第87話 彼此相為すは盤石の絆からなり
第3章 渦巻く陰謀、邪悪の残滓。
第1幕 狂瀾怒濤
第87話 彼此相為すは盤石の絆からなり
遅くなりましたぁーーー!
本編、ちょっと長めです!
それと、投稿を始めて一周年になりました!まだまだ至らない部分もありますが、理想に近づけられるよう精進してまいります!
龍。
それは、絶対的な強者として君臨することを約束された存在。
無尽蔵な魔力総量と、それを余すことなく振るう出力と制御力。
身体一つとっても、際限なく強化される『龍骨』、魔法を減衰させる『龍鱗』、並みの金属など容易く引き裂く『龍爪』、『龍牙』を備えている。
遠近、攻防問わず隙が無い。そんな冗談みたいな化け物相手に、どう勝つのか。
私が辿りついた答えは、実に単純だった。
『桁違いの大質量で押し潰す』
私の持つ最強の魔法は、ミラ師匠直伝の『月影流』奥義―――”世を穿つ光剣”。
発動までの前隙が短く、得られる効果に比べれば破格な消費魔力。実戦性能という一点において、これ以上なく優秀な魔法なのだ。
実際、一般的な魔物に対してこれを使えば、大抵は跡形もなく蒸発する。まさにこの間、ガルーダがそうなったように。
だが『最強』と『万能』は違う。
光属性魔力の塊を叩きつけるこの魔法は、『龍鱗』との相性が最悪だ。
仮に直撃させられたとしても、致命傷には程遠い結果となることが目に見えている。
だから魔法ではなく、”魔法で生み出した質量”で殴る。
幸い、こちらにはそれにうってつけの魔法と作りためた大量の魔量結晶がある。
『勝つよ、ヴァル!』
『うん!勝とう!』
気合十分。大技を突破され苛立ちを滲ませるヤツの瞳を睨み返しながら、私はヴァルの背を飛び降りた。
これから構築する魔法はアイツを討伐する可能性が十分あると言えるほど強力なものだが、その分発動までの前隙が長く、発動後も目標をその場に釘づけにしておく必要がある。つまり、ここから先はヴァルがどれくらいヤツの気を引き付けてくれるかにかかっている。
『お前の相手はぼくだぞ!』
「クオオォーーーン!!!」
格上相手にも怯まず、高々と咆哮をして見せるヴァル。彼が持つその不退転の勇気が、私の心にも火を灯す。
思えば、彼が何かに挫けるところは見たことが無かった。今回もきっと、その太陽のような精神が勝利の光明をもたらしてくれることだろう。
ならば私が為すべきは、ポテンシャルを120%引き出した最高の一撃を用意することだ。
だから、―――集中。
***
Side ヴァルバティア
『お前の相手はぼくだぞ!』
「クオオォーーーン!!」
声高な宣言に、蒼龍は忌々し気に顔を歪めた。
(本当は怖い。逃げ出したいくらい怖い。それでも―――ミオと居られなくなる方が、ずっとイヤだ!)
「ルアアアァァァ!!!」
怒りに染まった蒼龍の叫びが戦場にこだまし、先ほどまで降っていた全ての水塊が空中で静止する。
するとそれらは、瞬く間に意思を持ったように動き出してヴァル目掛けて突っ込んだ。
彼はそれを全力で避けながらも思考の隅で考えていた。
蒼龍の後頭部に浮かぶ、あの黒い輪は何なのだろうか?と。
最初に見た時、龍は黒いモヤにまとわりつかれて苦しんでいた。それが凝集してあの輪は作られたのだ。
(……じゃあ、あれを取ったらどうなるんだろう?)
純粋な疑問ゆえにどこか的を射ているように感じたがしかし、彼が水の弾丸を避ければ避けるほど攻撃の苛烈さは増していく。
思考を手放した彼の必死の回避機動も虚しく、遂にそれがミオの残した結界に傷をつけた。
「!」
彼は即座に爆破し水弾をはじき飛ばした。
ミオによるとこの結界は多少壊れようとすぐに直るらしい。だが同時に修復回数に限界があるとも言っていた。
詳しい数字については教えられてないし、この熾烈な攻勢の最中で回数を覚えていられるほど蒼龍の攻撃は甘くない。何より、攻撃を受けないに越したことはない。
避けて、吹っ飛ばし、引き離し。
彼がこれまでの経験で培ってきた空間機動のノウハウと、普段は持て余すばかりの自らの魔力をここぞとばかりに注ぎ込みむことで、ギリギリの逃走劇を演じていた。
蒼龍は一層怒りを深める。
彼我の格差は歴然だ。この小さき紅龍の子は、己に対し手も足も出ない。にもかかわらずどうしてここまで手こずる?なぜ決着がつかない?
「ルウゥゥゥウウウァアアアアアッ!!!!」
それまで苦悶、憎悪、嫌悪、苛立と様々な感情が浮かんでいた瞳が、憤怒一色に染め上げられた。
蒼龍、ブチギレである。
威圧感は倍増し、濃密な怒気が乗った絶叫にヴァルの背筋が凍る。しかしその瞬間、彼を責め立てる水塊の群れは一つ残らず姿を消した。
―――ゾクリ。うなじに嫌な予感が走る。ひしひしと感じる濃密な魔力は、彼の頭上に集まっていた。
「ッ!!」
ヴァルは目を見開いた。
その視線の先には、外周を歩けば1時間ほどもかかるアムヌーを丸々収めても余裕がありそうな、あまりにも大きすぎる水の球が浮かんでいたのだ。
しかも、それだけの巨体を得てなお荒れ狂う魔力に表面が波打っている。落下の風圧で飛沫を撒き散らしながら、その巨球は彼目掛けて一直線に落ちていた。
死。それが鮮烈な現実味を伴って脳裏をよぎる。
あれを避けなければ命はない。幸いミオは龍を挟んだ反対側の空中に居るので影響は少ないだろうが、自分が死ねば相棒もまた運命を同じくすることになる。全速力だ。あふれ出す魔力を翼で掴み、圧縮し、後方へ噴き出す。
……しかしそれでは足りない。彼の全力では、この巨大な水の塊の下から抜け出せない。
自らの命と、それよりも大切かもしれない相棒の命。両方を背負い死の瀬戸際に追いやられたヴァルバティアは、極度の緊張と諦めずに燃える心の狭間で走馬灯を見た。
それはまだ森で暮らしていた頃の、ある日の日差しうららかな午前。いつものように散歩に出ていた時の、何気ない会話だった。
「そう言えば、ヴァルと似た方法で空を飛ぶ乗り物があるんだよ?」
彼女が言うそれは燃える水を魔力の代わりにして飛ぶらしいが、彼とは違ってその水に火をつけるのだとか。
ならば、もし仮に自分が魔力を燃やしたとしたら、純粋な魔力だけで飛ぶよりも速度が出るのではないか。
これは根拠も裏付けもないただの突拍子もない思い付きだ。そんなことは、ヴァルとて理解している。
しかし同時に、試さなければ結末を変えられないことも、理解している。
是非は無い。
属性変換されぬまま渦を巻いていた魔力に、火属性魔力が混じった。
魔法はイメージだ。あとはこのガソリンの塊とも呼べるような魔力に、火花が爆ぜて火が付くイメージを、与えるだけ。
ッゴゥ!!!
「っ……!」
翼が焼けるように熱い。
炎を体現するものとして、それに耐性があるはずの紅龍がやけどをする。それがどれほどの異常事態なのか。その爆発はどれほどの威力なのか。
彼はそれを理解していなかったが、それは今さして重要なことではない。
(長くは続かないかも……!)
それでも、彼の予想は正しかったのだ。
最高速のさらに先。過去の自分を置き去りにする文字通りの爆発的加速とトップスピード。
水球は変わらず落ちてきている。
だが、今ならば。この窮地がもたらした新たな革新を得た今ならば。
(これなら、まだ間に合う!!)
彼の翼へ膨大な火属性魔力が集束する。それは、自分が炎を吐くときでさえ使わないほどの量と密度だった。
(ぼくはまだ、死ねないっ……!!)
それは自分が全幅の信頼を置く相棒、ただ一人のため。
己の全てである彼女の、その信頼に応えるため。
彼女の隣へ、帰るため―――
「クオオォーーーンッ!!!!」
空が、爆ぜた。
あとがき
負けられない戦いで輝く命の煌めきが、曇天を照らします。
次回、対蒼龍戦決着(の予定)




