はじめての委員会3
どうにも不安な委員会もあと少しで終わりかとほっと一息。相棒もようやく来たしね。
今は安心して配られたプリント用紙に集中できた。
「催事について」?
来月実施される催事の日程と参加する場合の必要事項が記されていたのだが。
一枚にまとめられているので、さほど時間をかけずに把握できたが、今一つわからないことがある。
「何のための催事なんですか?」
他の人は疑問を持っていないようだが、私にはわからないことだらけだ。
まず何のための催事なのか、そこからである。
学園祭?には少し時期が早い気がするし、親睦会とは思えないし。
さっきまであった緊張感は少しだけやわらいでいる。それでも大きな声を出すことははばかられる。
そんな雰囲気を察し私は、小声で隣に話しかけた。もちろん信頼度抜群のマツカイ先輩にだ。
隣に座っている原西君が、聞き耳を立ててる気がするが無視しよう。だって信頼度が低いからね。
「この学校は生徒数が圧倒的に少ないのよね、全校あわせて300人を少し超すくらい?で、それくらいだと部活動を奨励しようにも人数が中途半端ってことで」
「中途半端ですか?」
「そうよ例えば野球やサッカーなんかの体育会系だって人数が足りないと練習もやりずらいし、吹奏楽部だって人数が必要でしょ?」
「えっと……人数が少なくてもできる美術部とか軽音部なら大丈夫では?」
「うーん、学校も一応考えてはみたらしいのよ、そこらへんのことは」
ここでマツカイ先輩は、腕を組み考え込むように目を閉じた。どう説明したらいいのか悩んでいるようにみえる。
「マツカイ先輩、催事の説明ですか?そうか、君は受験したんだったね」
会計と副会長を兼任しているという桔梗様が、私とマツカイ先輩の会話を聞きつけたらしく、話に割り込んできた。
えっ?立ち上がってそばまで寄ってきちゃったよ。そして美形は近寄っても美形だった。
きめ細やかな美肌に整った目鼻立ち。あ、いい匂いがする?
パフュームとかかな?学校につけてきていいのかな。この学校、校則がゆるすぎない? あ、シャンプーか、柔軟剤の匂いかも?
そしてなぜ入学試験を受けたのを知っているの?でも普通の高校って入学試験を受けるのって普通だよね?不可解であると顔に書いてあったのだろうか。桔梗様は疑問を察してくれた。
「うちの学校は、半分以上が内申と面接で入学するケースが多いんで、受験者は少ないんだよね」
なんだか、珍獣扱いされている?そういえば、試験を受けた教室がやけにガラガラだった。思い出してきた。そして桔梗様の顔をあらためて凝視する。
唐突に記憶がよみがえる。確かに見た顔。
「ええと、でも桔梗様も試験受けていましたよね?」
「うん、僕ね入学試験ってどんな感じかなと思ってさ。受けさせてもらってたんだよ」
なんだそれ。入学試験は娯楽かい?
「で、催事のことでしたよね。マツカイ先輩。よかったら、僕が説明するね」
前半はマツカイ先輩、後半のセリフは多分私に言っているのだろうか。同じ一年のはずなのに、なんだか積極的。ふんわりとした雰囲気とは違って少し強引な感じがする。
「簡単に言ってしまうと、普通の部活がないので開催するようになったんだよね。この高校には同好会しかないんだ」
「確かに人数を必要とする体育会系の部活は、この高校では難しいですが、文化系の部活はどうなんでしょう。吹奏楽部は無理でも軽音部とか美術部は」
桔梗様の話しやすい雰囲気にのせられたわけではないが、私は思っていたことをすっぱりと聞いてみることにした。だってモヤモヤするのいやだし。
「ああ、軽音や美術部は確かに少人数でも可能だけどね。学校としても生徒が入部してくれるのか、そして活動を継続するのかという点で懐疑的でね」
「はあ……」
「で、考慮した末が生徒の自主性に委ねることにしたんだ。つまり生徒が自主的にやりたいことをやる。学校はそのサポートをしよう、と」
「生徒がやりたいことって、具体的には?」
「うーん、例えばマツカイ先輩は手芸同好会だ。会員数は……二人?」
「失礼な。今年は四人に増えたのよ」
「まあ、そんな感じで少人数の同好会が多数あるんだが、少人数過ぎて活動の場がなくてね」
「催事では各人各様な活動を示し、活動内容と人気順で活動費と専用部屋などの支援をしている。美術部はないけど、確かイラスト同好会やマンガ研究会なんかがあった気がする」
「気がする?」
「二ヶ月に一度催事が実施されるんだけど、そこで何らかの活動が六ヶ月間なにもないと学校の認定がなくなるんだ。もちろん学校の認定が取り消されても各自で勝手に活動する同好会もいるけどね」
把握しきれていない同好会もあるそうだ。
「でも取り消されると専用の部屋と活動費支給という特権がなくなるのよ」
なんかシビア。でもそれが普通?
「まあそりゃね、学校としても活動実績がない同好会に支援はできないよ。そこは理解して納得してくれないと。それにマツカイ先輩のところは毎回出店して人気も高いし、売り上げも好調でしょう?」
「ええ、ええ。毎回手を替え品を替えて、頑張って販売しているわよ。楽しく作れて儲けが出るって最高よね」
楽しかった記憶を反芻しているらしいマツカイ先輩をおいて桔梗様の話は続いた。
「この同好会の活動が、卒業後の仕事に活かされたりもする。催事は同好会の活動を活性化させるだけではなく、企画・スケジュール管理・販売といったスキルアップの場でもあるんだ」
「楽しいのよ、どんなものが売れるかと悩むけど。校内だけじゃなくて校外のお客様もいらっしゃるしね。ホント刺激があって面白いの」
どうやら催事は校内行事というよりも、一般開放された学園祭のノリだろうか。
「誰でも入れるんですか?それとも招待制でしょうか」
以前聞いたことがあるが、私立の名門校では保安上の問題もあって生徒の関係者のみ招待することが許されると。松北学園はどうなんだろう。一応ここ私立だけど。
「一般開放だね。ほとんどの来客は近所の人たち、それと生徒の保護者も多い。結構人気あるんだよ、松北学園の催事。生徒が企画して制作と販売するってことで最初はスカスカだったのが、今ではどこぞのバザールなみだ」
「トラブルはおきないんですか?」
「最初の頃は数件おきた。で、こちら側としてもトラブルは困る。徐々に保安強化に努めた。具体的には催事が行われるスペースを中心に防犯カメラを設置、人員を配置して監視を徹底しているからね」
「そうね、この催事が始まったのっていつだったかしら?小学校の時に友達ときた覚えがあるんだけど」
「創立当初から始められたという記録が残っていましたよ。最初はホントに規模が小さかったようですが」
「催事の説明は終わったの?桔梗、ハーイ原西君、テニス頑張っているみたいね。忙しそうだけど、クラス委員続けていけるの?」
突然滑舌のいい声がしたと想ったら、いつの間にか近くに書記担当の楓様がいた。
「一年三組の真家伊緒さんでしょ。私は赤松楓、学生会の書記をやっているよ。ま、マツカイ先輩に聞いて知ってるかもだけど」
ニカッという少年漫画の主人公みたいな笑い顔と、快活な口調に圧倒されたまま出された手を握り返す。勢いに推されて握手している自分に驚く。コミュ力高っつ
コミュニケーション能力低めな私が、コミュニケーション上級者に囲まれすぎな気が。
「さて、全員催事に関する内容読み込んだよね。週明けに各クラスに伝えておいて。必要事項は書いてあるけど、申請書の提出締め切りは来週いっぱい。じゃあ他には、志麻なにかあったっけ?」
桔梗様の通る声が響き全員が、会長の方をみた。
「いや、とりあえず今日のところはそれだけだ。一応自己紹介をしておく。学生会会長の赤松志麻だ。よろしく頼む。そして会計担当の桔梗と書記担当の楓だ。あ、一年三組のクラス委員だけ残ってくれ。よし、解散」
会長のあっさりとした自己紹介と解散宣言を聞いて、他のクラス委員達が退出しはじめると残ったのは原西君と私、学生会三人組それにマツカイ先輩である。
「マツカイ先輩、なんで残っているんです?」
「なんとなくよ、だって心配だし」
「原西君、まずは聞きたい。今日委員会に遅れたのは私用だね?君は他にもクラス委員としての仕事を何度か不参加で終わらせているよね」
人数が少なくなったということで、椅子を持ち寄り座っていた。一見すると気楽な座談会にも見えなくはない。現実は圧迫面接な気も。
私は信頼のマツカイ先輩と頼りない原西に挟まれ座っている。正面には眉間にしわを寄せた会長が。
困ったことに異様に甘い匂いがただよってくる。
「あ、すみません。自分はプロのテニスプレイヤーを目指しているんですが、今日はスポンサーになってくれそうな人との約束があったので、遅くなってしまいました。本当に申し訳ありません」
立ち上がって深々と頭を下げる原西君。45度の最敬礼再び。うん、なんていうか原西君の謝罪はものすごく美しいパフォーマンスのようだ。
悪意でも嫌みでもなく完璧なお辞儀だと心から感心してしまった。
しかし会長はその美しいお辞儀には取り立てて思うことはないらしく、眉間に深いしわを刻み鋭い目つきで原西君をみる。
「原西君、謝罪はいいのでとりあえず座ってくれ。君がテニスプレイヤーとして頑張っているのは知っている。プロになる決意をしたのは知らなかったが」
深く溜息をつき悩ましそうな顔をする会長に、原西君はどうしたらいいのかわからず困惑顔。
「まだるっこしいよ会長。原西君、今日のことだけではなく君がクラス委員としての役目をずっと放置気味だったことを問題視しているんだよ」
話がすすまないことに焦れた楓様が、会長が言いづらそうにしていたことをスパッと切り出した。せっかちなのかサッサと答えてと言わんばかりに顔を近づけた。
会長ほど短くはないが、丸みを帯びたショートヘアにしている楓様は、ボトムスがスラックスなこともあって華奢な少年に見える。
原西君に顔を寄せ話しかけていると、美少年同士のラブシーンにもみえなくはない。
ここでBL展開ですか。とは誰も言い出さないがいい加減で誰かとめて。
「楓、なんていうか最近増えてきた恋愛ドラマを彷彿させるから。少し離れて?」
ああ、桔梗様もボーイズやおっさんずのラブ的なドラマを連想したらしく楓様を強引に引き離す。
「そうかしら?どちらかというと容疑者につめよる少年探偵に見えたけど」
マツカイ先輩には推理系ドラマにみえたらしい。
「え?」
「容疑者……」
楓様は天然か?
マツカイ先輩に容疑者扱いされてショックって顔をしている原西君だけど、そんなに真面目にとらえなくていいとおもう。多分だけど軽口をたたくことで、重くなりがちな空気を変えようとしているのでは?
「ええと、話を戻そうか。原西君それでスポンサーと契約は成立したのかい?テニス協会への登録は?」
「はい、乙部建設と契約し交通費と宿泊費などの遠征費用を確保できました。登録もすんでいるのでこれからは遠方の試合にも参加してランキングを上げていきたいです」
桔梗様の質問にハキハキ答える原西君、どうやらプロのテニスプレイヤーになるらしい。いや、すでになったのかな?
「学校の授業はどうするんだ?勝ち進めば数日間は帰ってこられないだろう。出席日数不足になるのではないか」
志麻様は、出席日数不足による進級危機を危惧していた。まあ、確かに近場ならともかく遠征しての試合となると日数と単位の不足が考えられる、授業にもついていけずに落ちこぼれるよ原西。
誰かのノートを借りて自習?厳しい気がする。
「退学を考えているのかしら?テニスだけに集中したいのならそれもありだと思うけど、でも単位制授業を試してみるのもいいんじゃない?」
マツカイ先輩の提案に、ハッとする原西。今気づきましたって顔している。
そういえばこの学校は、学年制と単位制を取り入れているんだったよ。忘れていたけど。
学年ごとの進級ではなく、三年間に必要な単位を取得すればよい単位制なら両立できるかもしれない。
芸能人やスポーツ選手に利用者が多い制度だと聞いたことがある。
「考えてみます」
クラス委員としての役割を果たしていないことも釘をさされて、本日は解放されることになった。
もちろん私も同じく解放。
「真家さん、色々と迷惑かけてごめんね。じゃあまた」
どんなときでも、にこにこしていた原西君。でも今は違う。別人のように深刻さを漂わせ帰っていった。
そして私といえば、委員会からやっと解放されて帰れるというのに、なんともいえない気分だ。
これはどうしたことかと考えてみるに、やっぱりあれが原因であろうと結論づけた。
甘い匂いのせいだ。そして甘い匂いのもとは、眉間に深いしわを刻んでいる会長。




