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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人
灰色の美学

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ルーレットの檻

 クイーン・エリザベス・スチーム号、五日目の夜。船内最大の娯楽場であるカジノフロアは、皮肉にもこれまでで最も華やかな輝きに満ちていた。天井の巨大な真鍮製シャンデリアからは、蒸気エネルギーによって生成されたまばゆい光が降り注ぎ、着飾った乗客たちの宝石をこれでもかと照らし出している。


 しかし、その喧騒の中心に鎮座する、直径五メートルを超える巨大な特別ルーレット盤の周囲だけは、氷のような静寂が支配していた。


 「それにしても、あんな大掛かりな仕掛け、一生に一度もお目にかかりたくない代物ね」


 ロイスは、真鍮の装具を纏った右手を軽く握り込み、単眼のレンズを望遠モードに切り替えた。ルーレット盤の盤面は、希少な黒檀と黄金で装飾されているが、その下層に透けて見えるのは、ヴィクトルが密かに接続した無数の圧力パイプと、不気味に明滅する共鳴デバイスの影であった。


 「ロイス、ベル。私が見る限り、あのルーレットの軸受には超小型の蒸気タービンが組み込まれている。玉が特定のポケットに落ちるたびに、その衝撃がエネルギーに変換され、船の各区画へ配置された毒ガスボンベの弁を開放する仕組みだ。そして最後に三十六番、中央のゼロに玉が吸い込まれた瞬間、ボイラーの安全弁がすべてロックされ、この船は巨大な鉄の棺桶と化す」


 ジェミニは、先ほどススの存在に驚愕した表情を今は騎士の仮面で隠し、冷静に敵の喉元を分析していた。彼の指先は、いつでも懐の精密工具を取り出せるよう、微かな予備動作を繰り返している。


 (おい、ロイス。あの上を見てみな。あいつ、特等席で見物するつもりだぜ。俺たちの絶望を、最高のライティングで撮るためにな)


 ロイスの肩の上で、ススが鋭い爪を立てて天井のバルコニーを指し示した。

 そこには、三脚を捨て、手持ち式の小型撮影機を構えたヴィクトルの姿があった。砕かれたはずのレンズは新しいものに交換され、そのガラスの奥には、狂気と情熱が入り混じった瞳が宿っている。


 「さあ、始めようか、アッシュウォーカー家の探偵諸君。ルールは単純だ。私がルーレットを回す。君たちはその玉が死の数字に落ちるのを防ぐために、あらゆる手を尽くしていい。ただし、物理的に盤面へ触れることは禁ずる。さあ、運命のシャッターを切る準備はいいかな?」


 ヴィクトルの声がカジノのスピーカーを通じて響き渡ると同時に、重厚な真鍮の玉が投入された。

 ガラガラと、運命を削り取るような乾いた音が、フロア中にこだまする。


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