崩壊の秒針
ヴィクトルは驚く様子もなく、不気味に静まり返っていた。
「いい構図だ、ロイス・アッシュウォーカー。下界の幸福な老人たちを救うために、汚れを知らぬ高みへと昇ってきた英雄。だが、君は一つ勘違いをしている」
レンズから不可視の衝撃波が放たれ、私の足場が粉砕される。間一髪でワイヤーを放ち、ロイスは落下を免れた。
「熱源じゃない、振動だ! ロイス、奴の機材は船の蒸気圧を音に変換している!」
「私の目的は、彼らの死そのものではない。彼らが死ぬ瞬間に放つ、魂の震えだ。そして今、最も激しく震えているのは……君のその、美学に燃える瞳だよ、ロイス!」
その時、階下から蒸気バルブがオーバーロードする巨大な音が響いた。ジェミニがバイパスを逆流させたのだ。
「悪いな!俺の友達を勝手にスピーカーにしないでもらおうか! この船のエンジンが、お前の不協和音には付き合いきれないと言っているぞ!」
爆発直前、ヴィクトルは滑空翼で海へ飛び去った。
「ちっ、エンジニアの介入か。だが、ハワード夫妻の永遠の歯車は、すでに狂い始めている。私が仕掛けたのは、毒ガスだけではないのだよ」
「ナーーーーーーン! 」
(ロイス、戻れ! ベルの方だ!)
ススの叫びに駆け戻ると、時計の内部から不吉な音が響いていた。
「ロイス様、この時計の内部に、マイクロ・ボムが仕込まれています。ハワード氏がゼンマイを巻き上げたことで、起爆シークエンスが開始されました。解除には……物理的な解体が必要です」
「どこまでも悪趣味な男ね、ヴィクトル!」
爆発まであと数分。私は震える指先を時計にかけた。
「やるしかないな。それが、俺たちの美学だ。形あるものはいつか壊れる。だが、命を解体させるわけにはいかないだろう?」
私は単眼で悪意の歯車を捉える。三日目の戦いは、まだ終わらない。




