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第4話 初任務

国王陛下の前で片膝をつき、頭を下げている。

身体が自然に動いてくれたので助かった。

呼ばれたときは、どうしようかと焦ったわ。

直立不動のまま睨みつけるとか、愛想笑いを浮かべて手揉みするわけにはいかないしさ。

けど、広いなここ。

謁見の間だっけ。

記憶によると、国王陛下と重臣たちに会うのは大体ここで、用件を伺うのもここ。

用件ってなんだろう。

急に言われてもできないわよ。

天気の話ならできるけど。


「グリッソム、楽に」


王座に座った国王陛下が声をかける。


「はっ。ありがとうございます」


立ち上がり、国王陛下を見る。

六十前後。俳優の石倉三郎に似ているな。

玉座から一段下がったところにいるのは、宰相だったわね。大学の主任教授って感じがする。

その隣の細面のインテリ風が外務大臣。

げっ、嫌味なホッジス内務大臣がいるじゃん。小柄で目が小さく、どことなく横柄で狡猾な営業部長に似ているな。

そんなことを思いうかべていると、宰相がすっと前にでてきた。


「実は、将軍をお呼びしたのは、此度、外務大臣がミネルラ国へ外遊に行くことになった。その護衛をお願いしたいがためだ」


ミネルラ国!

願ったり叶ったりよ。

どうやって行こうかと思ってたんだもん。

一触即発なら視察と称して堂々といけるんだけど、いまはどこの国ともそんな状態じゃないから困ってたのよ。

この場合、二つ返事してもいいの?

一旦は持ち帰り検討。後日、回答するの?


「ミネルラ国ですか···」


口が自然に動いた。

えっ?

なに、これ?

勝手にあたしの口が答えたんだけど……

あたしの意思を無視したわよ。

グリッソム将軍が乗り移ったの?

オカルト?


「何を勿体ぶっておる。軍などこういうときにこそ、役立ってもらわねば、軍など無用の長物だろうが」


ホッジス内務大臣が嫌味な言い方をした。

じろりと睨むが、体をぴくりとさせてただけだった。


「訓練ばかりせずに、軍に掛ける費用分働いたらどうかな、グリッソム将軍」


嫌味~。

無視しよう、無視。


「ミネルラ国への街道ですが、現在は盗賊などの被害は極端に少なく、安全な道中かと思われますので、一般の兵で何の問題もないかと推測する。わざわざ私が同行する意味がわからないのだが」


いや、あたしは行きたいのよ。

なに勝手に答えてんのよ。


「宰相殿、どういうことか?」


宰相が眉根を微かに寄せた。

静観していた外務大臣が割って入った。


「グリッソム将軍、勘が鋭いですな」


「ほう、やはり、なにか裏があるな、この外遊には」


「現在、かの国の国王は病厚く、いつ崩御してもおかしくない状態だ。第一王位継承権を持つのはリオ王子だ。だが、最近、王子の周囲では事故が続いているらしいとの報告があった。偶然なのか意図的なのか……それにより対応が違ってくる。また、外務大臣が滞在中に万が一のことがあるやもしれない。そのためだ」


宰相が事務的に答えた。

えっ?

そうなの。

ヤバいじゃない。

万が一って、内戦になるかもしれないってことよね。

嫌だ、そんな危ないところ行きたくない。

パスよ、パス。

訪問は政権が落ち着いてからにしよう。

拒否しようと口を開くと


「面白い。同行しようではないか」


真反対のことを言ってしまった。

はぁっ?

なに言ってくれちゃってんのよ、この口は!

誰か、陰陽師呼んできて。


「では、出立は十日後。装備などについては、内務大臣と話し合うように。内務大臣よろしいな」


「わかりましてございます」


「御意」


御意じゃないっ!!




どうやらパニックになると、防衛本能からか元の持ち主の思考が自然に出るみたいだわ。

なぜ分かったかというと、あの後、訓練前に兵士達への訓示を言われた。

兵士達はほぼ全員、ゴツくてむさ苦しくて、すれ違ったら何も言わずに財布を差し出すくらい迫力のある怖い顔をしていた。

そんな極悪顔の兵士達があたしを射殺すような目をして、一列に整然と並んでいるのよ。

そんな凶暴軍団を目の前にして、一般女子会社員が話せるものなんて、はっきり言ってない。

ひっと内心震え上がって立ち往生しているあたしの口から出てきたのは、これぞ指揮官、これぞザ・将軍としての物凄く立派な訓示だった。

思わず、呼び出ししようとしてた陰陽師や退魔師をイタコに変更して、感謝の声を伝えようと思ったわよ。

行動はさ、それぽっくやればできるけど、言動は無理ってよく分かったわ。

もしかして、これって神様からのアフターサービスかな。なら見直した。やっぱり、あんたは腐っても神様よ。


「···聞かれているのですか、グリッソム将軍!」


あたしの前には額に怒りマークを浮かび上がらせて、ホッジス内務大臣がいた。


「···なんだ?」


そうだった。

いまは遠征の物資や軍馬の話をしていたんだったわ。


「はぁー、これだから、昼日中からチャンバラごっこで戦っていればいい人間というのは···平和でいいですな。」


はい、嫌味。

また出た。

さっきからずっと嫌味と重箱の隅をつつくような指摘の繰り返しで、うんざりしてたのよ。

こんなときに限って、この口は無反応だし。


「ごもっとも。まあ、茶でも一杯」


人間、飲んでるときとものを食べてるときは口を閉じるから、お茶勧めよう。

っていうので、何杯目になるかわからないお茶をカップに注いだ。

ホッジス内務大臣の顔が引き攣った。

心なしか顔色が悪い。


「い、いや、もう茶は···そ、それよりもだ···くっ」


「そう遠慮なさらず(煩いから飲んで黙っててよ)


「くっ」


ホッジス内務大臣が呻いた。

ふと足元が気になった。

あれ、貧乏ゆすりしてる。

手元を見ると、書類を握りしめている。

それ、皺くちゃにしたらあとで困らない?

ホッジス内務大臣が急に立ち上がった。

脂汗を滲ませながら小さく足踏みをしている。

なによ、急に···


「と、とにかく、あ、明日までに···持ってきてくださいよ」


そう言うやいなや、ホッジス内務大臣は脱兎の如く走り去っていった。

なんだ?

······

あっ、ごめん。

あれね。

間に合いますように···とあたしは心の中で祈った。


「やりすぎたかのぅ······」


という神様の声が聞こえたような気がした。


出立まで、あと五日。










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