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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人
灰色の美学

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レンズの向こうの狩人

 ジェミニの分析を聞いたロイスは、すぐさま通信回線を開き、もう一人の優秀な仲間に指示を飛ばした。


 「ベル、客船のコンシェルジュ本部にハッキングを仕掛けて。昨夜、この談話室に隣接する廊下の蒸気圧センサーに異常がなかったか、一秒単位で解析してちょうだい。それと、船内の全乗客の荷物検査記録の再照合もね」


 涼やかな声が、耳元の通信機から即座に返ってくる。


 「承知いたしました、ロイス様。すでに船内回線への侵入は完了しております。……興味深いデータが出ました。昨夜午前二時十四分、この談話室周辺の蒸気圧がコンマ三秒だけ急激に低下しています。これは、高出力の外部デバイスが、船の動力パイプからエネルギーを一時的に奪った形跡です」


 ベルの言葉に、ロイスは不敵な笑みを浮かべた。犯人は、この巨大な豪華客船の動力を、自らの暗殺道具の補助電源として利用したのだ。それは、この船の構造を熟知し、かつ自身の存在を記録者としてカモフラージュしている者にしか不可能な芸当だった。ロイスの脳裏に、ある人物の姿が浮かび上がる。


 (撮影技師、ヴィクトル……。彼が抱えていたあの巨大なカメラ、あれはただの光学機器じゃないな。船の蒸気プラグに直結できる、多機能型の解体ユニットってところか……)


 ススの思考が、ロイスの直感と重なり合った。ロイスは立ち上がり、ドレスの裾を払うと、まだ事件の全貌を隠蔽しようと右往左往している総支配人のエレナに向き直った。


 「エレナ支配人、この事件は私が引き受けるわ。名誉市民としての権限と、探偵としての美学にかけてね。……犯人はまだ、この船の中に紛れている。それも、レンズ越しに私たちの混乱を、最高の一枚として切り取ろうとしているわ」


 その頃、船上四階の展望デッキでは、撮影技師のヴィクトルが、三脚に固定した巨大な真鍮製カメラを弄っていた。彼の指先は、恋人の肌を撫でるようにしてレンズのピントを合わせている。そのレンズが向いている先は、美しい水平線ではなく、パニックに沸く三階の談話室の窓だった。


 「……いい絵だ。悲鳴、混乱、そして死という究極の静止。ロイス・アッシュウォーカー、君がどう解体してくれるのか、私のコレクションの一部として、しっかり記録させてもらうよ」


 ヴィクトルの瞳は、冷たい硝子玉のように無機質な輝きを放っていた。彼の背後にある機材バッグからは、微かな蒸気の漏れる音が漏れていた。それは、暗殺組織『沈黙の天秤』が開発した、最先端の記録兼解体兵器の排気音であった。


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