第77話 待ち焦がれたターニングポイント
第2章 曙光と絆の先へ
第3幕 昼夜兼行
第77話 待ち焦がれたターニングポイント
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Dy02-SK
コンコンコン
「入るよー」
少女を保護して今日でちょうど一カ月。
乾燥やひび割れなどの外見的な不調は完全に回復し、肉付きもかなり改善された。よく見ればまだ痩せ気味ではあるが、これで健康と言って差し支えない程度には持ち直している。
看病の途中に特に驚いたのは、その食欲だった。
毎食前に回復魔法をかけていたのは、確かにスムーズな栄養補給を意図したものだ。
だが、それを差し引いてもよく食べる。出されたものは必ず完食し、出せば出しただけ食べきってしまうのだ。
一応、出す量は病人という前提を忘れないようにしていたが、それでも私より多く食べるのは驚きである。
少女の様子を見ると、相変わらず返事は無い。しかし目には少しずつ力が戻っているように思う。
……もしかしたら、それは私の願望交じりな色眼鏡かもしれない。
だがそろそろ次のステップに移りたいところだ。
彼女の意思を考慮しないのは、方針に反する。だからこそ慎重にならなければならないのがもどかしい。
「おはよう。昨日はよく眠れた?」
対面に腰を下ろし、手を取って脈を計りながら顔色を窺う。
私が見つめても怯えなくなったのは、2週間ほど前から。そして目を逸らさなくなったのは昨日が初めてだった。
今の彼女に強張りは無い……表情も無いが。
最初のこけた頬は見る影もない。柔らかそうなそれは思わずつまみたくなる可愛さだ。
サファイアブルーの大きな瞳が、まっすぐに私を見つめている。前髪のかかったその目は、瞬きの少なさがどこか神秘的な印象を与えていた。
「うん。血色もいいし、大丈夫そう。」
栄養不足で小柄な体。乏しい反応。さらには浮世離れした可愛らしさも相まって、時折人形のようだと思うこともある。
……尤も、思いのほか健啖家で最近の出費が食費に傾いていることについてはご愛嬌だ。
「最初の日に言ったこと、憶えてるかな。今日は君の服を作りに行こうと思うんだ。調子はどう?外には出られそうかな?」
この部屋に入って以降、お手洗い以外の場所に行ったことのない彼女に、久々の外出を促す。
すると……
すっと、目が伏せられた。
(……!)
初めての反応。
たとえそれが迷いでも、拒否でもいい。それが彼女の意思であるのなら。
大きな一歩。されど一歩。
今はまだ、扉を開いて顔をのぞかせてくれた段階。安易にこちらが手を出せば、瞬く間に重い錠前が音を鳴らすだろう。
私は待つ。
悠然と。リラックスして。決して急かさない。
10秒でも、20秒でも―――ただただ静かに座っている。
お母さんのように、泰然と。
コクリ。
どれくらい経ったのかわからなくなった頃。少女は、小さく頷いた。
(!!!)
喜びが胸ではじける。感無量だ。
抱き着いて頭を撫で繰り回してやりたい。
今すぐ叫び出したいような気分……そう、まさに合格を確認した受験生のような気分だ。
(お、落ち着け……)
けど、それは今じゃない。
時間だ。私たちに必要なのは、時間。
今まで転がして渡された会話のボールを、初めて転がして返したようなもの。それを突然火の玉ストレートに投げ返されたらどうか。
考えるまでもない。そんなの私でも逃げ出す。
「……そっか。じゃあまずは朝ごはんにしよ。食休みが済んだら、一緒に行こうね。」
それに返事はなかったが、それでいい。
大切なのは、踏み出した一歩を当たり前として受け入れること。拒絶も大歓迎もされない、普通の日常の一コマとしてありふれたものだと思ってもらうこと。
(時間と努力は、ちゃんと応えてくれてる。)
そう確信しながら、私は上機嫌で朝食の準備に向かった。
***
無風快晴。絶好の散策日和。
私たちは、おそろいの巫女服もどきに身を包み、街に繰り出していた。
一応安心できればと、彼女にはヒジャブのようなものも着せている。今のところ握る手からは委縮した様子もないので、効果があったのかもしれない。
向かうのは喧騒に満ちた中央広場や、露店の立ち並ぶ大通りではない。そこから一本路地を抜けた、比較的穏やかな職人街だ。
小さな歩幅に合わせること数分。
着いたのは、輝かしい銀細工に飾られた看板が特徴的な仕立て屋―――『風立ち』。
主な客層は裕福な商人とその家族だ。貴族が来るほど高貴ではなく、かといって格が無いわけでもない。
……誰に聞いたのかって?そんなのレルデップさんに決まってるだろう。
ヴァイオリンのような滑らかな質感のドアハンドルを押し開くと、店内には様々な服を着たマネキンが立ち並んでいた。
その種類は多種多様で、行商人が着るのだろうシックな旅装から、夜会で令嬢が着るような華やかなドレスまである。
「いらっしゃいませ。……あら?」
声に視線を向けると、怪訝な顔でこちらを見る若い女性が目に入った。
「どうかしましたか?」
「あの、失礼かもしれませんが、ミオ様でお間違いありませんか?」
「ええ。私はミオですが。」
「わぁ……!お噂はかねがね。どうぞこちらへ、本日はどのような御用でしょう。」
(……まぁ、一カ月も経ったと思えばこの広まりようも納得か。)
実は来る途中でも、結構な人数が立ち止まってこちらを見ていたのだ。
声を掛けられそうになったら魔力で牽制していたので何もなかったが……これからはテンプレみたいなバカに目を付けられないよう祈らなくてはならないのかもしれない。
興奮した様子の女性は、しかし大きな声を上げることもなく、細かな所作の品を崩さない。
やはり豪商たちを相手にするだけはある、ということなのだろう。
「この子の服を作っていただこうと思ったのですが、この子はひどい人見知りで。採寸は私にやらせてもらいたいのですが、庶民式の採寸でも大丈夫ですか?」
以前にも話したが、裁縫は庶民の必須技能。女ともなればなおさらだ。私も一応お母さんに仕込まれている。
……結婚する気はさらさらないが。
「えぇ、もちろんでございます。奥の個室へどうぞ。ご案内致しますね。」
個室へ入り、店員にはけてもらう。
少女が薄着で触られることに抵抗が無いか不安だったが、私が思っている以上に気を許してくれていたらしく、素直で無口ないつも通りの様子だった。叫んだろか。
採寸は滞りなく終わり、服の注文も同じく。
デザインについては店のセンスを信頼して、普段外へ来ていく用のカジュアルなものとだけ伝えておまかせだ。
「ありがとうございました。」
店の外まで送り出されると、私たちは寄り道もなく宿へ帰った。
今日はきっと、大きく背伸びをしたからだ。
久しぶりの外。初対面の人。薄着でサイズを測られ、何よりそこそこの距離を歩いた。これだけできれば100点なんかじゃ全く足りない。その10倍でも足りないくらいだ。
「今日はお疲れ様。疲れたよね?眠かったら寝てしまってもいいよ。お昼ごろにまた来るね。」
会話は最低限に。
そう、足早に部屋から出ようと扉を振り返った時だった。
きゅっ。
ベッドに座る小さな手が、私の服を掴んだ。
(―――ッ!?!?!?)
単純に離れたくないのか、それとも何か用があるのか。少女の意図は分からないが、向こうから触れてくるなんて予想していなかった。
動くに動けず固まる私の頭の中は、情報過多でオーバーヒート寸前だ。
そんな中、少女は容赦のない追撃を放つ。
「……ありがと、ぅ……」
蚊の鳴くような、小さな声。私の高性能な狐耳が、それを聞き逃すはずもなく―――
(尊っ……!)
―――私は無事昇天した。
ガルーダ戦よりもよほど心臓に悪い。
そんな、忘れられない1日となった。
あとがき
アッ……(尊死)
私の癖を詰め込んだのは主人公のはずなんですけどね~……書いていたらこの少女に狂わされてしまった作者でございます。
この後、主人公は一度思考回路が焼き切れてから爆速で再起動することで、少し遅れてまともな返答に成功しています。しかし大変ですね!こんな魔性の少女を間近で育て上げなくちゃならないなんて!全く羨ましい!
あと、主人公の英雄的活躍が町中に広まっていることも描写できましたね。本文でも書きましたが、1カ月も経てばアムヌーで知らぬ者はいないぐらいになっているんじゃないかなぁって感じです。
というかアムヌー以外でも情報に敏感な人なら知ってる人は全然いますし、アメーティアスギルド支部長のネラートなんかはその筆頭ですね。
今後の展開を書くのが俄然楽しみになってきましたよ!




