第7話 ショッピングが
青銅の大門前で、ミネルラ国への入国手続きのため、事務官が馬車を降りた。
あたしは馬上からぐるりと外から周囲を見渡した。
青銅の大門や高い城壁は、閉ざせば敵の侵入を防ぐ。
いざとなったときのための防衛ラインだな。
だが···反対に、閉じてしまえば中で何かあっても分からない闇ともなるか······
軍人らしい考えが頭の中に自然と浮かんだ。
嫌だ――っ。
あたしは平凡なOLなの。
そんなことが浮かぶのは嫌――っ。
はぁはぁ……
入国手続きが終わり、城下へ入る。
街はミネルラ城を中心として、放射状に主要道路が伸び、それを同心円状の路地がつなぐ迷路のような構造。この構造は、敵の侵入スピードを遅らせる。
よくできているな。
だから、必要ないの、そんな情報。
必要なのはショッピング情報よ、グルメ情報なのよ。
あっ、あのお店なんか気になる。
ふむ、あの武具屋は良さそうだな。
きぃーっ!!緊急事態以外は引っ込んどいて!
あたしは武器になんて興味はないからっ!!。
もうジギルとハイドになった気分よ。
ミネルラ城につき、外務大臣と事務官は挨拶に赴き、あたしたちは旅装を解くために宛がわれた宿舎へと向かった。
将校クラスは王城内に、部隊長以下は宿屋や豪商の家に部屋が割り当てられた。
バカでかくて邪魔な大剣は、もちろん部屋に置いてきた。ショッピングにあんな鉄塊を背負っていく女子がどこにいるのよ。
服の汗染みも最悪だし、オシャレなカフェに入ったとき、椅子に座り辛そうだし、第一、違和感が半端ないもの。
街に繰り出すぞ――っ!
ショッピングじゃぁっっ。
異国情緒満載の城下をひとり気ままにぶらつく予定が……
ぞろぞろと屈強なむさい兵士たちが我も我もとついてきた。
どっから湧いてきた!
で、異国のガチムチ軍団が街を闊歩するとどうなるか。
店はぴしゃっという音と共に一斉に閉まり、それまで賑やかだった町はゴーストタウンの様相に変わるのだった……
泣ける……
せめてアンドレアだけだったら違ってたんだろうけどさ。
もう、帰ろっかな……
うん?
前から走ってくる男の子発見。
男の子の後ろからは殺気を隠そうともしない数名の男達。
顔を布で隠し、手には暗器を持っていた。
きゃーっ、なにあれ!?
じ、事件?
街中で殺人事件よ。
お巡りさんーっ、誰かお巡りさん呼んでーっ!
ひとりの男の凶刃が男の子の背に振り下ろされようとした刹那、あたしの体がすぅと動き、男の子の腕を引っ張っていた。
図らずも男の子を胸の中に抱き込む格好になる。
はいぃっ?!
えっ、なに??
男たちが暗器を持って身構える。
「アンドレア」
「はい」
そうね、そうよね。
素人のあたしが出る幕じゃない。
ここはアンドレア達プロに任せるべき···
アンドレアが私の元から男の子を引き取った。
えっ、なんで?
一人の男が半月型の湾刀を振りかぶり、あたしを襲ってきた。
きゃーっ、ひ、人殺しっー。
思わず、目を瞑ろうとするけど、開いたままで、流れるように男の腕を掴むといとも簡単に捻り上げた。
呻き声をあげた男の手から湾刀が地面に落ちる。
あたしは湾刀を取り上げると、その男を突き飛ばし、自分の体の中心線にまっすぐ垂直に立てて構えた。
「運動不足だったんで、ちょうどいい···こい」
はぁっ?
なに言ってるのよ。
ちょうどよくないから。
あんた達も来なくていいから、どっかに行って!
それと、ぞろぞろ無意味に付いてきたあんた達も将軍の危機なのよ、見物してないで助けなさいよ。
男たちはこちらを伺うように地面を摺足で動く。
じゃり、じゃりと足を動かす度に鳴った。
独特の緊張感。
心臓がばくばくして、今にも失神寸前になってたと思うのよ、以前のあたしなら。
なのに、平常心って、どういうこと?
ぎゃ〜っ、襲いかかってきたーっ。
えっ、躱した。
で、蹴り飛ばすの?
顔面。
剣の柄で殴る。
ガッ、ゴキッ。
へ、変な音したーっ。
後退る男を捕まえて、なにを······
ネックブリーカー······
この身体の持ち主、野蛮人じゃん!
見ていただけの兵士二人が、地面と仲良くしている男たちを縛り上げていく。
良いものを見たって表情してんじゃないわよ。
あたし、死ぬかと思ったんだから。
男の子(でいいのよね?)はと、後方に顔を向けた。
呆然とした表情で、ぽっんと立っている男の子。
ちょっと、アンドレア!
放置してどうするのよ。
心療ケア大事なんだからね!
金髪で、触れなば落ちって感じのその子は怖かっただろうに、気丈にもあたしに頭を下げた。
「お助け頂き、ありがとうございました。グリッソム将軍」
その言葉にアンドレアを始め兵士たち全員に緊張が走り、殺気立った。
アンドレアがあたしを守るように前に出る。
「なぜ、それを···返答次第では斬る」
アンドレアーっ!
平和にいこうよ、平和にっ。
皆も剣に手をかけない!
「申し遅れました。この国の王子、リオと申します」
あたしは右腕を見た。
紋章は出ていない。
「違う」
あたしの呟きに、ほんの一瞬だけ、リオ王子の表情が曇った。




