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獣剣の魔女  作者: Dy02-SK
第2章 曙光と絆の先へ
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第77.5話 蒼き眼に映るもの

第2章 曙光と絆の先へ

第3幕 昼夜兼行

第77.5話 蒼き眼に映るもの

Side ■■■


「おい、黒猫。お前の売り先が決まった。」


(わたしも……売られるんだ……)


 一番は牛族の男の人。

 みんなのリーダーみたいな人だったけど、貴族の人の畑を耕すために売られた。


 次は兎族の女の人。

 やさしくてみんなを元気にしてくれてたけど、貴族のお嫁さんになるために売られた。


 何人も、何人も。毎日いなくなるときもあったし、全然つれていかれないときもあった。


 でも……ほかの人と比べたらその人たちのほうが幸せだったのかな。

 ここに来た人たちで今まで生きられたのは、わたしだけ。


 みんな、死んだ。

 悪い人たちにぶたれて、蹴られて、いじわるされて。

 あの人たちがイライラしてるときはごはんも減らされた。そんなのばっかりだった。


 始めのころにわたしと友達になってくれた、同じ猫族の女の子がいた。


 その子も死んだ。


 きのうの夜までおはなしてたのに。泣いてばっかのわたしのそばに、いてくれたのに。

 朝起きたら、牛族の人の次にリーダーになった人が言った。その子が死んじゃったって。

 見せてって言っても、見せてくれなかった。


 それからは―――誰も信じなくなった。


 悪い人たちは信じない。いやなことばかりするから。

 獣人族の人も信じない。誰もホントのことは教えてくれないから。嘘をつくから。

 優しい人も……信じない。ずっといっしょだって言ったのに、約束を破るから。


 体を小さくしてすみっこにいればいい。見つからなければ怒られない。

 ごはんは悪い人たちがのこしたのをひろって、たまに投げられたパンをかじる。


 ふだんは、何も考えないで。

 そうすれば、いやなことも忘れられるから。


 だけどこれから、わたしもここからいなくなる。

 わたしを立たせた男の人は、悪い人たちについて行くように言った。


 歩くのは大変だった。

 悪い人たちはわたしがおそいと怒るから、フラフラでも、足がいたくても、誰も待ってくれないから。

 悪い人たちはずっとイライラしてて、ぶたれないように隠れるのは大変だった。だってずっと見つからないと怒られるから。


 悪い人たちは、人を襲うときに笑う。

 村でも、旅の途中の馬車でも、人しか狙わない。この人たちの獲物は人だけなんだ。

 でも人は食べない。人は死なせるだけで、とったものとか食べ物でくらしてる。


(……じゃあ、わたしがあの場所で食べてたのは……?)


 ……また、何も考えない。



***



「君は大丈夫?」


 見つかった。

 悪い人たちを死なせた女の子が、わたしを見てる。

 怖い。わたしも死なせるの?いたくするの?


 怖くて小さくなってたら、いつのまにドラゴンの背中に乗ってそらをとんでた。

 こんなに高いところは初めてで、すごくこわかった。


 こわいのに、その子はそらを歩いて、火がついた鳥とたたかってた。


(あの人の獲物は、人だけじゃないんだ……)



***



 その後、わたしを部屋の中に連れて来た女の子は言った。


「私は、君を傷つけない。」


 ……信じない。だって、みんな嘘つきだから。


 友達は死んだ。

 あの場所から逃げた人も死んだ。

 あの人たちをやっつけるって言った人も死んだ。


 それに……わたしを守るって言ってたお父さんは、一番最初に死んだ。


 もう誰も、信じない。



***



 女の子は、わたしが元気になったら服をくれるって言った。


「これは今から君の物。今の服から着替えるのもいいし、今のが気に入ってるなら着替えなくてもいいよ。」


 そのすぐ後に、魔法から出した服をくれた。

 ……嘘じゃなかった。


 女の子は、わたしにいやなことをしないって言った。


「トイレはここ。次からは気を付けてね。」


 始めは信じなかったけど、わたしがおもらししてもトイレの場所を教えてくれるだけだった。

 ……嘘じゃなかった。


 女の子は、毎日わたしに魔法をかけた。元気になれる魔法だって言った。

 始めは信じなかったけど、かけたらホントに元気になったし、いたかった手もなおった。

 嘘じゃなかった。


 女の子は、わたしが元気になれるようにがんばるって言った。

 始めは信じなかったけど、おいしいごはんをくれるし、元気の魔法もかけてくれる。

 嘘じゃなかった。


 ―――嘘じゃ、なかった。

 女の子は、言ったことを全部守る。

 ずっと隣の部屋にいるし、怒らないし、ぶたないし、ごはんもいっぱいくれる。

 わたしを見るまっかな目は、いつもやさしい。わたしをさわる手は、いつもあったかい。


(この人は……)


 ―――でも、やっぱりまだ信じない。

 だって、約束はいつも急にやぶられるから。


 あした目が覚めたらいないかもしれない。

 あした会ったらぶつかもしれない。

 ごはんも、もうくれないかもしれない。


 だから、信じない。


***



 つぎの日、女の子は出かけた。


(……やっぱり、嘘つきなんだ。この人もわたしをおいてくんだ。)


 その日は、友達がいなくなった時よりもつらかった。

 考えたくなくても、胸がいたくなる。もう出ないと思ってたのに、気づいたら泣いてた。


コンコンコン


 外がくもって、遠くで雷がなり始めたとき。

 いつもの、女の子がとびらをたたく音が聞こえた。


 ドキ―――


 いたかった胸が、あったかくなった。


「ただいま。遅くなってごめんね?ギルドで友達に会っちゃって、さ……あれ、もしかして―――」


 また、嘘じゃなかった。


「ちょ、ちょっと?なんで泣いて、うーん……」


 女の子は困ってた。でも怒らなかった。


 嘘じゃない。

 この子は、嘘をつかない。信じて……いいかもしれない。


 だからおねがい。嘘は、つかないで。



***



 べつの日、女の子は服を買いに行くって言った。最初の日に私の服をつくるって言った約束を守るためだって。


 わたしは、初めてうなずいてみた。


 すごく迷った。

 女の子は嘘をつかない。でも、今までしなかったことをしたら、急に変わるかもしれない。

 すごく怖かったけど、女の子を信じてみた。


「そっか。じゃあまずは朝ごはんにしよ。食休みが済んだら、一緒に行こうね。」


 やっぱり、嘘じゃなかった。

 初めてうなずいたのに、女の子は少しだけ嬉しそうに言っただけだった。


 だからその後にも、初めてのことをしてみた。

 帰ろうとする女の子の服をつまむ。


 また、迷った。


 やろうとしたことを邪魔したのに、女の子は待ってくれてる。

 やっぱり嘘じゃない。女の子は嘘つきじゃない。

 でも、それでも怖い。だって、声を出したら気づかれちゃう。


(……誰に?)


 あの人たちは、ここにはいない。

 わたしと、ずっとやさしい女の子しかいない。


 じゃあ、声をだしても……いい?


「……ありがと、ぅ……」


 すごくひさしぶりに出した声は、すごく小さかった。

 でも、女の子は嬉しそうにして言った。


「いいんだよ、君は私の家族だから。私は君の……君の……うーん……ぁ、お姉ちゃん。だからね。」


 『お姉ちゃん』。

 あの場所には、そんなふうに言う人も何人か居たけど、みんな嘘つきだった。


 でも、この子は―――お姉ちゃんは違う。

 嘘つきじゃない、ずっと一緒のお姉ちゃん。


 ずっと、一緒。

あとがき


 今回は、少女の視点で前話までの心理的変遷を辿る回となりました。

 ただ視点を少女に固定したために書けなかった裏側が結構あるので、その辺りを蛇足で追加していこうかなと思っていたり。

 やはり表現の幅に制限があると一気に難しくなりますね。

 特にこの少女は7歳ごろに連れ去られてから、あの環境の中まともな教育も無い5年間を過ごしました。一応奴隷仲間の年長者たちからその時々で質問には答えてもらっていましたが、それで補填できる穴ではないわけで。


 さて、それではまた次回。ごきげんよう。



《蛇足》

 さてさてさーて、好きなだけ語れるコーナーがやって参りました!

 まずは本文中で一貫した表現の解説について。


悪い人・あの人:盗賊

あの場所:盗賊共が作った集落


 さてと、では本文解説へと参りましょうか。

 最初の方にある牛族の男はそのままですね。

 筋力に優れ一応その辺の牧草だけでも仕事ができますから。貴族が囲う荘園での農作業に従事する結果となりました。(ただしそれが本来の食生活ではないし、人間の一員としてのプライドを大いに損なう形となります。)


 酷いのは二人目の兎族の女性です。

 まぁだいたい想像はつくかもしれませんが、要は妾以下のおもちゃ扱いです。

 そもそも犯罪・借金奴隷しか許可されないトレイトス王国のまともな貴族が、闇ルートから奴隷を買うわけがないんです。つまり買ったのは奴隷を人とも思わぬようなクズということですね~。

 盗賊共の会話からその辺の事情を聴いていた大人たちが、疑問に思った少女にぼかして伝えた結果のあの描写でした。


 次は死んだ友達の話ですね。

 この子はかなり賢くて思いやりにあふれた優しい子でした。

 酔っぱらった盗賊共にうまく取り入ってこっそり食事をもらいながら、それを泣き続ける少女に分けてあげる。なんと心優しい良い子なのでしょう!

 しかしこの子は運にそっぽを向かれます。

 いつものように盗賊共にお酌をしていたある時、その中の一人がおふざけで彼女にエールをぶっかけました。それが盗賊共に大ウケ。少女もぎこちなく笑いながらその場を乗り切ろうとしました。

 ですが泥酔したゴミどもには分別がつかず、少女に向かって次々に盃の中身をぶちまけ始めます。

 エールの雨の中何も言えない少女はただ浴び続けるほかなく、ただ耐えるしかない状況。

 そして、何をとち狂ったのかジョッキそのものを投げるバカまで出始めたのがエスカレート。最終的には狂った笑いの渦に飲み込まれた少女は、殴られ蹴られのリンチと化しました。

 翌日。酒の海に沈む全身の骨が砕けたその子を見つけた大人たちは、あまりの惨さから黒猫少女に対してぼかしたことしか言えず、結果として信頼を失うことになります。


 こんなところでしょうか?なんとも胸糞悪い話ですが、この件の加害者は一人残らず冒険者による掃討作戦で死刑が執行されていますから、報いは受けた後ということになります。


 ……ただ盗賊の集落があるのはこの場所に限った話でもありません。

 元凶は未だ自由の身ですし、その裏で手を引く組織についてもすでに伏線が敷かれている状態。


 しかし彼らが断罪される日もそう遠くはありません。

 未発達なこの世界では確かに盗賊になるハードルは低い。けれどもそれを裁く秩序側の持つ力はとてつもなく、冒険者には即刻殺害する権限があり、実力行使に対するハードルもまた低い。

 いつの日か正義は執行される。それは、この作品のハッピーエンドタグに裏付けされた揺るぎ無い終着点です。

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