第99話 「子供じみた勝負」
第3章 渦巻く陰謀、邪悪の残滓。
第2幕 久別重逢
第99話 子供じみた勝負
すみません、少し遅くなりました!書き上がりましたのでお納めください……
「よし、出発するか。じゃあ行って来るよ、姉様。」
来た時とは見違えるほど綺麗になった墓石の前で、荷物を背負う私と師匠。
お母さんはそこにはいないけれど、今朝は悪い夢を見ることも無くぐっすりと眠れた。草葉の陰から守ってくれているんだろう。そういうことにしておいた方が、気が楽だ。
「行ってきます、お母さん。」
「あ、そう言えばもう足治ったんだよね?」
「はい。筋力も戻ったので、治癒魔法で治してあります。」
「じゃあ久しぶりに木の上を伝って行こうか。その方が速いし。」
「分かりました。」
巨大樹の森を離れてからはやらなかった移動法だった。なにせ私にはヴァルが居るので、彼に乗った方が速いことがほとんどだ。
「さーて、ミオちゃんはもう足元を砕かずに飛び移れるようななったかなぁ?」
「2年間にはもう出来てましたけど。もしかしてもう頭ボケちゃったんですか?200歳ってハイエルフの中では若者って話じゃありませんでしたっけー?」
「っ、カッチーン。もー頭に来た。今のは頭に来たよー?それなら、どちらが先にあの泉に着くか競争しよう。あたしが勝ったらあんたの虚界門に入ってる料理全部食ってやるから。」
「煽り返される覚悟も無かったんですか?でもいいですよ、その勝負乗ります。その代わり、私が勝ったら師匠の虚界門に入ってる魔石根こそぎいただきますから。」
「へぇ~?あたしに勝つつもりなの?」
「やり合う前から勝ち誇る者は大抵負けるものですよ。」
微笑みの裏に相当な苛立ちを抑え込んだ顔の師匠と、あまりの残念加減に目が据わった私。
しばらく睨み合った両者は何を示し合わせたでもなく構え、師匠が足元の小枝を拾う。
「……これが落ちたら出発ね。」
「分かりました。」
言葉少なにスタートの合図は定められた。放られた枝は高く高く舞い上がり、放物線を描いて前方へと落下していく。
その間に両者は全身に魔力を巡らせ、ロケットスタートを用意した。
枝が接地するまであと少し。
3―――2―――1―――
「「フンッ!!」」
草むらに小枝が消えたと同時。師匠の足元は爆発し、私の背で解放された風球の猛烈な風が体を突き飛ばす。
スタート直後の戦況は、全くの互角であった。
***
Side ディニア
「……懐かしい気配がするわね。」
『ミオたちだと思うよ。もうすぐ着くんだって。』
「そっ……そう。」
ふと呟いた独り言に言葉が返されると思っていなかった私は、その存在を思い出して瞬間的に体が硬直する。
その声の正体は、私たち精霊の天敵である龍の子供。彼はこちらに危害を加えるつもりはないようだけど、それでも龍という種族は常に魔力を吸収している。
私みたいに大精霊になれば直接食べられない限り吸収されないけれど、微精霊たちはそうはいかない。おかげでこの1か月間この子たちが怯えっぱなしで困っているのだ。
ただ龍の方にはその自覚がないようで、時折何とものんきな口調で話し掛けてくる。
その内容によれば、どうやら彼の主人はあのミオらしい。そう聞いて、少し前に顔を見て以来しばらく来ていないことに気付いた。
彼曰く街へ出て冒険者となったミオは、つい先日その旅路で蒼龍と戦ったと言う。その戦いで彼は酷いケガを負い、ミオも動けなくなるほどの傷を受けた。
それが治った今、彼を迎えにここへ向かっている……と言うことらしい。私としては、彼にいつまでも居座られるのは迷惑極まりないのでありがたい限りだ。
「……あら?でも迎えに来るにしてはちょっと魔力波が強すぎないかしら?まるで何かに追われているような―――」
『えー?ミオの師匠さんも一緒だから、魔物には絶対負けないって言ってたよ?』
「確かに、ミオがこの辺りの魔物相手に逃げ出すとも考えられないわね……」
そうしているうちにも、二つの魔力はとんでもない速度で近づいてきている。
万一を考え、私はいくらか水を浮かび上がらせた。
「……あなたは下がった方がいいかも。私が迎え撃つわ。」
『だ、ダメダメ!ミオを攻撃しないで!』
「大丈夫。私もミオの知り合いよ。ケガ人は大人しく木の後ろに隠れてて。いざとなったら逃げてね、私は泉に潜れるから心配の必要な無いわ。」
『う、うん……分かった。』
龍は体を持ち上げ、まだ鱗の生えそろっていない辺りを気にしながら下がって行った。
『……さて。久々に顔を出すくせに、なぁーにを引き連れて来たのかしらね?』
この泉に来てから戦闘という戦闘が起きることは無く、しばらくぶりに魔力を沸き立たせ、湛えた水球に渦を巻かせる。
ドドドドド―――
何かが発する重い音が、木々の奥から響き始める。足音か、はたまた想像もつかない何かか。
それを詳しく聞いてみると、どうやらいくつか重なっているらしい。一つは爆発音で、もう一つは衝突音。それから木がへし折れる音だ。
ドドドドドドドドドドドド―――!
音量が上がり、反響が減る。あの速度からすればもう目と鼻の先だ。
『え、人?』
直径10mを超す水臨樹の隙間。まだ米粒のような上途轍もない速度で動いているが、私の目は確かに樹を避けながら近付いてくる人型の影を見た。
「勝つのは、あたしだァッ!!!」
「負けないッ……!!」
かすかに聞こえる、言い争う声。しかも、どちらも聞き覚えのある声で―――
「「だあああああアァッッ!!!」」
泉を囲む最後の水臨樹を抜けた二人が、一直線にこちらへと向かって来る。
『ミオに、リュドミラ!?』
全力で迫る二人の必死の形相に気圧されるが、そもそも何しているのだろうか。魔力の発信源は二つだけだ。つまり、二人は追われているわけでもないはずなのに。
それを聞く暇もなく、二名は勢いそのまま泉へと飛び込んだ。
あとがき
ディニアさん!お久しぶりです!実に丸々1年ぶりの再登場となりました!
いやぁ長かった。というかもうあの悲劇から1年ですか……光陰矢の如しとはまさにこのことですね。
さて。ようやく描写が入った彼女ですが、最初のイベントは彼女にとって全く意味不明なものになりましたね。何せわけもわからず旧知の二人が自分の住処に突っ込んでくるわけですから。まぁ、彼女自身はあまり気に留めませんけど。
と、言うわけで!次回、懐かしき大精霊と待ち望んだヴァルとの再会となります!




