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2026戦後彼らが迎えにきた  作者: 不可思議ラボ


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6/7

第6話 彼らが迎えにきた本当の理由

船の扉が閉じた。

音はしなかった。

振動もない。

それなのに

窓の外の景色が

ゆっくり小さくなった。

東京。

僕が三十年間

暮らしてきた街。

高層ビルは

ほとんど消えていた。

道路も消えていく。

人間が作ったものが

青い光に包まれ

次々と分解されている。

その隙間から

緑が広がっていた。

「本当に

全部消すのか」

僕は呟いた。

隣には

保存対象になった女性がいた。

名前は美咲。

二十八歳。

看護師だという。

「私の病院も

もうないのかな」

誰に聞くでもなく

美咲が言った。

答えられなかった。

船は上昇を続ける。

やがて

東京全体が見えた。

そして関東。

日本列島。

雲。

青い海。

数分後。

僕たちは

地球を見下ろしていた。

「こんなに

速いのか……」

身体には

何の負担もない。

高等生命体の一体が

僕たちの前に立った。

『身体への加速度を

制御しています』

また

頭の中に直接届く。

「そんなことまで

できるのか」

『可能です』

僕は窓の外を見る。

巨大な円盤が

無数に浮かんでいた。

その間を

小型船が行き交っている。

世界各地から

保存対象を

運んでいるらしい。

僕は第5話で聞いた言葉を

思い出した。

『第七期文明から

初めて確認された

性質があります』

それが

ずっと気になっていた。

「教えてくれ」

高等生命体を見る。

「僕たちに

何がある?」

彼は

こちらを向いた。

『間もなく

説明します』

船が

巨大な円盤へ近づく。

近くで見ると

円盤というより

都市だった。

端が見えない。

表面には

無数の光。

巨大な穴のような場所へ

僕たちの船が入っていく。

内部は

想像していた宇宙船とは

まるで違った。

金属の壁がない。

配線もない。

機械らしいものさえ

ほとんど見えない。

白い空間。

その中央に

巨大な球体が浮かんでいる。

球体の中には

地球が映っていた。

いや。

地球だけではない。

何十もの地球が

同時に映っている。

緑に覆われた地球。

氷に覆われた地球。

海しかない地球。

都市で埋め尽くされた地球。

「何だこれ……」

『予測世界です』

「予測?」

『異なる選択が行われた場合の

結果を再現しています』

一つの地球が

拡大された。

そこには

二〇二六年十二月二十八日と

表示されている。

核兵器が

発射されなかった世界。

戦争は続いている。

だが

人類はまだ生きている。

別の地球。

核兵器が

一発だけ使われた世界。

別の地球。

戦争そのものが

回避された世界。

「こんな未来も

あったのか?」

『可能性としては』

僕は

核戦争のない地球を見た。

胸が苦しくなった。

たった少し

違う選択をしていれば。

僕たちは

今も普通に

大晦日を迎えていたかもしれない。

「だったら

どうして……」

言いかけてやめた。

答えは

もう分かっている。

彼らは

選択しなかった。

人間が選択した。

高等生命体が

球体へ手を向けた。

映像が変わる。

第一期。

第二期。

第三期。

過去の文明が

次々と表示された。

『これまでの文明にも

協力する個体は存在しました』

誰かを助ける生命。

仲間を守る生命。

集団を維持する生命。

『知能の高い個体も

存在しました』

『高い適応能力を持つ個体も

存在しました』

「じゃあ

僕たちの何が違う?」

『複数の性質が

同時に一定値を超えました』

新しい映像が流れる。

核攻撃直後の世界だった。

瓦礫の中で

知らない人を助ける人。

自分の食料を

子どもへ渡す人。

負傷者を運ぶ人。

そして

僕も映った。

地下駐車場。

僕が

倒れていた男へ

水を飲ませている。

「こんなのまで……」

見られていた。

次の映像。

戦争が始まる前。

世界各地の日常。

人間が

他人を助けている。

動物を救う。

森を守る。

病気を治す。

宇宙を研究する。

芸術を作る。

音楽を作る。

物語を書く。

笑う。

泣く。

誰かを愛する。

高等生命体が言った。

『第七期文明は

極端な破壊性を持ちました』

核爆発の映像が

一瞬だけ映る。

『同時に

極端な保存性も持ちました』

今度は

人を救う映像。

破壊する。

救う。

殺す。

守る。

憎む。

愛する。

相反する映像が

交互に流れていく。

『これほど大きく

相反する性質を

同一種が持った例は

ありません』

「それが

人間?」

『はい』

僕は

褒められているのか

分からなかった。

「だから

保存するのか?」

『一部は正しいです』

「一部?」

球体に

星空が映った。

地球ではない。

見たことのない惑星が

次々と現れる。

青い星。

赤い星。

二つの太陽を持つ星。

巨大な輪に囲まれた星。

その中には

都市らしき光を持つ星もある。

『生命実験は

地球だけではありません』

僕は息を呑んだ。

「他にも?」

『はい』

星の数が増える。

百。

千。

数え切れない。

『我々は

複数の惑星で

生命発達を観察しています』

「何のために?」

初めて

高等生命体は

長く沈黙した。

『我々自身が

失ったものを探すためです』

予想していなかった答えだった。

「失ったもの?」

球体に

彼らの姿が映る。

今より

遥かに昔。

彼らにも

都市があった。

家族のような集団。

争い。

笑っているように見える姿。

僕たちと

どこか似ている。

映像が進む。

技術が発達する。

病気が消える。

寿命が伸びる。

争いがなくなる。

感情が

少しずつ薄れていく。

やがて

彼らは

死ななくなった。

苦しまなくなった。

争わなくなった。

そして。

喜ばなくなった。

『我々は

文明を完成させました』

高等生命体が言った。

『その過程で

多くのものを失いました』

「感情?」

『それだけではありません』

好奇心。

偶然。

挑戦。

失敗。

恐怖。

希望。

愛情。

自分より

他者を優先する行動。

合理性では

説明できない選択。

彼らは

完璧になりすぎた。

だから

生命を作り

観察し始めた。

自分たちが

失ったものを

もう一度見つけるために。

「地球も

その一つだった?」

『はい』

僕は

言葉を失った。

僕たちは

兵器を作るための実験でも

奴隷を作るための実験でも

なかった。

彼らが失ったものを探す

生命実験だった。

「それで

見つかったのか?」

彼は

僕を見た。

『第七期で

初めて』

胸が鳴った。

『あなたたちは

合理性だけでは

説明できない選択を

繰り返しました』

自分が死ぬかもしれないのに

誰かを助ける。

得にならないのに

誰かを守る。

存在しないものを想像し

物語を作る。

知らない世界へ

行こうとする。

失敗すると分かっていても

挑戦する。

『我々には

現在できない行動です』

美咲が聞いた。

「だから私たちを

連れていくの?」

『はい』

「実験を続けるため?」

その質問に

高等生命体は

しばらく答えなかった。

僕も

彼を見つめた。

やがて

言葉が届いた。

『違います』

僕は眉をひそめた。

『地球での

あなたたちの実験は

終了しました』

「じゃあ何のために?」

彼は

星空を指した。

『我々と共に

来てもらいます』

「どこへ?」

『我々が管理する

世界へ』

星図が

一気に広がった。

見たことのない惑星。

巨大な人工天体。

宇宙都市。

そして

理解できない装置。

その中の一つに

僕の目が止まった。

巨大な輪。

輪の中心に

映像が浮かんでいる。

そこには

恐竜がいた。

「これは……?」

『時間観測装置です』

「時間?」

『あなたたちの言葉では

タイムマシンに近い』

僕は

耳を疑った。

別の映像。

一瞬で惑星間を移動する船。

身体を傷つけずに

何百年も眠れる装置。

存在しない物質を

作り出す機械。

宇宙そのものを

観測する巨大施設。

『あなたたちには

我々の文明を

体験してもらいます』

恐怖より先に

別の感情が湧いた。

見てみたい。

そう思ってしまった。

地球が

こんな状態なのに。

それでも

知らない世界を

見てみたい。

高等生命体が

僕を見た。

『その反応です』

「え?」

『それが

我々が失ったものです』

好奇心。

僕は

何も言えなかった。

彼らが

僕たちを迎えに来た理由。

それは

優秀だからでも

従順だからでもなかった。

完璧ではないから。

矛盾しているから。

間違えるから。

それでも

次を見たがるから。

僕たちは

選ばれた。

そのとき

船内に音が響いた。

『地球再生処理

最終段階へ移行』

球体に

地球が映る。

都市の大部分が

消えていた。

緑が

急速に戻っている。

海が青くなっていく。

その一方で

地球に残った人々が

小さく映っていた。

僕は

彼らを見つめた。

「残った人たちは?」

高等生命体が答える。

『生きます』

「文明は?」

『再び作るでしょう』

「また戦争をしたら?」

『それも

彼らの選択です』

僕は

地球を見た。

二〇二六年十二月三十一日。

あと数時間で

新しい年になる。

僕たちにとって

最後の地球の夜。

高等生命体が

僕の隣に立った。

『最終確認を行います』

「何の?」

『あなた自身の意思です』

僕の前に

二つの表示が現れた。

『地球へ帰還』

『我々と同行』

強制ではなかった。

僕は

選べる。

地球へ戻り

残った人たちと生きるか。

彼らと共に

宇宙へ行くか。

僕は

窓の向こうの地球を見た。

そして

もう一度

星空を見た。

三十年間

空の向こうに何があるのか

考えたこともなかった。

でも今は

知ってしまった。

そこには

僕たちが想像もしなかった

世界がある。

僕は

画面へ手を伸ばした。

どちらを選ぶのか。

答えは

もう決まっていた。

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