第85話 死闘の影に潜む闇
第3章 渦巻く陰謀、邪悪の残滓。
第1幕 狂瀾怒濤
第85話 死闘の陰に潜む闇
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龍はまっすぐにこちらへ迫ってきている。殺意の籠もった視線が私を貫き、あふれ出る魔力と存在感に圧倒されそうになる。
「ふぅーーーっ……”天光よ、ここに。それは祝福されし天上の息吹。我が衛となりて、此の身を守らん。天慈の聖護”」
私は自身に貼っていた結界を幾重にも張り直す。5層では足りない。2年前に受けたヴァルグリスさんの全力攻撃のように、ドラゴンの攻撃は余波を防ぐだけで5層の結界がほとんど消し飛ぶような火力なのだ。この程度の代物では、正面からやり合って生きて帰るなんて夢のまた夢。
5層、10層、15層。ここまでやって一安心といった具合だろう。もちろんこれだけの枚数を維持するのは、魔力リソースと思考リソース、双方の面から見て大きな負担となる。しかし、出し惜しみすれば死ぬだけだ。
私は虚界門から魔術を維持する魔道具を取り出し、3つの魔力結晶をセットした。これにはまだ術式を付与していないので、戦闘後無事であれば再利用できる。
私の作る魔力結晶は、1つにつき私の魔力総量のだいたい70%分の魔力を内包している。それが三つとなれば、追加で二人の私が防御に専念する計算となるので、そこそこ安心できるだろう。
『ミオ、来るよ!』
『アイツの攻撃は全部回避だよヴァル。それと位置取りは任せたからね。』
『あいさー!』
龍が吼えた。その目が血走り、憤怒と苦悶に歪むのが見えるほどの至近距離まで迫る。私は手綱を握り締め、来たるGに備えた。
「来いッ!!!」
大口を開いて食らいつこうとする攻撃を引き付けていたヴァルは、閉じかけの顎の檻から間一髪で逃れる。
(相変わらず凄まじい加速度……!でもこれで初撃は無傷で―――)
ガシャアァン!!
「なっ!?」
響いたのは、すれ違いざまに振られた尾が結界の表層を砕き割る音だった。雨塊を無傷で耐えきる結界が、いともたやすく3層も。
(修復にはさほどかからないけど、挨拶がわりの小手調べとも言えるこの接触で3層か……!)
この戦い、思った以上に過酷な試練になりそうだ。
****
Side ???
「どうだ?いいデータは取れそうか?」
「いいデータなんてもんじゃない!まさか本当にドラゴン相手に試せるなんて思ってなかった。案外言えば通るもんだね!」
全身を鈍色に磨き上げられた重厚な騎士鎧で包む男が、腰に佩く剣の柄頭を撫でながら聞く。
それに応えたのは、白い髪―――地面に引きずるほどの長さで、遠目からはまるでモップのようにも見えるほどのくせ毛の、小さな白衣の女だった。
「分かるかい?僕は今最っ高に興奮しているんだ!理論上ドラゴンにも効果があることは分かってたけれどもね、流石にここまで劇的な変化があるとは思っちゃいなかった!何分相手は最強種。幾多の常識を打ち破ってきたこの僕でさえ固定観念から逃れ得ないほどの格がある相手。でも実験は大成功!予想通り、多少手を加えようが『コレ』は龍の精神防御すら貫通するんだ。上手くいけば計画を大きく前進させられる……!これは陛下もお喜びになるぞぉ……!」
女は人一人が中に入れるほど巨大な何らかの精密機器の上に座り、それとコードで接続された『ノートパソコン』に忙しなく文字を入力していた。
「そいつぁ良かった。……しっかし酷いもんだな。あれほど傲慢に俺たちを見下していたドラゴンがあのザマかい。『ソレ』の持つ力は全く恐ろしい。」
「そりゃあ、最終的には神さえも引きずり落とすものなんだから当たり前さ。それもあのドラゴンはただ影響を受けるんじゃなく、体内に直接注入されたんだ。抗えという方が無理がある。……あ、さっきはありがとね。ドラゴンに正面から不意打ちを食らわせるなんて、君じゃなきゃ出来なかっただろうから。」
普段の態度とは違い珍しく素直に感謝する女に、男は意外に思った。
「それは構わんが、俺が居ない場合はどうする気だったんだ?」
「そりゃあ、陛下に例の試作兵器の使用許可をもらって、それに乗せてここら一帯にばら撒くつもりだったよ。」
女の返答に、男はぎょっとする。
「おいおい、それはさすがに考えなしが過ぎるだろう!?そもそも今回の実験自体が『ソレ』の制御を主題にしたものなんだよな!?そんな制御しきれない『細菌兵器』みたいな代物をばら撒くだって!?まかり間違って蔓延したらどうするつもりだったんだよ!」
「君って強いのに、そこそこの頭もあるんだね。」
「だれが単細胞だってぇ……!?」
男は怒りに震え、左手は柄頭を握り締め、右手は拳を握り締める。しかし女はそれを意にも介さず、相変わらず画面とにらみ合っていた。
「まぁ、もしその案で今回の実験計画を進めてたとしたら、結界を張って外部に漏れないよう対策したよ。ほら、この間幹部に格上げされた新人がいたでしょ?あいつの『奇跡』ってやつで作った結界は『コレ』に対して抜群の耐性があるからさ。」
「それがドラゴンに破壊されない保証はあったのか?」
「さぁね、それは確かめてないから知らないよ。」
「また無責任な……」
「当然実験に必要なら確認してからやってたさ。僕もまだ死にたくはないし、陛下に幻滅されたくもないしね。……よし、データはこれくらいでいいや。それじゃあ帰ろっか。」
「ハァ……了解。『こちらオルカーン。各分隊長へ通達。現時刻を持って実験は終了。直ちに帰投準備を開始せよ。どうぞ。』」
『こちらアルファ1。了解。』
『こちらベータ1。了解。』
『こちらチャーリー1。了解。』
Side END
あとがき
水面下で動き回る敵の一部が、遂にお披露目となりました!
ふふふ……いくら人目を盗もうと、神をも超越した作者の目からは逃れられないのだよ……!
冗談もそこそこにしまして……今回登場した二人はあくまで氷山の一角。しかし今回の件で(ミオ自身に自覚は無くとも)ミオに対して大きく喧嘩を売った形となります。
何せ龍という手に余る大物の後処理を丸投げしたんですからね。地の果てまで追われても文句は言えません。
さて、背景も語られた今、次こそはミオと龍の真の戦いが幕を開けますよ……!




