


(アムヌー……近頃何かと名前を聞くが、今度は一体何があった?)


 資料には調査に踏み出したきっかけや現地に赴いた調査隊の記録などがあったが、中でも一際目を引いたのはその現地で見られた光景に関する記録だった。


(蒼龍の遺骸、それも酷く損傷したものだと!?)


 確定情報ではないものの、非常に確度の高い推察にネラートは驚愕していた。

 蒼龍、つまりはドラゴンだ。確実にAランクオーバー、下手をすればSランクであってもおかしくない存在を、こうもボロボロにするような相手がいるとすれば―――


(まさか、あの少女が……?)


 人類史上稀にみる大英雄の娘にして弟子。もともと注視している期待の新人ではあったが、あくまでも現状のBランクの域に収まる程度だと思っていた。

 だが仮に今回の件がミオによるものだとすれば、確実にAランクに昇格し、近いうちにSランクとなることも視野に入る。


(アムヌーからSランク冒険者か……)


 自分の故郷から人類を超越した存在が生まれると考えると感慨深い物があるが、それは仮定の上に仮定を重ねた結果でしかない。

 今の自分がするべきは、今後も正確な情報を追うことと、アメーティアス支部長としての役割を全うすることだ。


「近隣支部にも同様に情報伝達を行うから、この資料を基にアメーティアス支部の発行として資料を作成してくれ。あと辺境伯様へのアポイントメントも。」

「承知いたしました。」


 支部長の座に着いてから3年。元々驚きの絶えない職ではあったが、このところはそれがより顕著になっているように思う。


「全く、この仕事は退屈しないね。」



Side END

あとがき


今回は本編のボリュームは少な目でお送りいたしました。

多くは語りません。本当の本編はこの後の「ネラートが読んでいたという設定」の資料です。



《蛇足》


《情報共有資料》


資料番号:INF-08‐T-01

機密区分:部外秘

発行日:王国歴1002年8月11日

作成者:アムヌー支部情報管理課


件名

 ツェアトロン街道方面における複数の異常現象、及びそれに付随する事象について


送付先

 アメーティアス支部 

 支部長 ネラート殿

____________________



【概要】


8月8日午後、アムヌー北東ツェアトロン街道方面において、複数の異常現象が発生した。

現地調査の結果、極めて大規模な戦闘の痕跡が確認された。


周辺地域への潜在的危険性を考慮し、各支部への情報共有を行う。

詳細は添付資料を確認されたし。



【添付資料一覧】


資料1 確認された異常現象、及び早期対応の日時と詳細

資料2 調査報告書

資料3 今後のアムヌーの対応、及びアメーティアスの対応案



【資料1 確認された異常現象、及びアムヌー市における対応の日時と詳細】


・8月8日午後1時40分頃

回廊平野のやや南側の方角を中心に、非常に広範囲と思われる空が濃い蘇芳(すおう)色に変色。

壁上で歩哨に当たっていた衛兵は、「腕を伸ばした状態で広げて並べた両手よりも大きく横に広がった、赤黒い帯のように見えた。」と証言。


・同日午後1時55分頃

ツェアトロン街道上と思われる地平線の上に著しく巨大な球体が出現し、地面に落下した。

同じく壁上で歩哨に当たっていた衛兵は、「森の上に月の数倍ぐらいもある水のボールが現れて、地面に落ちて広がった。」と証言。


・同日午後1時56分頃

球体の出現位置とほぼ同じ地点で閃光の発生を確認し、直後アムヌー全体を地震が襲った。始めの内は揺れも小さく感知する者も少なかったが、次第に強まる揺れに市民の間で多少の混乱が見られた。

しかし目立った被害が無いことも幸いし、大きな騒動となることは無かった。


・同日午後1時57分頃

閃光の発生個所を中心に大量の煙が大きく伸び上がるようにして立ち上り、5分ほどかけて巨大なキノコ型の雲を形成した。


・同日午後2時30分頃

衛兵からの報告を受けたウォートナック領主ドロール・ウォートナック子爵が当支部に対し上記4件の異常現象に関する調査・報告や脅威度判定を依頼。

当ギルドは支部長、副支部長、支部情報管理課長の3者連名により正式に受理。


・同日午後3時00分頃

上記3名による緊急会議により、今回起きた数件の異常現象及びそれに付随する多数の影響を『ツェアトロン異変』と呼称することを決定。

また、依頼はCランクの緊急合同依頼に分類されたことで即時掲示板に張り出し、市内に滞在中の有力な冒険者にはギルド職員を連絡に向かわせることで依頼への参加を招集。


・8月9日午前9時00分頃

北門の開門と同時に調査隊が出発。調査の詳細については資料2を確認されたし。



【資料2 調査報告書】


ツェアトロン異変に関する調査報告書


◆調査目的

王国歴1002年8月8日に発生したツェアトロン異変の影響を確認し、アムヌー、及び周辺環境への危険性を把握することを目的として調査を実施した。


◆調査概要

調査 日時:王国歴1002年8月9日午前9時~

調査 場所:ツェアトロン街道 アムヌーより約15㎞地点より先から約15㎞の区間

調査隊構成:Cランクパーティ『疾駆雷走』3名、Cランクパーティ『セシリア』5名、Bランクパーティ『黒鉄』4名、支部情報管理課随伴調査職員6名

調査責任者:現役Bランク冒険者兼支部情報管理課随伴調査職員代表 ファトー・イェンブラス

調査 対象:地形、植生、残留物、魔力痕跡、魔物、生存者


◆調査方法

・現地踏査

・目視、及び望遠筒での観測

・鳥系従魔との視覚共有による空中観測

・残留魔力の測定


◆調査結果

本異変の中心と推定される場所はアムヌーより約30㎞離れた地点である。今回の調査では、その中心地から約20㎞の範囲を調査範囲とする。

今回の調査により、上記範囲内において以下の異変、またはその痕跡を確認した。


・調査範囲の外縁部より中心地から10㎞地点にかけて、異変後に新たに形成された多数の小川や水深数~数十㎝の小規模な沼などが点在。

・中心地から10㎞以内の範囲から沼の規模は拡大。最大で水深約2m。


10㎞以内の調査は、地面の酷いぬかるみと上記の水深が深い泥水の溜まった沼により事実上困難であった。

よって本隊は付近の北側にある小高い丘に調査キャンプを設置し、以降の調査活動では隊を二つに分けるととした。

一つ目が臨時設置した物見櫓からの望遠筒と目視による観測と、鳥系従魔との視覚共有による空中観測により中心地~10㎞地点までの調査を行う1班。

二つ目が現地踏査と目視、残留魔力の測定等により10㎞~20㎞地点を詳細に調査する2班である。


*1班調査結果

  ・中心地の巨大なクレーター。直径約150m、深さ約30m。

  ・クレーター中心部に蛇に似た巨大な遺骸。体の中央部で分断され大部分で骨が露出しているが、所々皮膚や筋肉などが残っている。

  ・クレーター外縁部、円状に隆起した場所に形を保った球状結界が一つ。

  ・クレーターを囲うように広がるドーナツ状の巨大な湖。クレーターの中心を基準に外周半径約500m。内周直径約150m。

  ・湖の外周を囲うように広がる倒木帯。外周半径約2㎞

  ・湖を水源とする多数の川。流れる距離がのびるほど細かく枝分かれし、水量が少なくなっている。大部分が標高の低い南西側に流れている。

  ・ドーナツ状の湖とは別の、多数の湖。クレーターから距離が離れるほど水量は少なくなっている。クレーターを中心に均一に位置している。

  ・クレーター中心部に蛇に似た巨大な死体。体の中央部で分断され大部分で骨が露出しているが、所々皮膚や筋肉などが残っている。


*2班調査結果

  ・調査範囲に分布する水に大量の残留魔力を検出。

  ・調査範囲全域において地面がぬかるんでおり、中心部に近づくほど顕著になっている。

  ・現存する樹木は泥をかぶっているものが多く、中心部に近づくほどかぶっている泥の量が増える。


特筆すべきこととして、調査隊派遣の原因となった一連の異変のうち、最初に起こった『空の変色』に関する痕跡は認められなかった。


◆考察

事前の目撃証言や本調査による結果をもとに、本異変において起こった事象の考察を行う。


結論から述べると、本異変の直接の原因は、少なくともAランク以上の脅威度を持つ2つの存在による戦闘であると考えられる。


そう考えられる理由として、中心地に蒼龍と思われる魔物の遺骸が遺されていたこと。周囲の水から大量の残留魔力が検出されたことがあげられる。


まず中心地の遺骸を蒼龍と推定する理由は、その外見と周囲一帯に遺された大量の魔法で生成された水である。

点在する沼や川、合計28か所において採取した水の全てから大量の残留魔力を検出しており、これらは全て魔法によるものであると言える。

しかし、このような非常に大規模な水の生成は一般的な魔物には不可能であり、遺されていた遺骸から見ても、蒼龍によるものと考えるのが妥当である。


ただし蒼龍と戦闘したもう一体の何者かについては断定が困難である。

中心地にあるクレーターと、それによって隆起した場所の球状結界はその痕跡であると考えられるが、本調査隊がクレーターにたどり着くのは危険性も考慮した結果不可能であり、これ以上の情報も発見できていないためである。


◆脅威度評価

魔物の生息域が影響を受けている可能性は考えられるが、流れ出す水と同じくアムヌーに直接大きな影響を及ぼすことはないと考えられるため、表面的な脅威度は低い。

しかし本異変の原因と考えられる戦闘を行ったもう一方の存在が確認できていないため、潜在的な脅威度は判別不能である。

以上の観点から、今後の継続的な警戒と調査は必要であると判断する。


◆調査責任者所見

本件は単なる魔物災害ではなく、人類史上でも類例の少ない観測が容易な大規模戦闘の痕跡である可能性が高い。

そのため、詳細な調査を行う必要があると考える。



【資料3 今後のアムヌー支部の対応、及びアメーティアス支部への対応案】

*アムヌー支部の対応

・冒険者ギルド地方本部への連絡。

・ツェアトロン街道は異変の影響により完全に寸断され、回廊平野方面への通行が不可能であるため、一般利用者による立ち入りの禁止。

・大規模な湿地帯の踏破や、より広域・精密な空中観測が可能な追加調査隊の派遣。

・高ランク冒険者による異変の影響を受けた地域全域の脅威度の再評価の実施。


*アメーティアス支部への提案

・ツェアトロン街道封鎖の周知。

・高ランク冒険者への調査隊参加の提案。

・近隣支部への本情報の伝達。

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