【VOICE~日本酒奇譚~ #02】今まで聞こえていた“声”の正体
また“あの声”が聞こえた俊は、隣に座っている姉御肌の先輩に確認してみた。
「ま、真理さん!今なんかどっかから声聞こえませんでした!?」
「えぇ~どんなぁ?」
「“違うよ”…みたいな感じ…」
「はぁ~何それ!小川君もう酔ってんじゃないのぉ~」
「そ、そんなことないですって!」
――
『おかしいな…やっぱ俺にしか聞こえないのか…』
そう悟った俊は、声の正体が気になりながらも、目の前の日本酒を口にすることにした。
お猪口を口元に運ぶと、これまで感じたことのない華やかで心地よい香りを覚える。
そして、ひとくち口に含んだ瞬間、
思わず「美味しい…」と呟いた。
「そうでしょ♪」
「え、誰!?」
びっくりした俊はおもわず後ろを振り返る――
すると、そこには見知らぬ女性の姿が…
辺りが、ふっと暗くなった。
さっきまで聞こえていた店内の喧騒も、嘘のように消えている。
まるで、この場所だけが切り取られたかのように――
俊とその女性だけが、スポットライトのような明かりに照らされていた。
女性は、純白な衣装に身を包み、髪には可憐な花飾り。
とても上品な出で立ちだけど、どこか無邪気さも感じる。
俊は、呆気にとられながらも恐る恐る、その女性に尋ねた。
「えっと…どちらさまですか??」
「わたし?わたしはそれだよ。」
そうやって謎の女性は俊の目の前にある酒瓶を指さした。
「え?これ?…もしかしてこの日本酒ってこと?」
「うん、そう!」
「わたしはその日本酒、“六根 純米吟醸 華さやか”だよ!」
「えぇぇぇぇぇーーーー!!!」
動揺を隠せない俊。
混乱しながらも何とか平静を保ち、再度、周囲の人に確認する。
「ま、真理さん真理さん!!僕の後ろにいる白い衣装の女性見えますか???」
「はぁ~!小川君まだ言ってんの!?酔うのもほどほどにしときなぁ。」
やはり他の人には彼女の姿は見えていないようだ。
そこで、俊はこれまで体験してきた出来事について確信する。
お酒の場でかすかに聞こえてきた声の正体。
そして、目の前にいる女性の正体を。
そう。
酒嫌いだったはずの俊にはずっと日本酒の声が聞こえていたのだ。
そしてこの日、初めて日本酒を心から美味しいと感じた瞬間、日本酒の姿が見えるようになったのだ。
「ね、ねぇ!今までこんなに日本酒が美味しいと思わなかったんだけど、どうして??」
俊は、純粋な疑問を彼女に投げかける。
「ふふ、だって日本酒って一つ一つ個性があるもん。」
「じゃあ、この香りと飲みやすさは?」
「それはねぇ、一応わたしが純米吟醸なのも関係してるかな♪」
「いや……全然分かんない…」
「ま、まぁ今は細かいこと気にしないで、味を楽しんで!」
「じゃあ……この“華さやか”っていうのも関係あるの?」
「もちろん♪ わたしはね、青森で生まれた酒米『華さやか』で造られてるの。」
「酒米……?」
「うん。わたしの個性を作ってくれている大事なものだよ。」
「なんか俺、今まで日本酒って全部同じだと思ってた。」
俊は目の前のお猪口を見つめる。
「でも……違うんだな。」
「うん。だから、もっといろんな日本酒に会ってみて。」
「いろんな日本酒……?」
「そう。」
「きっと、あなたが知らない“声”が、まだたくさんあるから。」
その言葉を聞いた瞬間、俊の中で何かが変わった。
酒が嫌いだった俺が――
初めて、日本酒をもっと知りたいと思った。
「じゃあ、ごゆっくり召し上がれ。」
「またどこかで逢いましょう!さようなら。」
俊の心変わりを見届けた彼女は、満足そうに、その場から姿を消した…
★★★
■今回登場した日本酒■
松緑酒造(青森県弘前市)
【六根 純米吟醸 華さやか】
原材料:米(国産)・米麹(国産米)
使用米:青森県産華さやか (100%)
精米歩合:60%
アルコール分:13度
やさしく爽やかなお米の香りに、フルーティーな甘みと澄み切った後切れを楽しめる一本です。
それでは、今日も乾杯!!




