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第11話 いや、だから偽装だってば

勝手に……

そう、暴走筋肉が勝手に受注したのよ――っ

あたしじゃない。

あたしは一切了承も許可も出してない。

……と泣き落とししたら、なかったことにならないだろうか……

リオ王子とリーナ姫は拝む勢いで何度もあたしにお礼をいう。

アンドレアは、なぜか終始、不機嫌だった。

兵士たちはというと—―

ゆるキャラを拝んで通常運転。

この人たち、大丈夫なんだろうか……

戦える?

はぁっ……

もう抜き差しならない状態になっちゃったなぁ……

どうしよう。

勝手に受注した筋肉脳はあれ以来音沙汰無し。

残ったあたしに丸投げなんて、無責任じゃないか。

筋トレは毎日やるくせに。

ぶちぶち愚痴をいっていたが、会社員の性か、やるしかないのよねと諦めた。

リオ王子に会いに行く。

ベッドの上で体を起こしていたリオ王子の顔色は、昨夜より良くなっていた。

男装をしたリーナ姫は甲斐甲斐しい。姉弟の仲の良さが伺えた。

挨拶後、さっそく問題になっていることについて、あたしは話を切り出した。 


「他国の将軍が王位継承に介入となれば、問題となる」


声、野太くって可愛くない。


「その通りだ」


「ここを解決せねばならぬ。そこでだ、親族ならどうだ?」


「……親族?」


リオ王子が首を傾げた。


「婚約者であれば、介入しようとも護衛しようともおかしくはない」


ニヤリと笑った。

あっ、この顔だ。

きっと極悪な笑みになっているんだろうな。


「婚約者ですか……確かに」


リオ王子が納得する横で、リーナ姫が呟いた。


「婚約……グリッソム将軍と……」


心ここにあらずといった(てい)

そ、そうよね。

嫌よね。

分かるわ。

あたしだってこんなガチムチの筋肉ゴリラ野郎と婚約なんて嫌だもん。

ましてや、二十歳近く離れた若い女の子なら絶望よね。

でも、大丈夫よ。

偽装、偽装だから。


「いいのでしょうか、私で」


「形式上だ」


「それでも、私は······」


はぁっ?

顔真っ赤じゃん。

ちょっと、リーナ姫?


「姉上」


リオ王子、言ってやって。

偽装だと……


「お似合いです」


だ――っ!

聞け、この勘違い姉弟。

偽装だと言っているでしょうが!!

盛り上がるな――っ。


「姫、助力を願う」


きーっ。

なぜ、出てくる。

ややこしくなるでしょうが、出てくんなっ。

なんとか誤解を解いた。

解けたと信じたい。

リーナ姫はうるうるした瞳であたしを見てたから、ちょっと不安だけど。

疲れた……

もう精神状態がぼろぼろよ。

さすがに鋼の筋肉も影響を受けたと見える。

筋肉が重い。

部屋に帰って、お風呂に入ろう。

重厚な扉を開けて、廊下に出た。


ぞわっ。


背筋に悪寒が走った。

手がすっと腰に佩いた剣の柄に伸び、勢いよく振り返った。

そこにいたのはアンドレアだった。

なんだ。

脅かさないでよ。

副官として、付いて来てたのか。

優秀じゃない。

あれ?

陰った廊下部分にいるアンドレアの様子がちょっとおかしい気が······


「アンドレア?」


「閣下」


な、なにその地を這うようなおどろおどろしい声音は!いつものイケボはどこに捨てたのよ。

拾ってきたほうがいいわよ。


「申し訳ございません。ご婚約の件、聞いてしまいました。ミネルラ国掌握のために望まぬご婚約をされるなど······」


いや、だから偽装だってば。

盗み聞きするならちゃんと盗み聞きしなさいよ。


「いや、あれは」


あたしの声に被せるようにアンドレアは苦渋を含んだ声で言った。


「このアンドレア、結納の手続きからご成婚の手配まで、血を吐く思いで……いえ、命を懸けて完遂させていただきます」


顔、怖いんですけど。

顔が完全に呪いの人形と化している。

何か、ぎりぃって奥歯鳴ってない、アンドレア。

命懸けなくていいから。

たかが偽装に重すぎるでしょうが。

軽く考えて、軽く。

······

えっ?

······

結納って言った?

結納って何よ、結納って。

あたし、この世界の結納の相場なんて知らないし、そんなお金持ってないわよ!

あっ!

やばっ。

そうよ、偽装とはいえ、それらしく見せるためには、結納品は要るわよね。

失念してたわ。

こっちの結納ってどんなの?

『水引』とか『するめ』とか『かつお節』とかいる?

誰か教えて!


「よい、我が水筒を使う」


······

えっ?

水筒······

あたし、今、水筒って言った?

なんで水筒が出てくるのよーー!

あんなゆるキャラが描かれた水筒なんて、どうするのよ!

もう、嫌だ、この口。

神様、どうにかしてよーーっ。




「はっくしょん」


神様が鼻を擦った。


「嫌な予感がする······また、あやつか?」







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