毒されたカジノの舞台
その夜、ロイスは自室に戻った。ベルが淹れたハーブティーを一口飲む。
「ベル。あなたのおかげで、今夜も安心して休めているわ。あなたが扉の前に立たず、こうして同じ部屋で寄り添っていてくれるから、私は自分の美学を信じて、残酷な決断も下せるのね」
「お嬢様。形あるものは壊れますが、あなたが守ったハワード夫妻の絆は、ヴィクトルのレンズでも壊すことはできません。わたくしは、その誇り高き決断を隣で見守らせていただけるだけで幸せです」
ベルの言葉にロイスは少しだけ表情を和らげる。だがススが不意に顔を上げ、扉の向こうを凝視した。
(ロイス、油断するな。今、廊下を冷たい風が通り過ぎた。死神が、次の獲物を刈り取る準備を終えたという合図)
四日目の朝。船内は恐怖に支配されていた。中央のカジノフロアでは、十名を超える乗客たちが人形のように座ったまま息絶えていた。彼らはみな、昨夜のジャックポットに拍手を送っていた人々だ。
「同時毒殺。しかもこれほどの人数を一度に」
ロイスが単眼で惨状をスキャンする。ジェミニは現場の機材配置を確認し、犯人の足跡を追った。
「ロイス、見てくれ。犯人は直接、飲み物に毒を入れたのではない。カード配布機の内部に、特定の枚数が引かれるたびに霧状の毒素を噴射する仕掛けが施されている」
ジェミニが噴霧ノズルを突きつける。幸福な期待の動作が、死のスイッチになっていたのだ。
「……ヴィクトル、あいつはカジノ全体を毒殺の劇場に変えたというわけね。ベル、被害者の特定と毒素の分析を急いで!」
「了解いたしました。ロイス様、奇妙なことがあります。犠牲者の顔ぶれを見てください。彼らは全員、昨夜ハワード夫妻のジャックポットに拍手を送り、最も幸せそうに笑っていた者たちです」
(最低の美学だね。あいつは、ロイスが守った光を、さらに大きな闇で塗り潰そうとしている。次に狙われるのは明白だぞ)
ススの言葉と同時に、モニターが船橋を映し出した。船長と総支配人が銃口を突きつけられている。
「おはよう、アッシュウォーカー家の人々。四日目の記録は、この船の中枢からお届けしよう。君たちが守った光を、私は一つ残らず、この暗いフィルムの中に閉じ込めてやる」
ヴィクトルの声が響く。ロイスは真鍮の装具を最大出力に設定し、床を蹴った。
「ジェミニ、ベル! 船橋へ急ぐわよ! 私たちの解体美学が、あいつの歪んだ記録を上回ることを証明してあげる!」
「いいだろう、泥仕合だ。ヴィクトル、お前のレンズを粉々に砕いてやるぜ!」
「ナァァァーーーーン!」
ススの咆哮と共に、探偵たちは赤い廊下を蒸気の突風となって駆け抜けていった。




