第78話 君の名は
第2章 曙光と絆の先へ
第3幕 昼夜兼行
第78話 君の名は
祝!12,000PV!ご高覧頂きありがとうございます!
本編すこ~しだけ長めです!
例の一件以降、少女の纏う雰囲気は格段に柔らかくなった。
私が何かすれば時折お礼もするようなったし、今朝は「おはよう」と挨拶も返してくれた。
右肩上がりに伸びていく彼女との関係値に、この頃の私は口元の緩みを抑えきれずにいた。
「やあやあおはようルート君!今日も一日張り切って行こうじゃないか!」
「そりゃいいけどよ……それにしたって相変わらずの浮かれぶりだなぁオイ。」
最近はただ魔物を狩るのではなく、先達の冒険者としてルートに基礎知識を教えたり戦い方を見せたりしながら一緒に行動している。
「んふふぅ~……聞くかい?」
「言ったぐらいじゃ止まらんだろうに……」
「ならば存分に語って進ぜよう!」
ルート君には悪いが、彼女の前では抑え込んでいるこの愛おしさ、ここで存分に吐き出させてもらおうではないか。
「実は今朝、あの子が―――」
「……やっぱなし!やめろ!毎日毎日似た話ばっかでうんざりなんだよ!少しはこっちの気持ちも考えろってんだ!」
「そうは言うがねルート君。あふれてやまない私の気持ちはどうすればいいと思う?あの子の前じゃあ欠片も表に出すことができないんだよ?そのままにしていたら、いつか感情の氾濫で胸が張り裂けてしまう。」
「気色悪ぃ喋り方すんじゃねぇ!」
呆れたようにため息を吐いたルートは、ふと顔をしかめた。
「つーかよ、あの子あの子って……名前もわからん奴の話を真面目に聞けってのも無理があるだろ。」
「……確かに。」
彼女との意思疎通に問題は無い。
感謝や挨拶はたまにしてくれる程度だが、必要な問いには必ず答えてくれるているし、それだけで十分だとも思っている。
―――けれど。
名前が分からない、というのはやはり不便だった。
彼女を呼ぶたびに『少女』、『あの子』、『この子』、『彼女』、『君』。間違いではないが、どこかよそよそしくて物足りないのだ。
だが、直接聞くのもためらわれる。
もしかしたら名前と嫌な記憶が紐づいている可能性もあるし、トラウマを刺激してしまうかもしれない。彼女の過去を思えば、ありえない話ではないのだ。
そんな胸の内を聞いた彼は、あっけらかんと言う。
「だったらミオが新しくつけりゃいいじゃん。」
「そんな簡単にいくかなぁ?」
「やらなきゃ始まんねぇだろ。それに、それが気に入らなきゃ本人が拒否するだけの話だ。」
「まぁ……それは、そうなんだけどさ……」
歯切れの悪い私に、ルートはガシガシと頭をかいた。
「……そんなに不安なら俺が聞くか?」
「それ、ホント!?」
「初対面の俺が名前を聞くのは変でもねぇし、万一なんかあったってお前がフォローできるだろ。」
「ルート……!」
今までに彼がこんなに頼もしかったことがあっただろうか。
ホーンラビットを前に怖気づき、スライムを踏みつけて転び、不意に遭遇したゴブリンの臭気で吐いていた彼が!
思わずルートの手を取り、万感の思いで感謝の言葉を紡ぐ。
「君は私のいちば―――二番目の親友だよ!どうか私に力を貸しておくれ!」
「お、おう……ん?おい待て、二番目ってどういうことだ?まさかエレンが一番とか言う気か?」
まんざらでもなさそうだったルートの顔に、怪訝さが浮かぶ。しかし彼の推理は外れだ。
「ううん、一番はアルフォンス。お母さんに弟子入りしに来て、私が初めて村に行くよりも前に帰って行った二個上の弟弟子だよ。」
「何だと……!?しかも男かよ!」
ショックで声も出なくなったルートは、顔を覆いその場に立ち尽くした。
ただここは往来のど真ん中だ。せめて端に移動してもらわねば人様の迷惑になる。
私は彼の空いている方の手を取って引き寄せた。勢いあまって密着してしまったが、まぁ減るもんでもないし問題は無い。
「まったく、道の真ん中で止まらないでよ。」
「おまっ……!ホント、お前って奴は……!」
「何さ?」
動揺した様子の彼の顔を見上げると、すぐさま背けられてしまう。
「……何でもねぇっ!こうなりゃヤケだ!魔物ぶっ殺して、名前も聞いて、全部片づけたら思いっきり飲んでやる!」
「まあいいけどさ、酔いつぶれないように気を付けなよ?初めて会った時みたいになったらネモさんみたいに介抱してくれる人いないんだからね?」
「ぐっ、お袋のことは忘れてくれ……」
「無理だよ、あんな衝撃的なお母さん忘れられるわけ無いじゃん。そういえばルートがダウンしてるときにウチの息子を貰ってくれないかー?みたいな話もされたんだっけ。懐かしいな~。」
「お、お袋ぉ……」
またもや顔を覆うルートに、私は苦笑した。
実際あの手の人が母親だと、子供側としては色々疲れそうではある。
(その苦労、分からんでもないぞ。)
***
コンコンコン
「ただいまー。」
狩りと報告を済ませ、宿に戻った私はいつものように少女の部屋を訪ねる。
「!ぉ、おかえり、なさい……」
「うん。ただいま。」
まだまだ自信なさげだが、確かな出迎えの言葉。緊張に泳ぐ視線すら愛らしい。
ただ今回は別に本題がある。私はもったいぶらずに告げた。
「実は、私の友達がそこまで来てるんだけど、少しだけ挨拶できる?」
―――コクリ
緊張した面持ちで頷く少女を確認してから、廊下で待たせていた彼を呼ぶ。
「ルート、入って。」
「失礼。」
ルートを対面の椅子に座らせる。
私はベッドの上―――少女の隣に座り、そっと手を握った。
「この人はルート。私の友達で、今は冒険者仲間。」
「ルートだ。よろしく。」
―――ペコリ
小さな会釈。緊張に固まる彼女には、それで十分だ。
ルートは一度だけ私を見てから、ゆっくりと口を開く。
「……できれば、君の名前を教えてもらえるか?」
少女の肩がわずかに揺れた。
「ミオから話は聞いてる。無理にとは言わねぇ。でも、こいつは毎日お前の話ばかりするもんで……せめて名前くらいは知りたくなった。」
直球に投げかけられた少女は縮こまる。
私は重ねた手に少しだけ力を籠め、囁いた。
「ゆっくりでいいよ。嫌なら断ってもいい。」
一瞬の沈黙。
その中で、彼女の指がわずかに私の手を握り返した。
「……わた、し、は……ノ、ェル、です。」
「!」
「……ノエル、でいいのか?」
―――コクリ
「ノエル……」
その名を、そっと胸の中でなぞる。
少女―――ノエルは言い終えると、再び小さく縮こまった。握る手にも震えが戻る。
「ルート、今日はここまででいいかな?」
「ああ。」
ルートは立ち上がる。
「俺のわがままに付き合ってくれてありがとな、ミオ。それから―――ノエル。」
彼女にはもう頷く余裕もなかった。ただ、それでも震えは和らいでいた。
私は彼を見送ろうと立ち上がろうとすると―――
「いい、そのままでいい。」
短く言って、ルートは扉へ向かう。
「ノエルの傍にいてやれ。……じゃあなミオ。今度会ったら飯おごれよ。」
そう言い残して去り、静かに扉が閉まった。
(カッコよ……!いつか私もそのセリフ言ってみたい……!……けど今は、それよりも―――)
私は、隣に座る彼女の手をそっと握りなおす。
「ノエル」
もう一度、その名を呼ぶ。
こちらを見る澄んだ蒼い瞳には、恐怖と期待が混じりあった複雑な感情が渦巻いている。
「頭、撫でてもいい?」
―――コクリ
私が手をかざすとピクリと体が跳ね、それから自分を落ち着けるように徐々に緊張が緩み始める。
それは、まだ反射的に湧き上がる恐怖を、私への信頼で抑え込もうとしているように見えた。
(何て健気で可愛らしい子なんだろう。)
普段はせわしなく動いている耳が、私が手を乗せている今だけはぺたりと倒れ、されるがままになっている。
(私が、守らなきゃ。)
もう二度とこの子に苦しい思いはさせない。今一度、そう胸に誓った。
あとがき
あぁ~かわいいんじゃぁ~…(昇天)
ということでノエル、名前判明となりました!
調べてみたら、ノエルというのは『クリスマス(フランス語)』という意味のようです。
語源となっている単語の意味は『生誕(ラテン語)』らしく、フランスでは男女ともに普遍的な名前・愛称らしいですね。
私の意図としては、髪色から連想して『ノワール(黒:フランス語)』を選び、そこからキャラに沿うように改変した結果なんですけどねぇ……知らないうちに別の意味になってたみたいです。
あとはルートとの絡みもありました。
相変わらず少し抜けている主人公とそれに振り回される彼。テンプレではありますが、筆がよくのる上、書いていて楽しいことに気がつきました。
流石はテンプレ。そこへ至るだけの理由があるんですねぇ……
あとは作品全体での文字数が20万文字を超えました!
読む速度を500文字/分とすると、大体6時間半ぐらいかかる計算になりますね!一気に読むには多いですが、長編小説としては少ないような……?
今後もコツコツ続けていけたらと思っておりますので、応援よろしくお願いいたします。




