第12話 水筒と罠
ぼろぼろよ。
何だってああ、人の話を聞かないかな。
次期王族、大丈夫か?
大丈夫といえば、アンドレアもよ。
どうしちゃったんだろう。
完璧イケメンスパダリ騎士が、切なさそうに水筒撫でて、ため息ついてるなんて、絶対、おかしいわよね。
はっ、まさか恋?
リーナ姫に一目惚れしちゃった?
姫と他国の騎士なんて、ロマンス小説の王道じゃない。
いいなぁ、華やかな話題。
あたしなんか、
一、お家騒動に両手足を突っ込んだ話。
二、指輪を間違えて嵌めたら輪廻まで人生終了な話。
三、神様のミスで姫ではなく、中年筋肉将軍になった話。
夢も希望もないこの三つよ。
人生格差に泣きたい。
この格差を縮めるためにも、先ずは、お家騒動からなんとかしていかないといけないんだけど·……
リオ王子の話だと怪しいのは三人。
叔父のモンラッカー大公。
ミネルラ国軍右将軍、ケイジーン・ブラス 。
財務大臣のエビロン・クリッカー。
どいつだろう……
全員、首を刎ねればよかろう。
そうねって、なにこの危険思想。
脳筋の筋肉脳は黙ってなさい。
推理ドラマだとここで犯人が出てくる頃なんだけど。で、一番怪しくない人が黒幕だったって、展開よね。
お〜い、犯人、出てこい〜。
出てくるはずないか。
はあ〜っ。
サクッと終わらせるには、どうするかな……
なんか仕掛けて誘き出す?
仕掛けって言ったって、そう簡単には……
う〜ん。
……あっ。
あった……
あるじゃないの。
ランニングコストも、そんなに時間もかからない仕掛けが!
あたしはにやりとほくそ笑んだ。
「閣下……くっ、閣下の聖なる水筒をお持ちしました」
この世の終わりという表情でアンドレアがあたしの水筒を差し出した。
な、なに?
なんかあった?
たかが水筒渡すくらいで、今にも深淵に落ちそうなんですけど。
部下の兵士たちもざわざわしている。
「将軍が水筒を……」
「我らの将軍が……」
「水筒……水筒を……」
アンドレアといい、あんた達といい、嫌に水筒に固執してるわね。
何かあるの?
たかが、水筒よ。
この異常な嘆きっぷり。
これはあたしの知らない何かがあると見ていいわ。
この口も、結納品に「よい、我が水筒を使う」って、言ってたし。
あたしは近くにいたアンドレアを捕まえた。
捕まえたはいいけど、なんて聞こう。
……
「閣下、本当にあの聖なる水筒をお渡しになるのですか?」
聖なる水筒ってなによ。
ゆるキャラ描いてあるだけじゃん。
保温機能も保冷機能もないただの革袋でしょ。
「ああ。証には相応しい」
「くっ、水筒をお渡しになる……戦場に於いては命を支える水を入れる水筒を……ギリィ」
か、顔が般若……
こ、怖い。
どう、どう。
アンドレア、落ち着いて。
けど、知らなかった。
水筒ってそんな意味があるの?
あたし、取り替えの効くマイボトル感覚しかなかったわよ。
「閣下にとって、リーナ姫は命を捧げる相手……」
アンドレアは絶望の色を浮かべている。
はっ…そうよね。
好きな相手に他人がそんな御大層な意味のある水筒を渡すとなったら絶望もするわよね。
でもね、安心して、アンドレア。
これは偽装。婚約偽装だから。
だから、アンドレア、早まって補佐官辞めないでよ。
大丈夫だからと、アンドレアの肩を軽く叩いた。
「大丈夫だ、(姫の)隣はお前だ」
「閣下…」
あたしはぎょっとした。
アンドレアが天に向かって涙し出しているのだ。
安心したからって、なにも泣かなかったっていいじゃない。
この国に来てからのアンドレアってば情緒不安定なんじゃないの?
精神的ストレス抱えて、ドクターストップ、長期療養休暇になんてなったらどうしよう。
上司として目が届いていない、監督不行届なんてことになって、人事評価が下がるってことないわよね?
「ア、アンドレア…」
どう声をかけたものか悩んでいたら、アンドレアがすっきりとした表情をしていた。
「浅はかな勘違いをして、申し訳ありません。真意、しっかりと受け取りました」
「ああ」
何かわかんないけど、丸く収まったのならいいわ。
けど、ひとこと付け加えておかないと。
「頼りにしている」
「閣下…お任せを」
アンドレアがいつものデキる副官に戻った。
良かった。
人事査定に響くかと思ったわよ。
お陰ですっかり罠を仕掛けることを忘れちゃったじゃないのよ。
さてと、それじゃあ仕掛けに行きますか……
あたしはリオ王子にお伺いしたい旨の使者を立てた。
「将軍、それで?」
ベッドには居るものの、精神的な憂いが幾らか取り除かれたせいか、リオ王子の顔色が良くなっていた。
リーナ姫はなぜかあたしの半歩後ろに寄り添うように控えている。
弟の側にいなくていいのかな。
「相手にすれば、何が何でも姫との婚約成立は阻止したい。婚約の品がなければ婚約したとはいえないと考える。そこでだ。怪しい三人には、極秘だといい、婚約の品が届く日を別々の日時で教える」
「……成る程……その日時に行動した者が黒幕と」
「だが、問題もある」
なによ、問題って。
「マイラス国の将軍が自国の姫の婚約者になるとすると、マイラス国の属国になるのではという懸念が生まれる。反対するものが出てくる……」
あーそれね。
「見せしめに誰か殴って黙らせるか?」
何でも拳で解決するのは止めっ、脳筋!
「将軍、それは……」
そうよね、リオ王子。
ここはびしっと言ってやって。
何でも拳で解決するなって。
「最後の手段でに取っておいてくれ」
はぁっ?
最後のって……
リオ王子、あんたその容姿で隠れ脳筋たっだの?
残念感が半端ないんだけど。
「反対は出るだろうが、別の見方をすれば、マイラス国の最強将軍が味方となるのだ。安心する者の方が多い。それに、将軍を前に表立って異を唱える恐れ知らずはいない」
よかった。
リオ王子まで脳筋だったらどうしようかと思ったわよ。
「それよりも、将軍の国は問題ないのか?」
身体が勝手に肩を竦めた。
「案ずるほどのことではない。こいつで黙らせる」
と拳を見せた。
あたしは案じるわよ!
拳は決定権じゃないんだからね!
「まぁ、実際はマイラス国にとって利益の方が大きい。反対する者はいないだろう」
よかった。 この身体、本当に殴って解決する気じゃなかったのね
リオ王子は深く息をした。
「……将軍の不敗神話の一端を見た気がする」
違う違う。
筋肉が考えたんじゃなくて、考えたのはあたしだから。
「危なくはないのですか?」
リーナ姫が不安そうに言う。
のこのこ来た人を捕まえるだけよ、兵士が。
あたしは危なくなんてないでしょ。
「姉上、将軍が直々に捕縛されるのです。将軍より、相手の方を心配された方がいいですよ」
ちょっと待ちなさいよ。
誰があたしが捕まえるって言った。
勝手に話を作らないでくれるかな。
会社員だったあたしにできるはずないじゃないの。
捕まえる役は兵士よ、兵士。
「片手間だな」
片手間だなじゃないわよ!
口、あんたも勝手に話さないで!
もうホント、いやだ、この身体。
部屋の中では蝋燭の炎が揺らめいていた。
トントントン
机を叩いていた指が止まる。
「婚約の品が届くか……」
静かな部屋に男の低い声が響いた。




