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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人
灰色の朝

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宿命の解体屋、その先へ

 黄金の塔が呻きを上げ、白煙を吹き出す。アッシュ・キャリアーの荷台で、ロイスは乱れた金髪をかき上げ、不敵に笑った。


 「ジェミニ、スピーカーの回線は? ベル、ジャミングを叩き潰して! 今この瞬間から、この街の耳は私たちがジャックするわ」


 ロイスは愛猫ススの頭を撫で、機械式の右目をカチリと戦闘モードへ切り替える。


 「……美学のない沈黙を、私たちの咆哮で解体してやりましょう! この街の空気を、人々の手に取り戻すのよ!」


 だが、その行く手を巨大な鉄の壁が阻む。都市制圧用重機兵、アポカリプス・ギヤ。その頂部で、機械に身を埋めたランドルフが、獣のような咆哮を上げた。


 「アッシュウォーカーッ! 我らの百年の計画を、黄金の秩序を汚した罪……貴様らという不純物を、分子レベルで握り潰してやる!」


 助手席のススが、琥珀色の瞳を細めて低く喉を鳴らした。


 (やれやれ、醜いものだ。秩序だの計画だのと、結局は自分が握っている首輪を他人に付け替えたいだけのくせに。……おい、ロイス。さっさとあのデカブツをバラバラにしな。俺の鼻が曲がる前にね)


 ロイスの左腕に、ススの闘志が熱い共振となって伝わる。


 「ランドルフ、あなたの言う秩序なんて、ただの錆びついた束縛よ。本当の秩序っていうのは、誰もが等しく、同じ青い空を見上げられる透明な美学のことだわ!」


 その時、白銀の影が屋根へと躍り出た。ベルの凛とした声が響く。


 「ジェミニ様、全出力を私へバイパスしてください。……これより、領域解体ドメイン・バーストを執行します」


 「無茶を言うな、ベル! また回路が焼き切れるぞ!」


 ジェミニの悲鳴を余所に、禁忌のレバーが叩き落された。ベルの装甲から青色の超高圧水蒸気が溢れ出し、真鍮の翼となって展開される。


 (……ほう、あの光の色は……最高に美しい景色だ)


 ススが見守る中、ベルは空を蹴った。激突、そして崩壊。黄金の装甲が砕け散る中、ベルの剣先がランドルフの首元にピタリと止まる。


 「な、なんだこれは……。私の、私の黄金の秩序が、ただの水に流されていく……。あり得ん、こんなことは認めんぞ……!」


 ランドルフは、すべての駆動力を失い、ただの真鍮の残骸と化した重機兵の操縦席の中で呆然と呟いた。


 「……あなたの罪も、この雨が洗い流してくれれば良いのですが。残念ながら、私にはそのような非科学的な慈悲はプログラムされておりません」


 ロイスは、キャリアーのコンソールを叩き、街中のプロジェクターを強制起動させた。


 「ネオ・ロンドニウムの皆さん、よく聴いて! 今崩れ去ったのは、あなたたちの喉を締め付けていた、偽りの支配体制よ!」


 雨が降り始めた。煤煙に汚れた黒い雨ではない。月光を浴びて宝石のように輝く、清浄な真水の雨。


 「エドワード・メイソンが遺した、本当の浄化理論……いま、私たちが解放するわ! これが私たちの、最高に美しい報酬よ!」


 夜明けの丘。アッシュ・キャリアーの傍らで、ジェミニは静かに涙を浮かべて空を見上げていた。ベルは雨に洗われた装甲を輝かせ、ロイスの隣に静かに佇んでいる。


 「……なんて穏やかで、なんて美しい空かしら。私の美学をもってしても、ただの『青』としか言えないなんて。最高の敗北だわ」


 膝の上で眠るススが、夢見心地に喉を鳴らす。


 「ナオーン。(……ふん、まあ、悪くない。これだけ空気が美味ければ、たまには外で昼寝をしてやる。……さあ、ロイス。次の事件は何だ? まだ解体されるのを待っている真実が、山のようにあるんだろう?)」


 ロイスは空に向かって、快活に笑ってみせた。


 「ええ、そうね、スス! 宿命の解体屋に、休んでいる暇なんて一秒もないわ。……さあ、アッシュウォーカー探偵事務所、本日も晴天なり。さあ、開店よ!」


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