第81話 揺り籠に別れを告げて
第2章 曙光と絆の先へ
第3幕 昼夜兼行
第81話 揺り籠に別れを告げて
祝!14,000PV!ご高覧いただきありがとうございます!
今回は非常~に長くなってしまいました!その数なんと4316文字!
『獣剣』史上最長の一話となりましたが、会話も多めで読みやすい話になっている……と思います!
朝。夜の静けさから市場の活気が戻り、冒険者ギルドではすでに依頼の取り合いが始まり、アムヌーの日常が始まる時。
そして今日は、私がこの街を離れ新たな一歩を踏み出す時でもある。
「おはようございます。サヴカンドさんの商隊はこちらでしょうか?」
「どうもおはようございます。サヴカンドは私ですね。あなたは……ミオさんでお間違いないですよね?」
東門の開門を待つ人々の喧騒が響く中、門前広場に集合するいくつかのグループの中に依頼主の商会を示すエンブレムを見つけた。
「はい。依頼書と冒険者証の確認はしますか?」
「いやいやとんでもない。鷹殺しと名高いあなたに護衛していただけることを光栄に思いまして。今回はどうぞ、よろしく頼みます。」
「こちらこそ。」
対応してくれたのは、くすんだ金髪と角ばった細身が特徴の中年男性で、彼が商隊長のサヴカンドらしかった。
私は差し出された右手を握り返し、しっかりと握手を交わす。
すると、彼は私の隣に目線を滑らせて聞いた。
「そちらは?」
「この子はノエル。縁あって引き取った子です。戦う力はありませんので、私の同行者ということになりますね。」
「なるほど。私はサヴカンド。よろしくね?」
……コクリ。
目線を合わせて微笑みかけるサヴカンドさんには頷いたが、ノエルはすぐに目を逸らして私の後ろに隠れてしまった。
やはり初対面の人と話すにはまだ早いか。
「あはは。人見知りかな?」
「そうなんです。この通りなので、そっとしておいてあげてください。そういえば、出発は9時で変わりないですよね?」
「ええ。出発は予定通り開門に合わせた9時の見込みです。あなた以外の冒険者さんはそちらで待機していますから、出発前に挨拶してはどうでしょう。」
示された先を見ると、革鎧や外套などのいかにも冒険者らしい格好の男女4名が雑談に花を咲かせていた。
「そうしましょう。ではまた後ほど。」
「ええ。」
サヴカンドさんとの打ち合わせを終え、私はその男女4名の輪に声を掛けた。
「どうも、今回の商隊護衛で合同になるミオと言います。そちらは蒼穹の皆さんで間違いありませんか?」
「んぉ?そっちはもしや、噂の鷹殺しか!?」
反応したのはさっきまで背を向けていた赤髪で背の高い青年だった。
「あー……まぁ、はい。そのガルーダスレイヤーってやつ、どのくらい広まってるんですか?」
「アムヌーで知らない奴は居ないじゃないか?俺が初めて聞いたのも二週間ぐらい前だしな。」
「左様で……」
「それより、あんたの言う通り俺たちがCランクパーティ”蒼穹”だ。俺はリーダーのレァクーラ。ランクはCで、ジョブはアーチャーだ。よろしくな!」
「どうも、Bランク冒険者のミオ・フロラインです。ジョブは……えー、魔法使い兼剣士、かな?今回の依頼では遊撃を希望します。よろしく。それと―――」
私は後ろに隠れるノエルが見えるようちょっとだけ横にズレてから続ける。
「―――こっちはノエル。冒険者ではなく私の同行者です。見ての通り人見知りなので、旅の間はそっとしておいてあげてください。」
「おう!よろしくな!」
レァクーラのエネルギッシュな挨拶に気圧されたのか、ノエルは頷くこともなく再び背中に隠れてしまった。まぁ、このタイプの人は苦手だろうな。
彼はノエルの対応が予想外だったらしく、晴れ晴れとした笑顔は苦笑に流れ、場にはしばしの沈黙が流れる。
次に声を上げたのはレァクーラの右隣の女性だった。
「リーダーの失礼を代わって詫びるわ。わたくしはアクティウラ。Dランクの土属性魔術師よ。よろしく頼むわね。」
グレーで無地のインバネスコートを羽織る彼女は、切れ長な目に大きな細縁の丸メガネが特徴的だ。明るい茶の髪は強いウェーブがかかっており、胸辺りまで伸びたそれを左のワンサイドで流している。
高身長に鋭い目つき。さらにはパーティの手綱を握るような知的な一面が垣間見える、大人の女性だった。
「ほら、エヴァルも挨拶なさい。」
「はい!ボクはエヴァル!ランクはCで、剣士だよ!」
次に声を上げたのは私と同じくらいの身長の女の子。背には身長と同等の刃渡りをした大剣を担いでおり、レァクーラよりもさらに快活な言動と明るい橙色の髪色が、彼女の天真爛漫さを強調している。
「あっ、最後は自分ですか。フェアトっす。Dランクのシーフっす。ども。」
最後の四人目は影の薄い細身の男で、茄子紺色の長い前髪が顔の右半分を覆っており、そこに口布までしているため表情がまったく読み取れない。
身長はレァクーラやアクティウラほど高くはないが、私では若干見上げる形となっているので170cmくらいだろうか?そう考えると前述の二人は180cmもあるのか。デカい……
「よろしくお願いします。それと、この場にはいないんですが、ヴァルバティアというドラゴンの従魔が居まして。旅の間は商隊の上空を飛びながらついてくることになると思います。体は大きいですが、温厚な性格の子なのであまり怖がらないであげてください。」
「おぉ、噂のドラゴンか!出発前に見せてもらってもいいか?実はまだワイバーンも見たことが無くてな。ガキの頃からの憧れなんだ。」
「ボクもー!」
「いいですよ。ただ街の中だと色々と不都合があるので、門外広場に出てからでもいいですか?」
「おう!」
「楽しみ!」
レァクーラとエヴァルは少年のように顔を輝かせる。そうかそうか。君たちはロマンがわかるか。
対してアクティウラは呆れるような目で二人を見ているし、フェアトに至っては完全に無関心だった。ただフェアトは自己紹介が終わるなり気配を消し始めていたので、単に他者に興味がないだけかもしれないが。
そうして暫らく彼らと親交を深めていると、サヴカンドさんがこちらへとやってきた。
「もう間もなく開門ですが、皆さん今回はよろしくお願いしますよ。」
「任せな旦那!俺たちはどんな困難にも立ち向かって見せる!それに今回は鷹殺しも居るんだ。例えガルーダが相手だろうと負けは無いぜ!」
「大言壮語もいい加減になさいレァクーラ。それに、ミオさんを勝手に巻き込むんじゃありませんわ。」
「いいじゃねぇか!な、ミオもそう思うだろ?」
アクティウラに諫められても、彼の表情に曇りは無い。私が同意することを一ミリも疑っていないようだ。
久しく目にしていない純度100%の陽の気にあてられ、すこし気が引ける。
「ま、まぁ、そういう契約ですしね。最大限力を尽くすことを誓います。」
「ほらな?」
「はっはっは!皆さん頼もしい限りですね。」
話している間に、門の方では巨大な落とし格子がザリザリと音を立てながら上がっていく。
もう間もなく出市手続きが始まり、この広場にごった返している商人や冒険者の人並みも動き始めることだろう。
この門をくぐれば、私がしばらくの間この街、ひいてはこの国に戻ってくることはない。
それは、私のこれまでの交友関係と一時的に隔絶されるということを意味し、私の胸に一抹の寂しさを残した。
しかしそんなことを思うのもわずかな時間だった。
なぜなら私を呼ぶ声が背後から掛かったからである。
「ミオ!遅くなった!」
「ミオちゃ~ん?私に挨拶せずにアムヌーから去ろうとするなんて、ちょっと薄情過ぎるんじゃないかなぁ?」
振り向けば、そこには桃色の兎人族と茶髪の男が立っていた。
「えっ……!?ルートはまだわかりますけど、キリベルカさんまでどうして!?」
「どうしてって、私はキミのことをミラから頼まれてるんだよ?でも私は街からは離れられないから、せめて出立の時ぐらいは見守ってあげなきゃいけないでしょ?」
「な、なるほど……」
どうやら、旧友との義理を果たすために仕事を抜け出してまで来てくれたらしい。
……いや、待てよ?まさか仕事を抜け出すことが本命で、私のことは口実に過ぎないんじゃないか?
「ミオちゃん、世の中知らない方がいいこともあるんだよ?」
「アッハイ」
影の差す満面の笑みで迫られては、わずかな疑念は手放す方が賢明だった。
「そ、れ、よ、り、も。改めてBランクへの昇格おめでとう。対応はギネートがやっちゃったから、私からは言えてなかったよね。あ、それとガルーダの討伐も、本当に助かっちゃった。ありがとね?」
「こちらこそ、色々とお話を聞かせていただきありがとうございました。どれも貴重な内容で、この先の冒険で生かせることも多いかと思います。」
「それならよかった。私はいつでもミオちゃんの武運を祈ってるよ。」
「ありがとうございます。」
「はい!それじゃあ私はこれで終わりかな?そろそろあの鬼が来そうな気がするから、またね~。」
相変わらず嵐のように突然現れては、突然去っていく人だった。けれど、そのおかげでアムヌーの滞在中退屈はしなかったな。
彼女の後姿を見送りながら三カ月余りの思い出に浸っていると、もう一人の来客が声を上げた。
「ミオ。」
「……どうしたの?ルート。」
彼の顔は真剣で、腹を据えた人のそれだった。
「俺はお前が好きだ。やっぱり、そこは変えられねぇ。」
「……そっか。」
「でも今のお前が納得できねえのもわかってる。だから―――」
ルートは、一拍置いて。
「お前が惚れられるような男になって、そしていつか、またお前に告白する。」
「それがいつになるかは分からないことは、理解してる?」
「もちろん。それでも俺は諦められねぇから。」
「……しつこい男は嫌われるって話、知らない?」
「お前は嫌なのか?」
「……」
嫌、ではない。
これほどに心を寄せてもらえることは単純に人間として嬉しい。それに、彼のソレは悪質なストーキング行為ではなく、清らかで純粋な、良心を踏まえた上でのアプローチだ。
「そうじゃねぇなら俺はいくらでも待つし、ただ待つだけじゃねぇ。ミオの方こそ待ってろよ、いつかお前が目を剥くようなスゲェ男になって戻ってきてやるからな!」
「……ふふっ、分かったよ。楽しみにしとく。」
「おう!」
そう笑う彼の笑顔は、今日の空と同じく一片の曇りもない、本当に清々しいものだった。
***
第3幕 昼夜兼行 完
第2章 曙光と絆の先へ 完
あとがき
祝!第2章、完ッ!!
いやはやここまで長かったような、短かったような。何かの節目を迎える度に同じ事を言っているような気がしてなりませんが、今の意持ちを表すのに最適な言葉はこれしかありません。
さて、第2章はミオがアリステラの死をきっかけに森での生活に別れを告げ、異世界の人間社会の中で生きていくための訓練をすると同時に、ノエルという妹と出会うことに主眼を置いた章でしたね。
事前に何度も書き直して推敲を進めていた第1章と比べ、ほとんど手を入れてこなかったこの章の執筆は、私にとっても驚きと苦難の連続でした。例えば予定になかったオレンジ・ブレイドの登場と、そのキャラクター性の深堀だったり、主人公のメンタルが思ったよりもボロボロになっていることに気付いて軌道修正に手間取ったり。
何度か筆が止まることもありましたが、その度に『さらに先に待つもっと書きたいこと』のため、己の想像力を振り絞ってきました。
きっと今後もこういうことは何度だって起きるものなのでしょうが、自分が書きたいことのため、ひいては(そのような方が実際に存在するかは別として)楽しみにして下さる読者の皆様のため、この先もしばらくは続けて参りたいと思います。
さて!ここまでは第2章の内容と私の心境についての振り返りでしたが、ここからはこんな恥ずかしくも思える私の独り言をここまで読んでくださった読者様への御褒美(こんな風に言うとなんだか驕ったように聞こえますが)として、この先の話となる第3章を少しだけご紹介いたしましょうか。
第3章のメイン。それは作中でも語られましたが、『アルとの再会』です。しかしもちろんそれだけではありません。
その道中で遭遇するとんでもない大事件や、それに付随した環境の変化。成長した彼とまみえることによるミオへの影響や、再開した後にも起きる、これまた歴史に残るような大事件。そしてこれらのイベントを通してミオはどのような経験を得て、どう歩みを進めるのか。
あまりネタバレしても面白くないので色々とボカした言い方になりましたが、これから筆を執ろうという私もワクワクが止まらないプロットが組み上がっておりますので、どうぞお楽しみに!
また、ここまでの『獣剣』が面白いと感じていただけたら、ぜひブックマーク登録や星評価、絵文字リアクションにコメントなどなど、どうぞお気軽にお寄せください。皆様のご感想お待ちしております。
もちろん誤字・脱字報告についても大歓迎です。私はケアレスミスが多く、読み返してから気付くなんてことはざらでして……皆様のお力をお貸しいただければ幸いです。
それでは本日もごきげんよう。次回の更新でまたお会いできることを心よりお待ちしております。
Dy02-SK




