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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人
灰色の朝

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鋼の盾と地下の聖域

 ロイスは単眼のスキャン機能を最大出力まで引き上げた。削られた跡に残る微かな真鍮の粉、そしてシリンダーの回転速度から、失われた旋律を脳内で再構築していく。


 「解析完了……。場所は旧市街、三番区の地下下水道、第十四排気塔の直下よ」 


 「よし。ベル、出動準備だ。少年の護衛を最優先しろ」


 「了解いたしました、ジェミニ様。少年の安全は、この鋼の守護者が保証いたします」


 一行は旧市街の地下へと向かった。だが、目的地である排気塔の周囲には、新興貴族バートン家の警備オートマタたちが蠢いていた。


 「ヴィクターが消えても、ハイエナは後を絶たないわね」


 ロイスが左腕を軽く回すと、ベルが静かに前に出た。


 「ロイス様、ジェミニ様。ここは私が食い止めます。お二人は奥へ。……排除を開始します」


 ベルの銀の剣が閃光となって闇を切り裂く。最新型の機兵たちが、次々と真鍮の残骸へと変わっていった。その隙に、ロイスたちは地下の隠し工房へと辿り着く。


 「ここよ。この扉に、オルゴールを」


 ジェミニが修理したオルゴールをセットし、ゼンマイを巻いた。奏でられたのは力強い子守唄。しかし、削られた箇所でメロディは無残に途切れてしまう。


 「ダメか。削られた振動までは、完全には再現できない!」


 「いいえ、まだよ! 私の腕に残った光は、失われたものを補完する力でもあるわ。……少年、一緒に歌って! お父さんの歌を!」


 ロイスの左腕が淡い光を放ち、少年の歌声が重なった。二人の意志が、途切れていた旋律を完璧な和音へと変えていく。


 やがて重厚な扉が十年の沈黙を破って開かれた。中にあったのは、一本の記録結晶と、青い液体が満たされた小さな瓶だった。


 『……ジェミニ、もしこれを聴いているなら、俺の賭けは半分成功だ。……この瓶の中にある触媒を使えば、街から煤煙は消える。息子よ、お前がいつか見る空は、本当の青色であってほしいんだ……』


 浮かび上がった父親のホログラムに、少年は声を上げて泣いた。ジェミニは無言で、親友の姿に向かって拳を胸に当てた。


 「宿命を解体した後に残ったのは、こんなに眩しいプレゼントだったわけね」


 ロイスが優しく呟き、少年の肩を抱いた。外では戦いを終えたベルとススが待っていた。


 「事件解決ね、ジェミニ。報酬はどうする?」


 「決まってるだろ。報酬は、この街の空が青くなったとき、一番最初に報告に来ることだ。それまでは、このオルゴールはお前の勇気の証明として、俺がメンテナンスしてやる」


 少年は、泣き笑いの表情で何度も頷いた。


 「ナァーン」


 ススが満足げに喉を鳴らす。


 「さあ、帰って美味しい紅茶を淹れましょう、ベル」


 真鍮の探偵たちの足跡は、錆びついた街に、新しい希望の音色を刻んでいった。


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