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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人
灰色の美学

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虚空の盾と白銀の守護者

 標的の姿を捉えたロイスは、すぐさま白銀の守護者へと語りかける。


 「ベル、ターゲットはあの老騎士よ。犯人は、第一の事件で混乱を撒き散らし、第二の事件でこの船の『精神的支柱』を折るつもりだわ。退役したとはいえ、騎士団の象徴である彼が殺されれば、船内の秩序は完全に瓦解する。……美学の欠片もない、効率重視の暗殺術ね」


 ロイスの影から、静謐をまとったベルの応答が耳元に届いた。


 「了解いたしました、ロイス様。これより、ターゲットから半径三メートル以内の空間を、私の知覚ドメインとして展開します。物理的な接触、および熱源探知による狙撃の予兆をすべて遮断いたします」


 ベルの姿が、夕闇に溶け込むように微かに揺らぎ、光学迷彩によってその存在を消した。彼女は音もなく移動し、バルトロメウス卿の背後、数歩の距離に透明な守護者として陣取った。


 その時、船が大きく旋回を始めた。予定の航路通り、かつての流刑島……周囲を切り立った断崖に囲まれた、通称「処刑台の島」の海域へと差し掛かったのだ。この海域は特殊な磁場と海流が複雑に絡み合っており、一時的に無線通信や外部への信号が遮断される。ロイスの肩で、ススが周囲の気配の変転を感じ取り、鋭く爪を立てた。


 (……来たね。通信の空白、そして視界の悪化。暗殺者にとっては、これ以上の舞台装置はない)


 ススが耳をぴんと立て、風の音を聞き分ける。カチリ、という小さな、しかし硬質な機械音が、上層デッキのさらに上、船の排気煙突の影から響いた。ヴィクトルは、撮影機材の一部をスライドさせ、三脚の支柱に隠されていた真鍮製のトリガーを握っていた。彼のカメラは、いまや高圧蒸気を推進力とする、超高精度サイレント・ライフルへと変貌している。彼はレンズ越しに、バルトロメウス卿の首筋、その脊椎の継ぎ目をじっと見据えていた。


 「……記録開始だ。英雄の没落、その瞬間こそが、私のフィルムを完成させる! 」


 ヴィクトルがトリガーを絞ろうとしたその瞬間、彼の視界を、眩いばかりの銀色の閃光が遮った。


 「何っ!?」


 予期せぬ光に、ヴィクトルは思わず声を荒らげる。バルトロメウス卿のすぐ隣、虚空から現れたのは、白銀の腕を掲げたベルだった。彼女の手には、ロイスの美学に基づいた鋼の盾が展開されており、ヴィクトルが放った見えない蒸気弾を、火花と共に弾き飛ばしていた。


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