禁忌の知性
科学と騎士の規律を重んじるジェミニにとって、言葉を操る猫は非現実的だった。
「どういうことか説明してくれ。これはきみの発明品か、それとも禁忌に触れた結果なのか?」
「私だって説明してほしいわ。でも、ススはずっと私の美学を理解し、導いてくれるの」
ベルが銀のトレイを掲げ、温かな紅茶を差し出す。
「お二人とも、まずは紅茶を。ススさんの正体は未知の知性体ですが、一つだけ確かなことがあります。彼は、ロイス様の命を守るために最善を尽くす、欠かせない一員であるということです」
ジェミニは深く溜息をつき、カップを手に取った。
「そうだな。昨夜、舵を止める際、私の背中を押したのは確かにこの猫だった。この船には、奇跡が一つくらいあってもいい」
ジェミニの会釈に、ススは満足げにミルクを舐め始める。
「ようやく認めたか、石頭の兄貴殿。だが感傷に浸る時間は短い。ベル、フィルムの解析結果はどうなった?」
ベルが空中にホログラムを投影した。
映像には、五日目の夜のカジノが映し出されていた。
「ヴィクトルは、巨大な真鍮製のルーレット盤を最終的な舞台に指定しています。これを見てください」
ベルが裏側を透過表示させる。そこには大規模な共鳴爆弾と毒ガス噴射装置が仕込まれていた。
「ルーレットの特定の数字に玉が落ちるたび、船内に死の祝福が送られる仕組みです。そして最後の数字に落ちた瞬間、中央ボイラーが臨界点を超え、この船は海に消えるでしょう」
「全員を道連れにする、文字通りの死のギャンブルというわけね」
ロイスの単眼が戦闘モードに切り替わる。
「ヴィクトルの期待に応えてあげようじゃない」
「面白い。その機構ごと私が逆回転させてみせよう」
ジェミニが応える。五日目の夜、華やかなカジノの裏で、世界で最も危険なルーレットが回り始める。
ロイスの装具が、決意に応えるように脈動した。運命の刻限へと、船は針を進めていく。




