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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人
灰色の美学

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72/110

第一楽章、引き裂かれた鎮魂歌

 翌朝、二日目の太陽が水平線から、血のように赤い光を放って昇ったとき、悲劇は無慈悲に幕を開けた。

 三階のダンスホールに隣接した、静かな談話室。

 そこで、マダム・ルノアールの愛弟子である、前途有望な若き音楽家が、変わり果てた姿で発見されたのである。


 ピアノの弦によって、首筋を無惨に、しかしどこか芸術的にさえ見える手際で絞殺されたその死体。

 悲鳴と怒号が響き渡る中、ロイス・アッシュウォーカーは、パニックに陥る野次馬を冷静にかき分け、死体の前に立った。


 彼女の単眼が、不気味な青い光を放ちながら高速で回転を始める。

 現場の状況を瞬時に分析し、彼女は唇を歪めて笑った。


 「バカンスはこれでおしまいみたいね。招待状をくれた皇帝陛下には悪いけれど。さあ、この見苦しくて美学の欠片もない殺人事件を、ネジ一本残らず徹底的に解体してあげましょう!」


 紺碧の海を、白い飛沫を上げて突き進む豪華客船は、死の調べと共に、逃げ場のない巨大な密室へと変貌していった。

 船の揺れに合わせて、被害者の傍らに落ちていた楽譜が、ひらひらと虚しく舞う。その一枚に記されていたのは、未完成の鎮魂歌であった。


 ロイスはそれを拾い上げると、単眼のレンズを極小まで絞り込み、紙面に付着した目に見えないほどの塵をスキャンした。


 「ベル、この部屋の入退室記録と、昨夜の各フロアの蒸気圧変動データを照合して。犯人は、この広大な船を一つの巨大な楽器として利用した可能性があるわ」


 その言葉を受け、ベルの瞳に淡い光が宿る。


 「承知いたしました、ロイス様。これより、私の演算能力を事件の解明に全振りいたします」


 ジェミニもまた、アッシュ・キャリアーの駆動音を響かせ、臨戦態勢を整える。

 物語の歯車は、再び激しく回り始めた。


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