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【VOICE~日本酒奇譚~】  作者: 純米パパ
第一章 日本全国酒巡り
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3/7

【VOICE~日本酒奇譚~ #03】酒嫌いが酒好きになった日。

あの日以来、俊は自分が体験した不思議な出来事について考えてばかりいた。


仕事中も、ふと気がつけばあの女性のことを思い出してしまう。


『あれって、本当に現実だったのかな……』


そんな俊のスマホに、一件の連絡が届いた。


「今夜、お父さんと浅草で飲むんだけど、俊もどう?」


金曜日、夕飯を作るのが面倒になったであろう母からの誘いだった。


『う~ん、まぁ、たまには行ってもいいか!日本酒にもまた挑戦してみたいし』


「いいよ!」


俊はすぐに返信をした。

その文面には表れていなかったが、どこか期待のこもった高揚感のある「いいよ!」だったに違いない。


ーーー


仕事を終えた俊が向かったのは、両親行きつけの日本酒バー【酒の大桝 雷門店】。

浅草の酒屋が営むこの店には、全国各地の地酒がずらりと並んでいた。


『おぉ~すごい日本酒の量だ…』

『地酒って書いてあるけど、どういう意味なんだろう…』


その種類の多さに俊は圧倒される。


「いらっしゃいませ~!」


「あ、待ち合わせで。」


「あちらの席ですね~」


店員さんが案内してくれた席には、既に両親が到着していた。


「仕事忙しいの?」


「う~ん、まぁまぁかな。」


母の何気ない質問に答えながら、俊はメニュー表に目を落とした。


すると、ある銘柄が目に飛び込んできた。


「あれ?手取川(てどりがわ)!?」


「手取川って、あの手取川だよね?」


俊は、歴史に詳しい父に確認した。


「そう、上杉と織田のね。」


「やっぱり!」


戦国アクションゲームの影響で歴史好きになった俊は、少し興奮気味になっていた。


「じゃあ、僕この手取川ください!!」


お酒のスペックなど確認せずに即決で注文したーー


「お待ちどおさま~手取川です!」


細かな気泡が全体に散りばめられた、丸みを帯びたガラス製のぐい飲み。

その器越しに見える日本酒は、透き通るように美しい。


『これは美味しそうだ……』


ガラスアートが趣味の俊にとっては、この酒器に対しても少しテンションが上がった。


そして、早速、お酒を口にする。


『え…』

『美味しい…』


まるで水のようなクリアな味わいに俊は感動した。


「この日本酒すごい美味しいんだけど、なんで?」


俊はその美味しさを知るべく、メニュー表をもう一度見た。


「手取川…純米…吟醸…?」

「あ、また純米吟醸だ!」


俊にとっては日本酒の言葉で唯一知っている言葉だった。


「ん?銘柄の隣に書いてあるのは…?」


【手取川 純米吟醸 酒魂】


「さけ…たましい?」ーー


「いや、それは酒魂(しゅこん)だね。」


『は!この声は!?』


びっくりした俊は後ろを振り返った。


そこには、真面目で実直そうな和装姿の男性が立っていた。

決して派手ではないが、どこか色気の感じるイケオジだ。


『この感覚…この前と同じだ…間違いない!』


「あの、もしかしてあなたは、この手取川ですよね??」


ほぼ確信していた俊は、最後の答え合わせのように男性に尋ねた。


「そうだよ。よろしく。」


気付いてもらえたことが少しだけ嬉しかった手取川は、クールさの中にもどこか喜びが隠せない返事をした。


「あの、このお酒、綺麗な味わいで感動したんですけど、これも個性なんですか?」


「うん。そうだね。造り方の違いとかもあるけど、それだけじゃないんだ。」


「えっ、どういうことですか?」


「日本酒は、その土地の水や米、気候、そして酒を造る人たちの想い。そうしたものが重なり合って、個性が生まれるんだ。」


「土地によって、そんなに違うんですか?」


「ああ。例えば、私たちの蔵がある石川県白山市。白山の恵みを受けた水や、この土地で育った米。そうしたものが、私たちの酒を形作っているんだ。」

「まさに地元の酒、地酒だね。」


「あ、なるほど!地酒ってそういう意味があったんですね。」


「キミ、名前は?」


「小川俊です。」


「俊くん、今はまだ私の言っていることが理解出来なくても良いんだ。」

「今は日本酒が美味しいという気持ちを一番大事にしてほしい。」


「あ、はい。分かりました!」


「あ、それと!ほかの土地の酒にも出会ってみるといい。」

「今日はありがとう。これからの成長を楽しみにしてるよ。」


手取川は、そう告げて俊の元を去っていった。


『美味しいと思う気持ちかぁ……』


俊は、もう一度ぐい飲みに口をつけた。


さっきと同じ日本酒なのに、今度は少し違った味わいに感じる。


『このお酒が生まれた土地のことを知ると、味わいまで違って感じるんだな……』


俊は、店舗に並ぶたくさんの地酒を見渡した。


『ほかの土地のお酒って、どんな味がするんだろう……』

『俺、もっと日本酒を知りたい。』


そして、ふと思った。


『……あれ?俺、日本酒好きかもしれない…』


ーーー


俺の名前は「小川俊(おがわしゅん)」。

浅草生まれ浅草育ちの21歳。

職業は公務員。

酒は好き。


★★★


■今回登場した日本酒■

吉田酒造店(石川県白山市)

【手取川 純米吟醸 酒魂】


原材料:米(国産)・米麹(国産米)

使用米:(麹米)山田錦または百万石乃白、(掛米)石川門

精米歩合:(麹米)50%、(掛米)60%

アルコール分:15度


すっきりとした、喉ごし爽やかな吟香の絶妙な調和が特徴。

食中酒としても最適な一本です。


それでは、今日も乾杯!!

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