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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人
灰色の美学

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止まった永遠の歯車

 三日目の夕刻。クイーン・エリザベス・スチーム号の豪華な客室は、沈黙と不吉な音に包まれていた。ロイス・アッシュウォーカーは、ハワード夫妻から託された金時計、永遠の歯車を見つめていた。


「ロイス、時間は待ってくれないぞ。ハワードの爺さんが一生をかけて組み上げたこの傑作を、私たちの手でバラバラにしなきゃならない。命を救うために、その命よりも大切にしてきた誇りを壊すなんて」


 ススが鋭い爪を立てて警告する。ロイスは唇を噛み、右目の機械式単眼を駆動させた。青い光が時計の隙間に差し込み、ヴィクトルの共鳴起爆装置を暴き出す。そこへ元近衛隊隊長のジェミニが、整備用の道具を手に駆け寄った。


「ロイス、ベル。私が内部の悪意を摘出する。お前たちはハワード夫妻を下がらせて。ハワード殿、申し訳ない。あなたの人生の結晶を、私の指で傷つけることを許してほしい」


 ジェミニの声には騎士としての謝罪と、技術者としての断腸の思いが滲む。ハワード氏は妻を抱きしめ、静かに頷いた。


「構いません、ジェミニ様。時計はまた作れます。ですが、この人と過ごす時間は代えがきかない。どうか、私たちの明日を解体しないでください」


「承知した。ベル、防御障壁を最大出力で展開だ!」


「了解いたしました、ジェミニ様。ロイス様、お下がりください」


 ベルが白銀の腕を掲げると、透明なエネルギーの壁が時計を包む。ジェミニの指先が、心臓部の裏側に潜む悪意の歯車に触れた。


「見えたわ。ジェミニ、その三番目の歯車の軸よ! そこが共鳴の結節点になっている!」


 ロイスの叫びと同時に、ジェミニがピンを突き刺した。キィィィィンという高周波音が響き、金時計から青白い煙が噴き出す。秒針が逆回転し、永遠に止まった。


「終わった。爆発は阻止したよ、ロイス」


 ジェミニが差し出した手のひらには、ひしゃげた時計の残骸がある。命は救われた。だが、それは職人の魂が壊された瞬間でもあった。


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