第89話 乾坤一擲
お待たせしました!
出来る限り週2更新したいんですけど、ちょっと時間配分的に厳しい所があって……もしかしたら今後、修一更新に改定するかもしれません。
Side アクティウラ
「あれは……」
荷台の後部から顔をのぞかせ、すでに悪い顔色をさらに青ざめさせてアクティウラが呟いた。
その視線の先にあったのは、鈍色の空にぽっかりと穴をあける魔法陣であった。大きさこそ先の水球には及ばないものの、確かな魔力の波動とその異質な出で立ちが彼女の記憶を呼び覚ます。
それは、まだ自分がイルムの一学院に通う学生であった頃の、ある日の授業の記憶。
理論魔法学の教授が語ったのは、人類が生み出し、ただの一度だけ使われた史上最大規模の魔法についての小話。『幾人かの熟練の魔法使いが息を合わせる儀式魔法については、先日話したと思うが、そのうちの一つに夜を呼び出し、破滅を招来する禁忌の魔法がある。』という文言から始まった、ある魔法についてのものだった。
その魔法は当時のイルムで天才と謳われた賢者が創り出し、そのあまりの危険度から秘匿されていた。しかしその開発者の死によって世に出回り、最終的には長年魔物の脅威にさらされ続けて疲弊した国で、その天才の弟子たちによって初めて使われることになったのだ。
結果は惨憺たるものだった。
魔法のその効果は前評判通り絶大なもので、周囲一帯の魔物を一匹残らず殺しつくした―――|その国の首都ごと全てを消し去る《・・・・・・・・・・・・・・・・・》ことで。
「ミオさん、まさかあの魔法を―――!?」
気付いた時には、遅かった。
穴の奥から一筋の光が落ち、西の空を太陽よりも明るい光が覆いつくした。
Side END
***
「”そして降臨せよ!!滅亡を告げる隕星”!!!」
(ノエルたちは致命範囲外だし、目的の魔法は発動したし、自爆防止の魔法も待機状態!猶予はあと5秒!それまでにヴァルに触れなければ、私たちごと木っ端微塵だッ……!)
『帰るよ、ヴァル!』
『うん!』
新しく取り出した刻印済み魔力結晶から引き出した魔力で、全身を強化する。限界を遥かに超える魔法を扱ったことですでに魔力腺が悲鳴を上げているが、そんなことは今は無視だ。私は障壁を足場にヴァルの下へと駆けあがった。
問題は、蒼龍が未だ動きを見せていないこと。開かれた”星海を望む天門”を見上げたきり佇むだけの彼の行動は予想できないが、こちらにも余裕がないため全力でヴァルを目指すことしかできなかった。
(届けっ……!)
タイムリミット間近。終始動きの無い蒼龍を横目に、ヴァルの鼻先に―――触れた。
「”九天を跨ぐ本尊”っ!!」
発動した魔法は私たちの実体を遠い次元の彼方に押しやり、基底次元から遠ざける。
一閃。最後に降り注いだ光の筋が蒼龍を貫いたように見えたが、それを確かめる前に私の意識は戦場から遠のいていった。
***
Side 『蒼龍』ウルティノード
天に穴が開き、そこへ突き上がった一条の魔力が魔法として実を結んだ瞬間、ゾクリと背筋に悪寒が走った。
アレは、避けなければ死は免れぬと、我の直感が告げていた。
そしてそれを予感したのは、我だけではなかったようだ。
『■■■!』
(避けぬ。)
『■■■■!』
(せぬ。)
『■■!?■■■■■■!』
(聞かずとも分かるであろう。そも、ようやく体を取り返したというのに、みすみす指示を鵜呑みにするわけもあるまい。)
頭に響くこの声こそ、先ほどまで我の体を乗っ取っていた張本人。
絶え間なく低俗な感情を押し付け、我を絶望と虚憤に貶めようとした―――陥落せし神の残滓である。
『■■■■■!■■■■■■■■■■■■■■■!』
(せぬ。そのような負け惜しみは、龍の風上にも置けぬ下劣な愚行である。)
『■■■!■■■■■■■■■■■■■!■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!』
(戯言を。このまま放ればお主に飲み込まれ、無為な破壊を繰り返すだけの蛇にも等しき愚物に堕ちる我を、命を賭してまで介錯しようという彼の娘と幼子に、どうして恨みなど抱けよう。)
『■■■!!■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■―――』
(それこそが龍の矜持だからだ。母上は言った。「誇り高くあれ」と。そして我も腹の底から志を同じくしておる。それが全てだ。)
同じことの繰り返し。話にならぬ。
……いや、もはや己で思索する能すら持ち合わせておらぬのであろう。何せアレらに侵され、陥落し、散り散りとなり果てた残滓の欠片。
例え闇を統べる神と崇められたモノであろうとも、一度陥落すれば辿る末路は他と変わらぬのだ。
(尚も理解できぬのならば、それはお主と我が決定的に異なるというだけの事。大人しく我と共に滅びるがよい。)
『■■■ーーーーーッ!!!』
Side END
***
何も見えず、何も感じられない数秒の虚無の後。私たちはすでに張られた”天慈の聖護”の中に存在していた体へと、意識が引き戻された。
”滅亡を告げる隕星”は問題なく効果を発揮したらしく、目下に存在していたあの洪水は消滅し、代わりに直径150m、深さ30mもあるクレーターが大地に爪痕を刻んでいた。
だが驚くべきはその爆心地にあるものだ。
何と、体を二分されたような蒼龍の骸が、ボロボロになりながらも残っているのである。
龍鱗、龍爪、龍牙などの外部の素材と肉については完全にダメになったようだが、それでもほとんどの龍骨が無事で、生前の姿を呼び起こす程度には形を保っていた。
今回の魔法の威力は原爆と同等で、龍鱗の特殊防御を貫通するようわざと物理現象に寄せていた。
しかも意識が飛ぶ前に見た光景とこの状況を見るに、あの分かたれているところに隕石の直撃を受けて切断されたか、そのまま地表との板挟みになったはず。
(それなのに、ここまで形が残るなんて……)
正に規格外。最強種の名に恥じぬ肉体強度。並みの魔法では傷つかないはずだ。
「……とりあえず、まだ体が動くうちに離れようか。」
『ぼくはもうダメかも。』
「ちょっ、さすがにヴァルを運べるほどの余裕はないよ。」
『えぇ~~』
「お互い限界なんだから、何とかしてクレーターの外ぐらいまではいかないと。術式維持の魔道具があるから多少危ない場所でもダウンできるけど、ここは熱すぎて消耗が激しすぎるの。ほら、行くよ。」
『はぁ~ぃ……』
私の魔力腺も大概だが、ヴァルの様子はさらに酷い。
全身の鱗が砕け、一部では血の通う肉がむき出しになっている。 魔力腺は私よりもさらに深刻なダメージを受けているようだし、すでに意識を保って動いていることも不思議なほどだ。
「これは、ノエルに追いつくのも大変だなぁ。」
きっと横になれば一歩も動けなくなるだろう。最低でも3日、長ければ一週間と言ったところか。
(蒼穹の人たちには迷惑をかけるだろうけど、命を救った恩ってことで許してもらえるかな。ただ……ノエルに不安な思いをさせるのだけは、気がかりかも。)
とはいえ、ひとまず生き残るという目標は達した。後はこの先だけでも、安全を最優先にしていこう。
あとがき
全てを懸けたミオとヴァルの作戦は、外部からの援護(2度の雷撃魔法)と良い意味での誤算(最終局面に手蒼龍が体の制御権を取り戻したこと)により功を奏しました。もしこれらが無ければ、二人は完全な敗北を喫していたでしょう。
そもそも蒼龍は例の魔神の残滓に体を乗っ取られたことで本人が戦うよりも大幅に弱体化しており(例えば前話の優先順位の混乱など)、ご本人と正面から先頭になっていれば正しく瞬殺されていました。
そう言えば第一章でもドラゴンとドラグイーターの戦闘を目撃したことがありました(第31~32話)が、そのドラゴン(ヴァルグリス。ヴァルの母龍)も妊娠と長距離飛行でそこそこ弱体化された上でアレですからね。しかもお相手のドラグイーターも妊娠してましたし。(つまりあれは子を守るため、あるいは子に栄養を与えるため、双方負けられない戦いだったというわけです。)
そう言うことですので、本当の意味でのドラゴンのフルスペックを見られるのは、またかなり先の話になりそうです。
あ、そう言えば爪痕だけで言えば描写はされていますよ。
『セイ=アラミーア大山脈』と『セドナ山脈』を隔てる『回廊平野』が、ドラゴン同士の争いによってつくられた人為的ならぬ龍為的な地形であるということとか……ね?




