表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/13

第6話 なぞの印の国軍

朝、昨日の洗濯物を取りに行くと、何やらこそこそと兵士たちが話していた。

気になって、耳を澄ませた。


「···古代ルーン···」


「···守護···」


「紋様···」


「あれは···解読不明な···」


なんだろう?

オタクかな?

ごっついオッサンの厨二病拗らせ組ならちょっと嫌だな。

巻き込まれないように、取り込んだらさっさと離れよう。

洗濯物片手にあたしは気づかれないように抜き足差し足でその場を離れた。





「グリッソム将軍、いま、お時間よろしいでしょうか」


アンドレアが畏まってあたしの前に立っていた。

朝の出立前の慌ただしいときに来るなんて、出来る副官らしくない。

余程のことよね。


「ああ、いいぞ」


「昨夜のことですが」


なんかした、あたし?

洗濯物干したのがマズかった?

将軍として威厳がないとかで。


「水筒に描かれた将軍の(守護)印を、兵士たちに見せたと言うのは本当でしょうか」


「拙かったか?」


「将軍は(秘匿していた守護の印を見せて)それでよろしいのですか?」


「(えっ?あたしのだって知らせるんだから)かまわないだろう」


「···例えば、兵士たちが真似て描いても···」


著作権のことかな。

商業目的に使わなかったらいいんじゃないの?

個人で楽しむには著作権違反に問われることはないと思うわよ。

みんなが描くとちょっと目立たなくなるのが困るけど。


「好きにすればいい。描きたい者が描くのは自由だ」


「貴方という方は···(敢えて守護の紋様を見せることで、描かせ、私たちを守ろうというのですね)」


アンドレアがなんか感動してるんですけど。

この世界にゆるキャラなんてないからなぁ···初めて見ると、おおっ!て思うわよね。


「私も描いてよろしいでしょうか?」


「いいが···なんなら描こうか?」


「よろしいので」


お世話になってるんだから、これくらいはするわよ。

アンドレアが水筒を差し出してきた。

あっ、ちゃんと名前書いてある。

そうよね。

間接キスは遠慮したいわよね。

名前の横にネギの角とウサ耳のゆるキャラを描いた。

"お世話おねぎしまぁす〜"と台詞付きで。


「これでいいか」


「(古代まで書いてくださったということは、私は)特別ですか」


特別(サービス)だ」


震える手でアンドレアは水筒を受け取った。


「······」


じっとアンドレアは水筒を見ていた。

薄っすらと頬が上気してるし。


「一生大切にいたします···」


「水筒を?」


「いえ···あっ、はい」


アンドレアは照れ笑いを浮かべていた。

イケメンがはにかむと威力が凄いわ。

そんなにゆるキャラが好きだったの?

ちょっと大袈裟じゃない?

まぁ、いいけどさ。


「さて、出立するぞ」


「はっ」


アンドレアは兵士たちに号令をかけた。

一行は畏怖を知らしめながら進んでいく。

翌日からあたしは小さな異変に気がついた。

何人かの持ち物にあたしと同じゆるキャラが描かれているのだ。

その次の日は更にゆるキャラを描いている兵士が増えた。

また、次の日も。

今では、描かれていないものを探すほうが難しい。

しかも、何人かは画伯だった。

ウサ耳はどう見てもゴーヤだし、首からすぐに手が生えている。

いや、あんたたち、深谷市出身じゃないよね。なに、深谷市をアピールしてんのよ。

いや、待って。

それ、どう見ても所沢市のゆるキャラじゃない。

なんで 所沢市の"トコろん"知ってんのよ。

変形し過ぎでしょう。

軍旗の端にまでゆるキャラが描かれているのを見たときには、正直、こいつら大丈夫か?と正気を疑ったわ。

なんで国軍が埼玉県推し軍団になってるのよ!




あと一日、二日でミネルラ国へと入る。

マイラス国一行の豪華な列の安全に気を配りながら、頭の中は他のことを考えていた。

意図せず、埼玉県推し軍団となったことにあたしは目眩がした。

マイラス国に帰ったら、絶対に何か言われるわ。

意味不軍団になったんだもの。

宰相の怒り顔が目に浮かんだ。

馬上でため息を吐く。

ノリなの?

ノリが良すぎるの、あんた達は?

今度から何か描くときは気をつけよう。

恨めしげに前の兵士を見る。

えっ?

襟首から目が離せない。

······

黒い···

真っ黒なんですけど!

あれって、汚れよね。

ひぇ~っ。

どうしたらそんなに汚れるのよ。

どおりでなんかここ最近、臭いと思ったわ。

小休止に入ってすぐに、仲間といるその兵士を捕まえた。

その一団からは異様な臭いがする。

加齢臭軍団に嫌気がさす。


「くっ、臭い」


それ、いつ洗ったのよ!襟首真っ黒じゃない。

まさかとはおもうけど、お風呂いつ入ったの?

三日前······

えっ、あんたは五日前だ?

よろり。

二十八歳女子の絶対に受け入れられない生理的嫌悪感。

もう駄目。こんな軍団であたし暮らせない。

限界を迎えたあたしは、きっと鬼のような顔と殺気を込めた声音で、兵士たちに命令した。


「……貴様ら、今すぐ、その襟首の汚れと臭いをどうにかしろ。出立はそれからだ」


兵士たちが震え上がり、蜘蛛の子を散らすようにあたしの前から逃げて行った。

我先にと川に入り、体や汚れたシャツを洗う。

ちゃんと洗っているか兵士たちを監視しているあたしの元に外務大臣が歩み寄ってきた。


「一斉に川になど、どうされました、グリッソム将軍」


「体を清潔に保っていないと病になる。臭いは蔓延する」


「······なるほど」


外務大臣はそれだけ言うと馬車へ戻っていった。

側で聞いていたアンドレアが物言いたげにあたしを見ていた。


「なんだ」


「防疫に 匂いで敵の猟犬や伏兵に位置を悟られないために···閣下は常に先を読み、兵の命を誰よりも大切にされているのですね……」


あたしはスメハラをどうにかしたかっただけなのに勘違いも甚だしい。

しかも、そう言ってあたしを見る目が心なしか潤んでいるんですけど。

大丈夫?

あと一日二日したらベッドで休めるからね。

倒れないでね。

あたしは、川でむさ苦しいガチムチの男たちが一生懸命、しかも軍事訓練のように真剣な顔でゴシゴシと体を洗い、洗濯をする姿を死んだ魚の目をして見ていた。


二日後。


前方の部隊長が声を張り上げた。


「ミネルラ国が見えて参りました」


目を凝らすと、見えてきたのは、

白い城壁。

青銅の大門。

巨大な城。


「ここが姫がいるかも知れない国······」


あたしは独り言のように呟いていた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ