↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【VOICE~日本酒奇譚~】  作者: 純米パパ
第一章 日本全国酒巡り
PR
5/7

【VOICE~日本酒奇譚~ #05】初めて選んだ日本酒

初めて、自ら選んだ日本酒を購入した俊は、軽快な足取りで帰宅した。


「ただいまぁ。」


「おかえり。どうしたの?その袋。」


「あぁ、これ?日本酒。」


「あら、珍しいわね。」


「ちょっとね。買ってみたくなっちゃって。」

「ほら。」


俊は、袋から日本酒を取り出し、母に見せた。

その様子は、少し照れくさそうだったが、どこか誇らしげにも見えた。


「へぇ〜鯨のラベルが可愛いわね。」


「でしょ。高知のお酒だって。」


母に日本酒をお披露目し、満足げな俊は、会話を済ませると3階にある自室へと戻った。


『さぁて、風呂入ったら酔鯨を飲むぞ!』


期待感に胸を膨らませながら、記念すべき開栓の儀に向けて用事を済ませる。

浴室には、俊の鼻歌がこだましていた。

それは、窓からこぼれ、ご近所さんにも聞こえていたことは容易に想像がつく。


ーー


浴室歌謡が終わり、髪を乾かした俊は、冷蔵庫で冷やしていた日本酒「酔鯨 特別純米酒」と酒器を持って自室へと向かった。

階段を上る足音もどこかリズミカルに聞こえる。


『よ~し、開けるぞ~初の家飲みってやつだな♪』


いよいよ開栓の儀である。


クルッ…クルクル…


スクリューキャップを開けた瞬間、決して派手ではないが、心地よい香りがふわりと鼻をくすぐった。


『今まで飲んだ日本酒と香りが違うな…』


鮮やかなブルーが映える、ガラス製のお猪口に注いでいく。


トクトクトクッ…


「いただきます…」


初めて自分で選んだ日本酒の一杯。

特別な想いで一口目を味わう。


『うわ、なんだろう…なんか旨味がある…』

『美味しい…』


これまで味わった純米吟醸の2本とは違った美味しさに、俊は感動した。


「いやぁ~嬉しいねぇ!」

「それにしてもキミの部屋、なかなかお洒落だねぇ!ヒック!!」


「おわぁ~!びっくりしたぁ!!」

「ていうかデカっ!!!?」


俊の目の前に「酔鯨 特別純米酒」が姿を現した。


「おっと、脅かしてごめんよ~ヒック!!」


かなり大柄の男だ。

額には波模様のバンダナ、もみあげから続く白髪交じりの顎髭は三つ編みで結ばれている。

小汚いのかお洒落なのか、紙一重の風貌だが、喋り方はおっとりとしていて親しみやすそうだ。

ただ、ずっと頬が赤い。明らかに酔っている。


『うわぁ…マジで酔ってんじゃんこの人(笑)』


酒屋で聞こえていた「ヒック!」は、やはり酔った時のしゃっくりだったのだ。


『まぁ、酔鯨って名前だし、そりゃそうか。』


俊は、その個性あふれるキャラクターが嫌いではなかった。

むしろ段々と面白いとさえ思えてきたほどだ。

そして、なぜか嬉しそうでもある。


初対面で気の合う友人を見つけた時のような親近感を覚えた俊は、酔鯨との会話を始めた。


「このお酒、すごく味が濃いというかお米の旨味?みたいなのを感じます。」

「僕、結構こういう味わい好きかもしれないです!」


「よく分かったねぇ~お米の旨味とキレのバランスの良さが僕の特徴だからねぇ~」


「そうなんですね!」

「気になってたんですけど、なんで純米酒の前に″特別″って付いてるんですか?」


「う~ん、良い質問だねぇ~」

「一番わかりやすいところで言うと精米歩合かなぁ~ヒック!」


「あ、精米歩合!さっき酒屋で聞きました!!」


「そうそう、簡単に言うと精米歩合が60%以下だったり、特別な造り方をしていたりする純米酒には、『特別純米酒』って名前を付けられるんだよねぇ~」


「へぇ~! そういう決まりがあるんですね!」


「うん。もちろん、特別な造り方をしている場合は、その内容も表示する必要があるんだけどねぇ~ヒック!」


俊の好奇心に火がついてきた。

まだまだ酔鯨との会話は続きそうだ。


「そうなのかぁ!やっぱり日本酒って奥が深いですね!」


「うんうん。あ、そうだ!僕をもっと楽しみたいなら…」


酔鯨はそう言って、俊が用意したテーブルのおつまみを見た。


「さきいかとおかきのミックスかぁ…悪くないけど…」

「家にイカの塩辛とかクリームチーズとかあったりする?」


「え?あ、いや、ないですけど…」

「でも隣がコンビニなんで、すぐに買ってくることは出来ます!!」


俊は、まだ理解しきれていなかった。

だけど、間違いなく素晴らしい時間になることは確信出来た。

そのため、急いでコンビニへ向かい、イカの塩辛とクリームチーズを買ってきた。


「買ってきました!!」


「おぉ~ヒック!お疲れさん。じゃあ、それと一緒に飲んでみて。」


俊は、酔鯨に勧められたとおり、2種類のおつまみをそれぞれ別々に日本酒と合わせてみた。


「あれ、美味しい!美味しいですよこの組み合わせ!!」

「イカの塩辛の旨味とクリームチーズの濃厚な味わいを綺麗に受け止めるというか、流してくれる感じ!」

「なんていうか両者が活きるような!」


初めてのペアリング体験に俊は感激した。興奮した気持ちが抑えられない様子だ。


「へへ、そうでしょう~」

「本当は土佐のお酒だからカツオと合わせてほしいんだけど、ヒック!それでも十分楽しめるペアリングだよ~」


「土佐?あ、そうか!高知の酒蔵だからカツオか!」


「そうそう、ヒック!うちの酒蔵のお酒は、食中酒を軸にしているからねぇ〜」

「地酒ってその土地の風土が詰め込まれて出来てるから、その土地の食材と合わせると美味しく飲めるんだよぉ…ヒック!」


「へぇ……。その土地のお酒には、その土地の料理かぁ…」

「酒蔵の特徴を知るのも、日本酒を楽しむポイントなのかもしれないですね。」


俊は、手元のお猪口を見つめた。


今まで日本酒といえば、飲み会で出てくるものという印象しかなかった。


けれど、酒屋で自分の好みのお酒を選び、酒そのものの個性を知り、料理と合わせることで、その美味しさがさらに広がっていく。


こんな楽しみ方があったなんて、知らなかった。


「うん…やっぱり日本酒って知れば知るほど面白いです!」


「そうでしょう~これからも色々な日本酒とペアリングを楽しんでみてよ!」

「今日は僕を選んでくれてありがとう~またねぇ~ヒック!」


「あ、ありがとうございました!!」


酔鯨は、俊の目の前から姿を消した。


その後も俊は、酔鯨との会話の余韻に浸りつつ、酔鯨の味わいを嚙みしめるように堪能した。


俊にとって、初めて自分で選んだ日本酒を味わう体験は、大成功に終わったのである。


そして、俊はふと思う…


『全国には、どんな日本酒があるんだろう……』


北海道から沖縄まで。


それぞれの土地で造られる酒。それぞれの土地で親しまれている料理。


まだ出会ったことのない味が、きっとたくさんある。


『全国の日本酒、全部飲んでみたいな……!』


それは、ほんの思いつきだったのかもしれない。


けれど、この夜。


自分で選んだ一本との出会いが、俊の世界を少しだけ広げた。


日本全国酒巡り。


その第一歩は、まだ始まったばかりだった。


★★★


■今回登場した日本酒■

酔鯨酒造(高知県高知市)

【酔鯨 特別純米酒】


原材料:米(国産)・米麹(国産米)

精米歩合:60%

アルコール分:15度

日本酒度:+7

酸度:1.6


米の旨みにキレの良い後口を組み合わせた純米酒。

香りは控えめで、酔鯨特有の酸味が特徴。お料理との相性が良く食中酒に最適です。


それでは、今日も乾杯!!


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

コメントなどいただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。