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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人
灰色の美学

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偽りの輪舞曲

 夕刻、船長のアーサー・V・カスピアンによる艦内アナウンスが、全層のスピーカーを通じて重厚に響き渡った。


 「紳士淑女の皆様、処女航海へようこそ。我々は今、時計回りにネオ・ロンドニウムを一周する、未知なる感動への旅路に出航いたします。今夜は大食堂リヴァイアサンにて、盛大な晩餐会を開催いたします。どうぞ、この美しい夜をお楽しみください。海は、すべてを許し、すべてを飲み込んでくれるはずです」


 晩餐会の会場は、新興貴族や退役騎士、高名な海洋気象学者たちで埋め尽くされていた。

 ロイスは、いつもの成金貴族のような傲慢な振る舞いを演じながら、扇子の陰から密かに乗客たちの顔ぶれを記憶回路へと刻み込んでいた。


 その中には、巨大な真鍮製の撮影機材を後生大事に抱えた、物静かな男、ヴィクトルの姿もあった。

 彼はカメラのレンズを磨きながら、ロイスたちと目が合うと、深々と、しかし一切の感情が読めない不気味な一礼をしてみせた。


 その男を見た瞬間、テーブルの下にいたススの毛が逆立った。


 (あいつだ! あの機材、レンズの奥から感じる視線が、単なる記録者のそれじゃない! 獲物を仕留める瞬間の歪んだ悦びを待っている、冷たい硝子の瞳だ! )


 (おい、ロイス。あいつには近づくな。死の匂いがこびり付いている)


 ススは、テーブルの下で細く鋭い爪を剥き出しにし、ヴィクトルの足元をじっと睨みつけた。


 その夜、宴は最高潮に達し、人々は青空の下の自由を祝して、黄金のシャンパンで何度も乾杯を繰り返した。

 しかし、ロイスの肌は、心地よい熱気の中でも奇妙な予感に粟立っていた。

 この豪華絢爛な船のどこかで、誰かが自分たちの、あるいは誰かの死を、求めてやまないような気配を。


 「ジェミニ、ベル。今夜は少し、寝心地が悪そうね。潮の満ち引き以上に、不純なものが混ざっているわ」


 ロイスの呟きは、絶え間なく溢れるシャンパンの泡の音と、華やかなワルツに虚しく消えていった。

 不穏な夜の帳が、彼らを深く包み込んでいく。


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