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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人
灰色の美学

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92/110

鋼の牢獄と楔の言霊

 非常用の照明が点滅する薄暗い通路を抜け、一行がヴィクトルを追い詰めたのは、船底に近い、分厚い真鍮の隔壁に囲まれた予備客室の前だった。そこは本来、航海中に荒天に見舞われた際、極めて重要な資材を保護するための緊急シェルターであり、一度閉じれば外部からの物理的な干渉を完全に拒絶する構造になっている。


 ヴィクトルは、扉の陰で小型のデトネーターを握りしめ、自嘲気味な叫びを上げようとしていた。だが、彼がスイッチを押すよりも速く、ジェミニの投じた特殊電磁干渉弾が、機械の心臓部を音もなく焼き切った。


 「……ここまでだ、ヴィクトル。君の歪んだ記録は、この場所で完結した。……もう、シャッターが降りることはない」


 ジェミニが低い、しかしブリッジ全体を震わせるような威厳に満ちた声で告げ、騎士としての眼差しをヴィクトルに向けた。ロイスは装具の拳を構えたまま、壁際に追い詰められた記録者を見据える。


 ヴィクトルは砕けたレンズの破片で頬を切り、鮮血を流しながらも、その瞳には依然として不気味な薄笑いが浮かんでいる。


 「……クク、没か。まさか、私の全人生を懸けた最高のシャッターチャンスが、こんな無粋なエンジニアと人形に邪魔されるとはな。……だが、アッシュウォーカー。君たちは本当に、何を守ったつもりでいるんだ?」


 「あなたの美学は、ただの独りよがりな破壊と、他人の不幸に寄生する醜悪なエゴに過ぎなかった。……ベル、拘束を。この男から、これ以上の表現の自由を剥奪しなさい」


 「承知いたしました」


 ベルが予備の真鍮製拘束具をヴィクトルの手首に嵌め、抵抗する力を失った彼を予備客室の内側へと押し込んだ。ジェミニはすぐさま扉のヒンジとラッチに高出力の溶接機を当て、青白い火花を散らしながら、物理的に二度と開かない鋼の牢獄を完成させた。扉には、ロイスの探偵事務所の紋章を模した、重厚な真鍮の封印が焼き付けられた。


 「これで、六日目の夜明けまでは静かに過ごしてもらえるはずよ。……ジェミニ、怪我はない? あなたの装具、少し無理をさせたわね」


 「ああ。放熱板が少し焼けた程度だ。それよりも、ロイスの方こそ……あのルーレットの衝撃を正面から受けたんだ。無理をしたんじゃないか?」


 ジェミニは心配そうにロイスの右腕に手を添えた。真鍮の装具の接合部からは、まだ過負荷による熱気が微かに漏れ出している。ロイスは兄の温かな手に、張り詰めていた心が解けるような安堵を感じ、静かに首を振った。


 「大丈夫よ。ベルと、ジェミニと、そしてススがいてくれたから。……でも、あいつが最後に言った、あの不吉な言葉が、どうしても喉の奥に刺さった棘みたいに引っかかるのよ」


 「……ナァ(俺もだ。あいつの目、ただの負け惜しみで言っているようには見えなかった。まるで、これから本当の地獄が始まるのを、特等席から高みの見物でもしているような……そんな嫌な目だったぜ)」


 ススが扉の隙間を嗅ぎ、不機嫌そうに尾を激しく左右に振った。不安が霧のように足元に溜まっていく。


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