死の来訪
「そんなのはでたらめだ! ハワード殿は、私に時計の歯車が刻む時間の尊さを語ってくれた。過去に何があったとしても、今の彼らは!」
「ナァ。フー。ウゥー。(そんな素振りや悪意の臭いは、俺の鼻でも感じ取れなかった。あまりに完璧に、無実の善良な市民を演じ切っていたということか。だが、ロイス。こいつの言葉に、嘘の色は混じっていないぜ。こいつが見てきた景色は、どれも本物だ)」
ススが尻尾を激しく逆立て、ジェミニの足元を警戒するように回りながら鋭く鳴いた。ベルは無機質な瞳の奥で、これまで詰め込んだ頭の中にある膨大な過去の公文書や秘匿された軍事データを照合し続け、静かに、しかし冷酷な結論を口にした。
「ヴィクトルの供述と、サルベージした断片的な機密データの整合性を確認。九十二パーセントの確率で、彼の提示した経歴は真実です。ロイス様、警戒が必要です。乗客のすべてが掃除屋の生き残りであるならば、その口を封じようとする組織、あるいは利害が対立する同業者たちが、この船を狙わないはずがありません」
ベルの警告が終わるよりも速く、船体全体を底から突き上げるような凄まじい衝撃が走った。ドォォォォン! という、内側からの爆発とは明らかに質の異なる、外部からの暴力的な物理打撃音が轟く。
「な、何が起きたの!? この衝撃、ただの事故じゃないわ!」
「急襲だ! 船の四方、海面下および上空から、熱源を隠した未確認の高速機体が接近している!」
ジェミニが叫び、隔離室の隅にある緊急モニターを起動させる。そこには、灰色の霧を切り裂いて船体に取り付く複数の小型潜水艇と、甲板に音もなく降り立つ飛行カプセルの群れが映し出されていた。それらは国家の紋章を持たず、ただ無機質な真鍮の装甲で固められた、旧体制の残党にして現役の掃除屋たち、殺戮の専門集団であった。
波状攻撃は、一切の手加減なく始まった。第一波は、ブリッジと機関室の完全制圧。船の神経系統を断ち切り、この船を海上の巨大な鉄の浮き島へと変えようとする突撃部隊が、真鍮の通路を鮮血で染めながら、機械的な正確さで進軍してくる。そして第二波。彼らの真の標的は、この船の隠された真実を知りすぎた唯一の記録者、ヴィクトルの抹殺であった。
「来たな……。ようやく、私の記録の結末を描きに、本物の死神たちがやってきた」
ヴィクトルがふらりと立ち上がろうとしたその時、隔離室の天井が轟音と共に崩落した。もうもうと立ち込める塵埃の中から現れたのは、全身を強化真鍮の防弾甲冑で包み、唸りを上げる巨大な解体用回転鋸を装備した暗殺者たち。彼らは感情を排した仮面の奥から、一点の迷いもなく室内へと突入してきた。
「上等じゃないの! 悪党同士の殺し合いだろうと、私の目の前で、勝手に命を解体させはしないわッ!」




