予兆と対話
「ロイス、チャンスは一度だ。あの巨大なレンズが全てのバイパスを制御している。あれを叩き潰せ!」
「わかっているわ。あなたが伝えたいことは、これよ!」
ロイスは装具の内部圧力を高めた。
「お兄様、舵を! ベル、一瞬だけ道を開けて!」
「行け、ロイス! 舵は私が死守する!」
ロイスは蒸気の突風を追い風に、真っ直ぐヴィクトルへ肉薄した。
「無駄だ。君の動きはすべて、レンズが予読している!」
衝撃波が迫る。ロイスは空中で軌道修正し、回避した。
「私の美学を、読み切ったなんて思わないことね! くらいなさい、解体開始ッ!」
右拳がクリスタルレンズを撃ち抜く。ガシャァァンと破砕音が響き、レンズ群が力を失った。
「私のレンズが! 記録が、未完成のまま!」
ヴィクトルが絶望に顔を歪める中、船が暴走を始める。ジェミニは舵にしがみついた。
「曲がれ、曲がるんだ!」
船が大きく傾き、隠れ根の岩肌を間一髪で回避した。ヴィクトルは闇へと逃げ去る。ロイスは床に落ちていたフィルムを拾い上げた。
「五日目の夜、カジノで会おう」
そんな彼の声が聞こえた気がした。ロイスは強く誓う。
「絶対に、地獄で終わらせたりしない。私たちの美学にかけて」
船橋の激闘から一夜が明け、五日目の朝が訪れた。ロイスの自室で、ジェミニが真鍮装具の負荷試験を行っている。
「やはり、逆位相振動の影響が少し残っているな。今日の決戦までにこの唸りを消さなければ」
「お願い、お兄様。ヴィクトルのレンズを砕いた時の感触が、まだこの腕に残っているの。悪意を完全に解体するまで、この子は止まれないわ」
足元ではススがフィルム缶を転がしながら、不満げな声を上げている。
(おいロイス、その装具の三番目のボルトが緩んでいるぞ。ジェミニの奴、見落としてるんじゃないか?)
「本当ね。お兄様、三番目のボルトを締め直してもらえるかしら?」
ジェミニの手が止まる。指摘箇所を確認し、驚きに目を見開いた。
「ロイス。きみは、ススの言っていることが分かっているのか? 今のやり取り、あまりに不自然だ」
ススは堂々と喉を鳴らし、ジェミニに向かって前足で胸を叩いて見せた。
(いや、分かるだろう。俺は超優秀だからな。周波数を調整して話ができるのだよ。えっへん)
ジェミニはその場にしばらく固まった。




