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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人
灰色の美学

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91/110

砕け散った舞台の残響

 粉砕された黄金のルーレット盤から、真鍮の破片が火花のようにカジノの床へ降り注ぐ。その輝きは、豪華客船クイーン・エリザベス・スチーム号が迎えた五日目の夜における、最も残酷で、かつ最も美しい解体の証であった。


 カジノを埋め尽くす豪華なシャンデリアの光が、飛び散った金属片の一つ一つに反射して、まるで夜空から星屑が地上に墜ちたかのような幻想的かつ虚無的な光景を作り出している。


 ロイス・アッシュウォーカーは、熱を帯びた装具の排熱口から噴き出す白く濃い蒸気の中で、ゆっくりと、しかし確かな意志を持って立ち上がった。視界の端では、バルコニーの欄干から崩れ落ちるように逃げ出したヴィクトルの影が、闇の中へと消えていくのが見えた。


 周囲の乗客たちは悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように避難していく。その混沌とした喧騒の中で、彼女の視線はただ、あの歪んだ記録者を捕らえることだけに集中していた。


 「逃がさないわよ……! ベル、ジェミニ、追うわよ! 私の美学を否定し、この船を死の劇場に変えようとした報い、きっちりと受けてもらうんだから!」


 ロイスの怒りに震える声が響く。彼女は装具を操作し、残骸を飛び越えて進む準備を整えた。


 「了解いたしました、ロイス様。熱源探査、および音響解析を最大感度で開始。……対象は負傷しており、足取りが乱れています。船尾の予備資材庫方面へ向かっています」


 ベルの白銀の機体が、風を切るような滑らかな動きでロイスの隣をすり抜けていく。その瞳に宿る蒼い光は、逃亡者が残した微かな熱の軌跡を完璧に捉えていた。ジェミニは自身の装具の出力を調整し、壊れたルーレット盤から漏れ出す残留蒸気を遮断しながら、力強く頷いた。


 「ああ。あいつの足跡は、安っぽい機械の油と、この船の平和を汚した硝煙の臭いで満ちている。……スス、先行できるか? お前の鼻なら、あの卑劣な記録者の行き止まりを見つけられるはずだ」


 その呼びかけに、小さな影が反応した。


 「ナァ(当たり前だ。あんな鼻につく、腐った悪意の臭いを見失うはずがないだろう。お前さんたちは遅れないようについてきな)」


 ススは赤い絨毯の上を弾丸のような速さで駆け抜け、三人と一匹は、迷路のように入り組んだ船内のサービス通路へと突入した。さっきまでの華やかなカジノの喧騒が瞬く間に遠ざかり、代わりに聞こえてくるのは、船の心臓部であるメインボイラーが奏でる重厚な蒸気の鼓動と、逃亡者が鳴らす不規則で焦燥に満ちた足音だけだった。


 (絶対に、この船のすべてを記録して終わらせたりはさせない)


 通路を曲がるたびに、排気管から吹き出す蒸気が一行を遮る。ロイスは鋭い観察眼で、ヴィクトルが残した微かな壁の擦れ傷や、床に落ちた金属粉を追った。この船の隠された構造を熟知している彼女にとって、迷路のような通路もまた、獲物を追い詰めるためのチェス盤に過ぎなかった。


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