第98話 波乱万丈、堅忍不抜。
第3章 渦巻く陰謀、邪悪の残滓。
第2幕 久別重逢
第98話 波乱万丈、堅忍不抜。
今回短めです!
旅は退屈なほど予定通りに進んだ。
道中の魔物は師匠が倒し、私は自分自身との戦いに専念する。その相手は悪夢であったり、諸々の要因からくる足の痛みであったりしたが、結局は気合で乗り切るしかないものばかりだ。
普段であれば痛みが出た場所は治癒魔法で治してしまうが、今回の場合それは出来ない。治癒魔法で治してしまうと筋肉量が増えないのだ。
治癒魔法とは、損傷した身体組織の治癒能力を高めることで『元通りに』する魔法。リハビリのためにこうして歩いているのに、それでは超回復が起こらずトレーニングとしての意味を失ってしまう。
だからこそ、骨折や肉離れでもしない限り魔法でどうにかというわけにはいかないのだ。
日中は痛み続ける足と衰えた体力に抗い歩を進め、夜は時たま襲って来る悪夢と戦う。……思えば、転生して以来2番目くらいに過酷だったかもしれない。
だが私はそれを乗り越えた。2週間が経つ頃には筋力もかなり戻り、軽い戦闘であれば魔法無しでもなんとかなるだろう。
そして、それと時を同じくして私たちは家の跡地である焼け野原へとやってきた。
あの爆発があった時にはすべてが焼き尽くされていたこの場所も、4カ月の時間を経て背の低い草が戻り始めていた。
「これをクロックがねぇ……」
「ええ。」
元は家を囲む円形の広場となっていた場所の外側。なぎ倒された水臨樹の上から中心部を眺める。
足元の水臨樹が転がる外縁部と、腰くらいまでの高さの植物が茂る中間部。そして、ガラス化したがゆえにようやく下草が戻り始めたばかりの中心部にあるクレーター。
思えば、この周辺には3つもクレーターがあるのか。
先日私が”滅亡を告げる隕星”によってつくったもの、クロックの自爆によってつくったもの、そしてヴァルの実母である紅龍『ヴァルグリス』さんが龍喰大蛇を屠るためにつくったもの。
この2年間と少しの間だけで3つも……何となく、地面に申し訳なくなった。
「中央にはお母さんとクロックのお墓があります。……以前も話した通り遺体は完全に蒸発したので、見せかけだけですが。」
「十分だよ。さ、墓参りと行こうか。」
なぜと問われても答えられないが、何となく魔法で出した水を使うのは憚られたので近場の沢で水を汲み、持ち込んだたわしと布で墓石を磨く。
突然の出来事で感情がぐちゃぐちゃだったあの時、せめて墓ぐらいはと魔法で作ったそれは傷一つなく鎮座していた。
「……ただいま。お母さん。」
「ただいま、姉様。」
刻まれた名前を撫で、今はも言う戻らないかつてのぬくもりに思いを馳せる。
しばらくそうしてから、生前好んでいた王国南部産の紅茶とメレンゲのような菓子、それから花束を供えた。
15年を過ごしたこの場所から離れて早4カ月。前世も含め、どんな三半期よりも濃い経験をしたと思う。
レルデップさんに連れて行ってもらいアムヌーで冒険者になって、ゴブリンの集落でへまをして死にかけ、初めての護衛依頼では盗賊を殺し、ノエルと出会った。しかもその帰りではガルーダと戦って、それからノエルの看病を終えたかと思えば、今度は蒼龍と戦い辛勝をもぎ取った。
そんな波乱万丈すぎるこれまでを報告していたらいつの間にやら日も落ちて、すっかり夕食時になっていた。
「そろそろいいんじゃない?お腹空いたんだけどー。」
「子供ですか……分かりましたよ。」
私は虚界門から二人前の夕食を取り出し、片方のプレートを師匠に手渡した。
「ありがとー。」
「いえ。」
今さらだが、どうやらエルフには食前食後の祈りのようなものは無いらしい。受け取った師匠はそのまま腰を下ろして食べ始める。
私はその様子を尻目に、静かに手を合わせた。
「いただきます。」
「う~ん、やっぱりうまいなぁ。とても野営の食事とは思えないわ。」
盛り付けられた料理をかきこむようにしてあっという間に平らげた師匠の食欲は、2年前と変わらず健在だ。
もちろん私と同じ量で足りるはずもなく、巨大な焚火の上では昨日狩ったばかりにも関わらずすでに半分ほど平らげられたラージボアが焼かれている。
6tもの巨体を二日と経たずに胃袋へ収めるとは、さすがは異世界のピンクの悪魔。……まぁ、師匠にピンク要素はないけれど。
「何度見ても圧巻ですね。」
「食べなきゃ戦えないでしょ?」
「限度があるって話ですよ……それに今さらですけど、お墓の前でキャンプってどうなんです?罰当たりというか、とても居心地が悪いんですけど。」
「いいんだよ。こうやって健康で、ちゃんと食べられてるってことを見せてやるのが大事なんだから。」
「う~ん……」
前世との文化的なギャップについては何度も思い知らされている。ただこういう常識を打ち壊される感覚は、いつになっても慣れなかった。
「ほら、あんたも食べなって。それとも食欲無いの?」
「あると言えばありますが、無いと言えば無いです。」
「なにそれ?はっきりしないならあたしが食べちゃうけど。」
「ダメです。」
「えぇ~」
あとがき
ミオの忍耐力の源。それは魔女様との約束というのも大いにありますが、主に魔術や魔法の修業で全く進歩を感じられなかった時期に獲得した苦行への耐性というのがあります。
彼女は確かに魔力を操る能力や、集中力という点では人並み外れた才能を発揮しますが、魔力を物質に変換する感覚を掴むのにはとても長い時間がかかりました。
また、魔法の修業というのは多岐にわたり、それまでの経験が全く生きない内容も珍しくありません。
それに、ミオに苦行耐性を付けさせるためにあえて魔女様がそういうメニューを組んだ節もあります。
愚直に、地道に、ひたむきに。15年という時間をかけて世界最高の英雄に叩き込まれた『この世界で生きるための下地』は、何も魔法だけに限らないということですね。




