黄金の軌道
「ベル、第一区画の毒ガス配管をスキャン! ジェミニ、玉の軌道を計算して!」
「了解いたしました、ロイス様。第一投、目標は八番。開放されるのは、今まさに乗客たちが夕食を楽しんでいる一階ダイニングルームの通気口です。猶予時間は十五秒」
「計算終了だ。ロイス、あの玉は磁気による微細な誘導を受けている。装具の電磁パルスを、時計回りに三度の角度で放射しろ。玉の軌道を外側へ弾き出すんだ!」
ジェミニが的確な指示を飛ばす。ロイスは右腕を突き出し、装具の内部コイルを限界まで加速させた。
「外れなさいッ!」
装具から放たれた不可視の波動が、盤上を走る玉を僅かに押し戻した。玉は八番の縁を叩き、隣の、何の仕掛けもない白の数字へと転がり落ちた。
船内のスピーカーから、ヴィクトルの忌々しげな舌打ちが聞こえてくる。
「フン、序の口だ。次はどうかな? 欲張って三つ同時に投入させてもらおう」
ヴィクトルの合図と共に、三つの黄金の玉が盤面へ躍り出た。それぞれが異なる周期で回転し、複雑な軌道を描きながら、死のポケットを目指して加速していく。
(ロイス、右のやつは俺がやる。ベル、お前は左を。真ん中の速いやつはロイスに任せたぜ!)
ススが軽やかに地を蹴り、ルーレット盤の周囲にある真鍮の欄干へと飛び乗った。彼は自らの体毛に蓄えた静電気を、一点に集中させて玉へと放つ。
ベルは自身の演算機能を最大まで引き上げ、空気中の分子振動を操ることで、左側の玉の速度を物理的に減衰させていった。
三人と一匹。その完璧な連携は、ヴィクトルの予想を遥かに超えていた。
カジノに集まった乗客たちは、自分たちの命が懸かっているとも知らず、この神懸かり的なルーレットの制御に歓声を上げ、拍手を送っている。




